火星の子 ~部活~

 正直、怖かった。机を4つくっ付けて囲むように座っているが、回りには女の子しかいない。しかも、それぞれが個性に溢れ、顔はまるで、一国のお姫様を思わせるかのように整っている。そんな中に、どこにでもいそうな、普通のゲーマーの男が一人でいるのだ。自己紹介の時は、態度を大きくしてどうにか自分を保ったが…今回からはそう上手くは行かなくなってくる。とはいえ、部活には入ってしまった…どうにかしてこの状況に慣れて一刻も早く「女子恐怖症」を克服するしかないだろう…。まずは、話すことから始めるとしよう。 「今日は、何のゲームをするんだ?」声が震えた。あー駄目だ。緊張する。声が震えたのが自分でもわかる。

 「今日はトランプを使って、ババ抜きをするんですよ。大人数でやるのは楽しいですから。あ、宇佐美さんはカードを切って配ってください。ちゃんと、バラバラになるようにイカサマができないようにしてくださいよ。」優しい声を発したのはレダだった。「わ、わかってるよ」少し動揺してしまったが、レダが「フフフッ」と小さく笑うだけで、周りは気にしていない様子だった。

 ババ抜き。ルールは簡単だが、もの凄く頭を使う。相手の様子を伺いながら、手札からカードを抜いていく。もし間違えてババを抜いてしまったら…。さて、カードは切ったし、配るのも終わった。順番はカードを配った俺から時計回りに[俺→ヘラ→ウラノス→ヘルメス→メティス→デメテル→レダ]の順番だった。手札を見て、数が同じものを一組ずつ捨てるのだが…。駄目だ。捨てられるのがない。大人しく、周りが終わるのを待っていると…、

 「あ、手札もうないや。やったぁ…1抜けだよぉ…それじゃあ、おやすみぃ~。」と眠たそうな声をあげ始まってもいないのに抜けたのはデメテルだった。寝袋に手が出るように穴が開いていて、そこから手を出しやっていたようだがその手はもうしまわれ、完全に机に突っ伏している。寝る準備万端。デメテル恐ろしい子。俺も負けていられない。

 「さて、始めるとしよう。」最初にカードを引くのは誰がババを持っているかは分からない。取り敢えず、ヘラからカードを一枚引くとしよう。カードを引くとそこには、不思議な格好をして不適に笑う、ピエロが書いてあった。そう、ジョーカーだ。何てこった。しかし、ヘラが次の人のカードを取っても、何にも変わらない…。とおもっていたら、そんなことはなかった。三枚だった手札が二枚になっているではないか。…そう甘くはないと言うことか…。

 …と思っているうちに、ウラノスが抜けた。どうやら、初期の手札が二枚だったようだ。「ま、当然ですわね。」と気取っていると、「はい、終了。」ヘルメスがクールに抜けを宣言した。ウラノスと違い、落ち着いてる。普通にイケメン。かっこよすぎかよ!とか思ってるとまた声が上がった。声の主はメティスだ。「おやおやおやぁ。私も上がりのようですよ。負けてしまった人は私にその身を献上してくださいねぇ~。」そんなルールは無い。皆がそんな顔をした。

 さて、とうとう俺のカードが引かれる番だ。「私が宇佐美さんのジョーカーを引けば私は負け宇佐美さんが勝ちます。だけど、私がジョーカーを引かなかった場合は負け。だけど、…ねぇ、ごめんね。お姉ちゃんにも勝たなきゃいけない戦いがあるの。」と勝利宣言をすると、ジョーカーではない方を引いた。そして上がった。その口はニヤけているように見えるが、きっと微笑んでいるだけだろう。

 俺のカードは二枚。対するヘラのカードは…一枚!これはもしかして…「負けゲーだ。」他に気をとられヘラのカードの事を忘れてた。ヘラのカードを引く。クイーンが二枚揃ったが、負けた俺を煽るかのようにジョーカーがこちらを見ている。「ふふん。残念だったね宇佐美くん。君の敗けだ。さて、それじゃぁ罰ゲームを決めようか。」待ってました!と言わんばかりに、皆(デメテルを除く)が紙に文字を書き始めた。罰ゲームは紙(カード)に書いて、半分に折り箱に入れおみくじのようにして決める。

 とうとうその時が来た。周りはそわそわしているが俺は全身の毛穴から汗が噴き出してきている。ここの女の子たちだ。どんなことを書いてもおかしくはない。箱から紙を一枚取り出す。半分に折られた紙を開く手が震える。紙に書かれた言葉は…。

 『身体縛って吊し上げ一時間。縛り方。格好は問わない。』

誰だよ!こんなの書いたの!てか、女かよ。予想はしてたけどここまでとは…。「宇佐美くん。何て書いてあったか読んでよ。気になるでしょ?」レダが目をルンルンさせて聞いてくる。「身体縛って吊し上げ一時間。縛り方。格好は問わない。だってよ。」言っていても恥ずかしかった。「そうなの!じゃあ、早く縛り方決めないと!どんなのがいい?」殴りたいこの笑顔。そう思っていると、「じゃあ、亀甲縛りで、動けなくするのはどうですか?宇佐美さんも嬉しいと思うんですよ。」お姉さん。そんなことは微塵も思っていませんよ。と思っていると、「うん。それでいいかもね。善は急げって言うし。早速、始めようか。」

…抗っている暇はなかった。あっという間に女の子達に、亀甲縛りで吊し上げられた。「部活初日でこんなになるとは…。」皆満足そうににこちらを見てくる。「いや~宇佐美さん。いいですよ。まるで生まれたての小鹿ちゃんのように震えちゃって。可愛いですよ。とっても美味しそうですよ。食べられたいんですか?私が食べてさしあげましょうか?」メティスが上機嫌に話しかけてくる。「いや、遠慮しとくよ。」本当に食べられそうで恐ろしかった。「それにしても、えげつない考えね。一体誰が考えたのかしら…」ヘルメスが口を開く。確かにそれは気になっていた。

 「私です。どうしても宇佐美さんの恥ずかしがる、可愛いお顔が見たかったもので…。ババ抜きで負けることもできたのですが欲望には勝てませんでした。そして、宇佐美さんに私が書いた紙を引いてもらうため、他の人より多く三枚書かせてもらいました。それにしても…はぁ、…たまりませんわ…。」そんな恐ろしいことを話したのはお姉さんことレダだった。まさか腹黒いなんて…笑顔の裏にはそんな考えが有ったとは思いもしなかった。そして見せ物になるだけの一時間が過ぎていった…。

 帰り道。「はぁ…。」思わずため息をついてしまった。今日だけでこんなに疲れた気がする。「大丈夫?宇佐美くん。」心配しそうに、ヘラが話しかけてくる。「はっは、冗談はよしてくれ。楽しかったけど後味は悪かったよ。」嘘は言っていない。「ごめんね。だけどうちはあんな感じでやっていくから。付いてきてよ!もしやめたら許すさいないか。嫌なことが少し有ったかもしれないけど宇佐美くん少し変わったよ。だって、緊張が診られないもん。それに私と普通に話せてるし。良いこともあるよ。ね、明日も頑張ろ?」「おうよ!」確かに。全く緊張しない。まぁ、良かったのかな?

 そして今日の一日が終わった。明日も頑張ろう!

 

 《日付》4月23日 今日は初めての部活だった。どんなものかと思っていたが、まさか吊し上げられるとは。途中、レダにお腹を擽られたのはキツイものがあった。こんなのも悪くないと思う自分がいるのが少し怖かった。でも、皆と話せるようになったから良いかな?

 明日も学校だ。明日の授業は『完全変態と不完全変態』についてやるらしい。初めて聞く言葉だから凄く気になる。部活では取り敢えず、勝つことを目標にしよう。 《終》

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