火星の子 ~学校~

「…小さい。」

 思わず言ってしまった。学校が、すごく小さい。二階なんてものはなんてない。平屋だ。学校なのに平屋だ。スーパー平屋だ。だけど、校庭は、馬鹿みたいに広い。もうこれは、学校メインではなく、校庭メインになってしまっている。横幅も縦幅も、メートルなんて単位のレベルじゃない。これは、キロメートル単位のレベルだ。彼女があれだけの速さで走るのにも納得がいく。地面はサッカーコートの様なものがはじっこにちょこんとかいてあるだけで、それ以外は何の編鉄もないただの砂利だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。取り敢えず、職員室にいこう。


 トントン 「失礼します。今日から子の学校に通います。宇佐美です。あの、私の先生はどちらでしょうか?」っと言っても、先生と思われる人は、5人しかいない。しかも、全員人ではない。『怪物』…っと言っては失礼だが、怪物だ。まぁ、正直この時代、人がいることも結構珍しかったりするのだが…。

 「あら、おはよう。あなたが宇佐美くんね。私はあなたの担任の『バアル=バエル』です。ちょっと、見た目にインパクトがあるかもしれないけど、宜しくね。」

 バエルと名乗るその女性は青白いはだをしている。上半身は人間だが、舌が蛙の様に延び縮みしていて、下半身は蜘蛛だ。その足は細くちょっとした色気を感じさせる。頭には、王冠をちょこんと乗っけた可愛らしい黒猫が乗っている。

 他には海の悪魔と言われる『スキュラ』や、頭が鹿になっている「フールフール」、牛の角を持った悪魔の「ハーゲンティン」。もう一人機械でゴタゴタしてるやつがいるが、床からは頭だけが出ていてそれ以外は地面にめり込んでいる。一体どれ程の大きさなのだろうか…。

 「それじゃ、クラスへ行きましょ…っと言っても、学年一まとめにしちゃったんだけどね。君より小さい子もいるし大きい子もいるから、それとクラスに男子は君だけだよ…まぁ、中性的な子もいるけど。…あ、見えてきた。ちょっと騒がしいけど。私が先に教室に入るから、そのあとに付いてきて。」

          

 「おはようございます!さあ、皆が嫌いなホームルームの時間ですよっと言いたい所ですが、今日のホームルームは少し違います。…さ、宇佐美くん。入ってきて。」

 カツカツと音を立てて黒板に自分の名前を書いていく。「宇佐美 空です。好きなことはゲーム。頭に関してはここにいる人たちよりは、まぁ、いいんじゃないかなって思ってる。取り敢えず宜しく。」教室はざわついた。ちょっと大きい態度を取ってみた。正直怖かった。なんせ男がいない。俺しかいない。まともに話せる女がママしかいない俺に女の大群(少数)に立ち向かうには自分を大きく見せるしか無いのだ。

 バエル先生が手を叩いて教室が静けさを取り戻すと「宇佐美君に一人一人自己紹介をかねて質問を一個しましょう。」と勝手に話を進め始めた。『止めてくれ…まだ心の準備が…!』っと思っているうちに、ガタッっと音がした。

 「『マーキュリア=ヘルメス』です。好きなものは、かき氷。あなたへの質問は…う~ん、じゃぁ逆に、私に何か聞きたいことある?」

 「え、…。」初っぱなから変なこと聞かれた。まぁ、きっとこの子はこういう子なんだと思い質問に答えた。「じゃあ、俺の第一印象を教えてくれ。」「引きこもり」即答だった。「ですよね~。」いや、わかってはいたんだけど、気になるじゃん自分のそういうの。俺、わるくないもん!

 「ヘルメスさんありがとうございました。さぁ、ヘルメスさんが先駆けを切ってくれました。ここからは、一人終わった次でどんどん行きましょう!あ、でも委員長は最後で。さぁ、積極的に行きましょ…。」ガタッ!先生が言い終わる前に全員が一斉に立った。立ったのはほぼ同時でも口を開くのは違った。自己紹介をするのは…。

 「『アフロディーテ=メティス』です。メティスって呼んでください。好きなものは、カース·マルツゥです。あ、カース·マルツゥって言って判ります?判らなかったら後で分けてあげます。美味しいんですよ。次は…あ、質問ですね♪う~ん、そうだな~じゃあ、好きな食べ物は何ですか?」

 好きな食べ物。簡単なようで難しい質問。食べ物の好き嫌いなんて、気分で変わるものだ。そんなことを聞いてくるなんて、この女、頭悪いのか?と、思ってしまうのは仕方のないことだ。まぁ、今食べたいものを答えればいいか。

 「お饅頭。」彼女は食いつくように答えた。

 「お饅頭、お饅頭、…おまん……、!!。はわぁぁぁ~宇佐美さんって意外と大胆で破廉恥なんですね。あーどうしましょ。これじゃ私……。」

 「いやいや、そんなわけないでしょ!」止めに入る。周りからの視線がちょっと痛い。こんなんになるなら真剣に考えて答えればよかった。

 教室に沈黙が訪れる…。辛い…。そんな沈黙を切り裂くかの様に、椅子を引く音が聞こえるた。ナイスフォロ―。良かった。助かります!

 「『ジュピルス=レダ』です。レダって、呼んでもらえれば嬉しいです。好きなことは、植物の面倒です。聞きたいこと、…そうですねぇ…じゃあ、お姉さんは好きですか?」 …なんだその質問。意味が解らん。いや、正確には『何故それを聞いたし』となっている。他に質問はなかったのだろうか。まぁ、見た目は…お姉さんだな。たぶん身長も俺より数センチ高いだろう。どう答えよう。俺がプレイするゲームは妹物ばかりだ。正直に普通と答えるのも気が引ける…仕方ないここはお世辞でも好きと答えておこう。

 「好きだ。寧ろ一番好きだ。」ちょっと盛りすぎた感はあるがいい答えだ。満足していると…。

 「ハァ……ァ…。グスン…。う、…うれ…し…嬉しいです。私、嬉しいです!お姉さんでいいんですね!はぁ~、良かった。」

 …泣いてる。でも…、可愛い。お姉さん可愛いです。可愛いぎて、妹から転職してしまいそうです。そんな感情に浸っていると、次の椅子の音が聞こえた。

 「『アースリア=ウラノス』です。ウラノスて呼んで頂戴。趣味は…、ペットの世話だ。亀を飼ってるの。頭がいいしとっても可愛いのよ。後で見してあげるから、楽しみにしてて!そうだ、あなたは何か飼ってたりするの?」

 動物。飼ってないことはない。ドワーフラビットを三十七羽飼っている。それ以外には…父親だろうか。まぁ、あれは頭は烏だけど、身体はヒトだし…難しいな。取り敢えず今日は父親というカウントの中に含めておこう。

 「いちよう、ドワーフラビットを三十七羽飼ってるけど…。」食いついた。あからさまに目の輝きが変わった。視ていなくても判る。これは、目を合わせてはいけないやつだ。 

 ガッタン。 椅子を引く音ではなく椅子が倒れる音がした。ナイスだ! 

 「『サターデ=オクト=デメテル』。デメテルって呼んでくれればいいよぉ。好きなことは…何だろぅ?解らないやぁ…。君への質問かぁ…考えてなかったなぁ…まぁいいかなぁ、それじゃぁ、おやすみぃ~。スースー。」

 …いや、困るんですけど。名前以外判らないんですけど…まぁいいかな?後で聞けばいいし。さて、次で最後か…ここまででも結構疲れてるんだけど…残るはあの子か…って、まさかな、そんなことがあるとは!

 「おはよう、今朝会ったね。『マーズ=ヘラ=マルス』です。ヘラって呼んで。マルスではあまり呼ばないで欲しいかな。男の名前だから…。ま、いいや。で、好きなことか…そうだな~あ、テーブルゲームとかかな?それじゃあ、君に質問。運動ってできる?」

 可愛い顔して、恐ろしいこと聞いてきやがるこの女。無理だ。運動何て大嫌いだ。縄跳びだって十回跳べればいい所だろう。「無理。全然できない。」

 「あ、…そうなのね。ふーん。嫌なこと聞いちゃったかな?すまないね。」「いや、いいんだ。あまり気にしてないから(嘘)。」

  「さて、自己紹介は終わったようですね。それじゃ、一時限目に入りましょう。あ、宇佐美くんの席はヘラちゃんの隣だから。」と言うと、バエル先生は教科書を取り出して、チョークで文字を書き始めた。

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