第13話 好きになってはいけない二人が惹かれあうお話
世界一の国土を誇る大国、L-ルシア
軍事力も世界有数であり、王政をとっているこの国には一人のお姫様がいた。
名はシエル。 シエル・エル・ルシア
王族特有の蒼い瞳が綺麗な少女。腰の下まで伸びた美しい黒髪は姫の象徴であり、その美貌は他国の王子にまで伝わるほどだった。
彼女は、お城の外に出たことが殆どなかった。
たまの公務の際に護衛付きで外に出たことがある。
だが外では分刻みのスケジュールに縛られつづけられた。
風土のせいか、いつも出かけるその日は曇り空だった。
「誰か、私をここから連れ出してくれないかな・・・」
それは一人の少女のささやかな願いだった。
☆ ☆ ☆
乱世の世、国内に諜報員や工作員が入ることは日常茶飯事だった。
現にこの城の中にも、第2軍の副隊長は軍事大国F-ランスの元兵士だし、国内評議会の議員は技術大国G-エイツのメンバーが2人ほど紛れ込んでいる。
かくいうこの俺も隣国サムライJのレンジャーだ。
我が国は時間のかかることやまどろっこしいことはしない。
国の内部に潜み侵略していくのではなく、要人をさっさと暗殺してそれで終わりだ。
見つかったら俺なんて言い訳をする間もなくその場で首をとられるだろうな。
まあいい。今回の任務はシエル姫の誘拐。
誘拐が難しい場合は頃合いを見て暗殺しても構わない、とのご命令だ。
「しっかし、簡単に城内に侵入できたものだな。」
他国にはスパイはいても忍のような組織はないと聞いていたが、本当だったらしい。
もしくは城内は絶対安全だとタカをくくっているかだな・・・
そんなことを考えてる時だった
「残念だったな、JAPANのサムライよ。」
後ろから声がした。
振り返る、間に合わない、
ザシュっ
「・・・貴様、城内の兵士か?」
相手の顔を見る・・・小柄な男だ。ルシアの国のものではない。それに、あの短剣・・・
隣国にして最大の人口をもつ大国、華清の者か。
「姫様は我が国がいただく。お前はここで死ぬんだな。おチビさん。」
切られた右腕が動かない・・・毒か。
だが問題ない。1対1なら片腕あれば絶対に負けない。
「ふっ・・・華清の犬が。JAPANの忍を侮るなよ・・・!」
☆ ☆ ☆
夜。
「―♪」
中庭にシエル姫のシルエットがあった。
月明かりのある日、この日の夜が私の唯一の楽しみだ。
城をこっそりと抜け出して、中庭を散歩する。
何故内緒にしてるかって?だってこんなことバレたらお父様たちに怒られちゃう。
「あーぁ、誰かこの壁の向こうへ連れて行ってくれないかなぁー」
ガサッ
シエルはびくっ!っと驚いた。
鳥かしら?夜中に茂みが揺れたら誰だって驚くわよ。
しかし鳥ではないようで、おそるおそる、しかし興味津々と少女は茂みへと近づいていった。
もう一度、今度はわっ!と驚いた。
そこには、同い年くらいの少年が倒れていた。
「・・・ねぇ、君。大丈夫? こんなところで寝てると、風邪ひいちゃうよ?」
なんともとぼけたことを言うものか。そんなこと彼女は気にしていない。
「う・・・うぅ・・・」
少年は冷たい獣のような目で少女をにらみつけた。
「な・・・なによあなた・・・」
シエルはそのむき出しの敵意を、怖い、と感じた。
夜ということもあって恐れは恐怖へと昇華した。
だが彼女は引かなかった。これも姫たる所以か・・・
「・・・!あ、あなた血が・・・!大丈夫?!」
シエルがそっと手を差し伸べる。
少年はその手を取ることも、払いのけることもできなかった。
「さ、触るな・・・!」
っ!
人に向けた好意を拒絶されるのは姫にとって初めての出来事で、深く傷ついた。
「神経・・せいの・・・どく・・・だ。触るな・・・」
・・・毒?
そうか、この人は私を拒絶したんじゃない。
こんなに傷つきながらも、私を守ろうとしてくれたんだ。
「っ俺に・・・構うな・・・! 行け・・・!」
シエルは震えながらも、倒れている少年を10秒ほど見つめ、
そして城の中へと走って戻っていった。
☆ ☆ ☆
・・・嗚呼、情けない。
動けない。ここで、死ぬのか。
捕らえられたらどうなるのだろう。やはり極刑か。
姫は綺麗な人だったな。俺と同い年くらいだろうか。
人を疑うことなんて知らないような、お人形みたいなやつだったな。
走る足音が聞こえた。
あいつが衛兵でも呼んだんだろうか・・・
・・・ちがう。足音が、歩幅が、子供のものだ。
目を向けるとそこにはさきほどの少女がしゃがみこんでいた。
☆ ☆ ☆
「ね、ねえっ! 腕を見せてよ!」
「・・・」
倒れた少年はしゃべらない。
「あ、あのね、これ!薬なの!急いでもらってきたんだよ!」
抵抗がないことをいいことに、シエルはこの子の看病をしようと思った。
瓶のふたをえぃっと開けて、右手の小指と薬指でこれでもかと塗り薬をとり、彼の腕の傷へと塗りたくった。
そして今度は彼の頭を持ち上げる。
重たい、だが起こさなくてはと、彼女は膝の上に頭を乗っけることにした。
膝枕だ。
そして口元の布をどけて、口をあけさせ、粉の薬を飲ませた。
コップいっぱいの水も、あわてて走ってきたせいか半分ほどこぼれていた。
それでも、彼にとっては命の水となった。
☆ ☆ ☆
明け方
日はまだ出ていない。
でもだいぶ空が明るくなってきた。
「・・・おい、姫様。起きろよ。」
「うん・・・あれ?元気になったの?大丈夫?」
こいつ、俺が動けるようになるまで・・・隣で寝てやがった。
「あぁ、助かったよ。」
「ねぇあなた、お願いがあるんだけど・・・」
「・・・なんだよ。」
「あのね、私が夜にお城を抜け出したこと、他の人には内緒にしててくれない?」
こいつ・・・なんてトンチンカンなことを言うんだ。
俺は侵入者で、さらに姫の命を狙おうとしたんだぞ。
それが、逆に命を助けられて、挙句親に怒られるのを怖がっていやがる。
「お前・・・阿保だろ。」
「ええっ!なんてこと言うのよ!」
「いいや、阿保だね。それに、かわいいくらいに馬鹿だ。」
日が出てきた。
夜が明ける。
「なぁ姫様。ここで俺と会ったことは2人だけの秘密だからな。」
「えぇ。二人っきりの秘密にしましょう。」
「じゃぁ、俺はいかなくちゃ。」
そう言うと、城壁を登り始める。
流石忍というべきか、すぐに壁の上に立った。
「ねぇっ!」
「・・・なんだよ」
「あのねっ!私、月明かりのある夜はいつも中庭にいるから!だから・・・」
「・・・あぁ。 またな。」
少年は壁の向こうへと消えていった。
それを見送って、反対に彼女は城の中へと戻っていった。
あーあ、
誰か私をここから連れ出してくれないかな・・・
つづく・・・?
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