第8羽 つるのおんなのこ



鶴岡八幡宮という有名な神社がある。



石川県に昔、鶴が丘という神社があった。



そこが鶴岡八幡宮の本家であったが、鎌倉時代に戦火で焼かれてしまった。


なんて説がある。


だがこれは噂話に過ぎなかった。



もう一つ、学校の七不思議レベルの都市伝説があった。



石川県鶴丘湖に一羽の鶴が住み着いていて、その鶴を見ると7週間以内に死ぬだとか、その鶴の羽を持ち帰るとお金持ちになれるだとか、そんな話。




・・・



「わぁー、きれいなみずうみ!」



山を登って見つけたその場所は鶴丘湖と地元で呼ばれているところであった。周りを木々に囲まれて、そこにぽつんと水の澄みとおった池があって、オアシスのようだった。



その池の中央に鶴が一羽立っていた。



鶴もこの地に入ってきた男性に驚き、警戒態勢をとる。



「! あっ、鶴だ。本当にいたんだ!」



鶴は少し後ずさりをする。



「あっ、まって逃げないでっ…うわっ!」



ドボン!



男性は鶴に近づこうとして足を踏み外し池の中へ落ちてしまった。


飛び散った水しぶきと大きな音に驚いて鶴は固まってしまった。



「あ、足着くや。あはは。 …ねぇ、驚かせてごめんね?顔見せてくれないかな?」



鶴に言葉が通じるわけないだろう、と思いつつも鶴は男性のもとへ歩みよった。



「ふふっ、言葉がわかるのかな? ・・・君はきれいな瞳をしているね。」



男性は水の中で鶴に手を触れた。


鶴は人間に頭を撫でられるのも羽を触られるのも初めてだった。


それは不快でなく、心地よかった。



いままでずっと独りぼっちだったから。



「んー、ここには君しかいないみたいだね。 ごめんね、服も濡れちゃったし また来るよ。」



そうして男性は山を下りて行った。



・・・



「やっほー。遊びに来たよ!」



またあの男性が山に来た。


鶴は嬉しくて彼のもとへ飛んで行った。



「おー、元気にしてた? よしよし。 今日は濡れてもいい服出来たからね、あそぼ?」



野生の鳥が撫でることを許すのはありえないことだ。


男性もここの鶴が何か特別な生き物だと感づいていた。



・・・



「今日も君一人だね。」



鶴が男性の顔を覗き込む。人間だったら何?とでも言わんばかりの顔としぐさだ。



「いやね、ボクはある人に会いたくてここに毎日きてるんだけどさ。 ここに雪詠って巫女さんがいるって聞いたんだ。」



鶴に話しかけても何も返事はない。



「その巫女さんは人の病気を吸い取って治しちゃうんだって。それでボクの彼女の病気を治してもらえないかなって思ってさ。 まーよくある噂話なんだけど、この湖にキミがいたから信じちゃって。」



鶴は何も言えなかった。



「まぁいいや。 また来るよ。」



・・・



神様―



―なんだ深詠、あの人間に恋をしたのか



私は人間になりたい―



―いいのか?人間になるとお前のその美しい羽根は失われる。そして二度とここへ帰ってこれなくなるんだぞ



ええ、それでも私はあの人と言葉を交わす体が欲しい―



―お前が吸い取った病気はここの泉に入らなければ治らない。お前があいつの恋人を治したら人間はその女と愛し合うだろう。お前が代わりに死ぬだけだ。



構わない。私はここでずっと一人きりだったんだ。最後に、死ぬ前にあの人にあえて、あの人と会話できればそれでいい!―



―よかろう。お前を人間にしてやる。



・・・



「・・・初めまして。雪詠になります。」



「わぁ、ほんとにいたんだね。」



「えぇ。今までずっと足を運んでいただいたようで…」



「そう。やっとキミに会えた。 ずっと会いたかったんだ。」



女性はその言葉を聞いてとてもうれしくなった。顔がほころびそうになった。


だが、この後の自分の運命を思い出してすぐに寂し気な顔に戻した。



「…キミはきれいな瞳をしているね。」



驚いた。目を見開いた。顔が赤くなった。


うれしいと思っちゃいけない。でもとてもうれしかった。



「今日はあの鶴いないんだね。」



「えぇ。…それであなたは何の目的があって私を探していたんですか?」



「んー、キミに頼みたいことがあったんだけど、どうでもよくなっちゃった。」



えっ



「・・・それって」



「いいんだ。もう。」



「・・・それでは今日はどうしてこちらへ?」

















「鶴に会いに来たんだけど。」

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