第10話 集落(7)
「はあ」
時間稼ぎとか出来る気しないが、全くもってしないが、やるしか選択肢はなさそうだ。
さっきやったように、短剣を鞘から取り出そうとして、気づく。
「あ、やばい。た、短剣。逃げてきたときに、置きっぱなしじゃん。借り物だし、めっちゃ高価そうなのに。やばい」
ポタポタと雨が降り出し、冷や汗が身体中から湧き出る。
なんて、言おう。あれだ、あのーあれ、宿題やってなかった時の、出校日の朝みたいな。いや、それ以上にやばい。あの、人、優しそうだし.....
ドスっと鈍い音が響いた時、吹っ飛ばされ、民家の壁に埋まる。
「い、痛いし、やばいし」
発動すると、頭がズキズキと痛み出したので、慌てて解除する。
はぁ。魔力不足とかなんだろうか。さっき使いすぎたし。短剣もないし、
はぁ。さっきからピンチばっかり。やるしかないし。学校行きたくねぇ!と言ってズル休みして、辛いことから逃げれた日本とは違うのだ。
この世界では、逃げる=死だし、力がなければ死ぬ。当然のことのようで、とても厳しい世界だ。
日本に居た頃は、あんなに、この異世界、弱肉強食の世界とか、カッコいいとか思ってたけど、現実は、痛いし、痛いし、痛い。そして、怖いし、怖い。
この天獣から、逃げれば、心臓を突き抜かれて終わりそうだし。
さっきは、ソイラに引っ張られていたお陰でなんとか攻撃が来ないぐらいの速さで走れたけど、今はさすがに無理だ。
身体痛いし。
結局残されてる選択肢は一つ。
時間稼ぎをする!
立ち上がり、天獣を見る。
「クッソたれがぁぁぁ」
やけくそに突っ込む。突き刺さんとする伸びてくる右腕を、体を捻りかわす。
肩は少し削れた気がするが、確認するほどのことでもない。ただ、肩が削れただけでのた打ち回ってたら、命さえ奪われるので、気にもかけず走る。
左腕が、伸てくる。軽くしゃがみ、その腕は頭の上を通過する。その攻撃をしている間に、伸びきっている右腕を元に戻し、連携するように、右腕、左腕と、攻撃が飛んでくる。
軽々かわし続ける。まだ距離がある分、かわすのは、そこまで難しくはない。
さらに、この天獣は予備動作がわかりやすいため、怪我をしていなかったら、一切攻撃は当たらないのだろうが、怪我している分身体の動きが鈍い。
よって、多少なりとも攻撃を受ける。致命傷には程遠いが、地道に削られる。
この間合いを保ち、時間稼ぎをするのもいいけど、やられ続けるだけだと、とっても気に食わないので、反撃に出る。
一歩ずつ前に進み、走り出す。
天獣の攻撃を予測しながら、慎重に足運びを考えながら進む。
進みだした途端、攻撃パターンが変わる。連携していた腕が連携を取らなくなり、視角を突く攻撃へと変わり、かわしにくくなり、攻撃を受ける頻度が高くなる。
これ以上かわすのは、無理だと諦め突っ込む。
今できる攻撃できる手段は、殴りか蹴り。
天獣の顔面?らしきものを思いっきり殴る。
ぐにゃっとした感触のあと、天獣は後退りする。
好機と思い、さらに顎?らしきものに蹴りを加え、さらに後ろ蹴りを加える。
さらに半歩退いた天獣の腹を殴る。
神からもらった身体能力は
退き続ける天獣に向かって、ここぞとばかりに、蹴り、殴り、蹴る。
攻撃を与え続けると、水色の天獣が徐々に赤くなり始める。
赤くなりだしてから、触れるだけで、火傷しそうなほど熱くなる。
慌てて、距離をとる。
シューと水が気体に変わる音がする。
水蒸気が出ているにも関わらず、天獣の大きさは全く変わった気がしない。
天獣が踏み出す。と同時に天獣が視界から消えた。
「は?」
気づいたときには、懐に潜られていた。
腹に衝撃を感じる。丁度溝に入り、肺に溜まった空気が一気に出る。
溝内されると、気持ち悪いと思うのだが、気持ち悪いものが込み上げて来る以前に、ジュっと焼けた音がする。
熱い。
軽い身体が宙に舞う。
天獣は見逃さず、追い打ちを加える。
宙に舞った身体を蹴り、さらに宙にあげ、天獣は飛び上がり、踵を落として、背中から地面に叩き付ける。
「グヘッ」
血が口から出る。
内臓がいくつかやられたっぽい。
きつい。全身に寒気がする。全身が痛い。節々が痛い。頭がガンガンする。
天獣は手加減など一切なしに転がっているエルダに蹴りを入れる。
民家の壁にぶち当たる。
跳ねた身体は地面に転がる。
気持ち悪い寒気が全身を過る。
全身火傷を負ったようにヒリヒリして痛い。
「ぁぁ、じかんかせぎ、できたかな、できてたらいいな。ぁぁ、しにそう」
割とマジで死にそう。なんかやばい。いろいろと。なんか、目、閉じちゃいそうだし。
なんか、終わり?みたいな感じがする。
ああ、もっと生きたかったし。ソイラとなんか色々したかったな。魔法の打ち合いとか楽しそうだし。
学校も行ってみたかったな。
あぁ、もっと異世界満喫したかったな。
まだ魔法とか全然覚えてないし、火の玉とか出したりしたかったな。
魔道具とかも作ってみたかったし。
そういえばあの短剣どこ行ったんだろ。あそこにずっとあればいいけど、あんな高価なもの絶対盗まれてるよね。この集落に盗むほぼ肝が据わっている住人はいるかは知らないが、残ってなさそう。天獣とかが拾ってそうだし。使えるのかは知らんが。
あぁ、借り物ぐらいはちゃんと返したかったな。痛いなー熱いなー気持ち悪いなー
頭がもわぁとしてきたし、そろそろ潮時かもしれない。異世界に来てこんなに速くに死にそうになる主人公とか見たことないんだけどな。どこぞのRe:から始まるやつはめっちゃ死んでたけど。
なんかステータス確認したときに気になったのが、死神の加護とかあったような気がするんだけど、あれの効果で死なないとかあったりするのかな。
でも正直、死にそうなんだよね。
父と母が大物だから、ピンチのときに発動する最強能力とか持ってたりしないのかな。
ああ、ごめんなさい。
少し目を開くと、右腕を更に真っ赤にして、天獣が右腕を振り上げている。
「な、あ。てんじゅうさんよ。おれをころしたって、なにもえられないぞ。いみないよほんとに」
「オレハコロスコトダケガシメイ。イミナドモトメテイナイ。タダコロシタイイノチヲツブシタイ。タダ、ソレダケダ」
「ははは、しゃべれたのかおまえ」
「コレデモワタシハ、テンジュウノナカデハコウイノホウナンデナタショウハシャベレルゾ」
「なにが、たしょうだよ。すげぇ、かたことじゃんか」
「ハハハハハハハ、オモシロイジョウダンダナ、キライジャナイゾソウユウジョウダン」
「じょうだんね...なかなかゆにーくだなおまえ」
「アア、ソウダイシソツウヲシヨウトシタレイトシテジョウホウヲアタエヨウワレら、天獣は人を強くするためだけに生まれた存在だ。先ほどは、殺すとか言っていたが、あれは建前だ。我らの存在は人を強くすること。それだけ覚えていたら助かる。そう思って、次、天獣と戦うとき殺してほしい」
急にカタコトだったのに、急に流暢にしゃべりだす、天獣にはびっくりしたが、意識が朦朧としていた俺には、自然のことのように感じられた。
だが、朦朧としていてもわかる。
「おれは、ここでしなないのか?」
「コスナトメイレイサレテルノデ、コロシタライケナインダヨ」
「め、めいれい?」
理解できなかった。天獣は誰かから、命令されてやってると?天獣を統括する存在がいると?
腕時計を見るように何もない手首を確認し天獣は言った。
「そろそろ時間だ。さらば、期待された人間」
天獣がそう言った数秒後、黄色い閃光に吹き飛ばされる。
閃光が飛んできた方向を見ると、巨人がいた。その横にソイラがいる。
「エルダ大丈夫?」
ソイラが駆け寄って、傷を確認するように見る。
「ひどい」
顔を顰めながら言った
「ありがとう。エルダよく頑張ったね」
その優しく言われた言葉に涙が出る。
生きててよかった。生き残れてよかった。
あとはよろしくと言って、安心して意識を手放した。
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