第6話 集落(3)
馬車で暫し移動し、ストラン集落に着いた。着いた時には、土砂降りで薄暗かったので子供の俺たち、ソイラと俺は村長さん宅の一室に、二人で休んでいる。
オッサンと村の住人、村長が”大人のお話”をしているらしいので、子供のソイラと俺は除け者(当たり前なのだが)にされて大人しくごろごろしている。
因みにソイラは本を読んでいる。
...え?俺はって?寝たふりだよ。寝たふり。いや、ソイラと楽しくお喋りでもしたらいいと思うが、なんか...話す話題が思い浮かばないから仕方ないね。まぁ、話題...聞きたいことは山ほどあるけど、ずっと答えを聞いてるよりか、本とかで学んだ方が新鮮じゃん?ラノベとか読んでるみたいで。
ただの自己満足です。
それじゃ、ふりではなく寝ればいいじゃんって思うけど、5歳児の少女が一人で何するか少し興味があるし...変態とかではない。断じて違う。でも興味本位ってことはなんら変態と変わらないような気がする。うむ。気にしない方向で行こう。
本当の目的は違うんだけどね。
この部屋は丁度村長と村人とオッサンが話をしている部屋の真上らしい。真下で話し合いが行われているか定かではないが、話声が微かに聞こえる。
そして、この神様からもらったスキル
話を戻すが、人の前で使うと目立つし騒がれるのはまず間違いないと思っていいと思う。
という訳で掛布団を被り、
掛布団を被っていたので真っ暗だったが瞳が輝き、瞳が光源と化す。
聴覚強化
聴覚が強化されたことにより雨の音が更に聞こえて、真面に盗み聞きできなくなる。
雨音シャットダウン
おお、やった!
嬉しさのあまり声に出しそうになったので慌てて口を抑える。
それより盗み聞きの方だ。
「うむ、厳しいのう。せめて少しだけ戦力があれば...」
恐らく村長の声でだろう。村長が声を発した後に村人たちが参ったなぁと疼いているのが解る。
「みんなが協力すりゃ、前の時みたいに一瞬で殲滅してやるぜ。なぁみんな、そうだろう?」
この人は門番の少し幼い兄ちゃんだ。実年齢も10代らしいがガラの悪そうな見た目と戦闘力で村に良からぬことをしてくる奴らを追い払っているらしい。
「おお、そうだ!」「みんなが協力すりゃぁ」「追い払える!」「坊主がやる気になったときは
見た目は悪いが戦闘力には定評があり、村人からの好感度は地味に高いらしい。現に彼が発言するとその意見を後押しする村人が騒ぎ出す。
「儂もそうは思うが、自体は結構厳しいんじゃ」
低いトーンで村長は言った。
「.....っち」
苦虫を噛み潰したような舌打ちで重苦しい雰囲気が話し合いの席に流れる。
聴覚だけでもわかるほど事態は深刻だという顔を想像できてしまう。
暫く沈黙が続いた中で若い村人が声を発した。
「でも、俺たちみたいな、田舎者でも知ってるトレイド傭兵団の創立者の一人のロイスさんがこちらについているんだから、楽勝なんじゃないのか?」
「...確かに創立者の一人だが、俺は1体1の戦いを主流にしてるのでな。数が相手じゃ、分が悪い」
ロイスさんって数の暴力には弱いのか。でも創立者の一人なら、そのトレイド傭兵団の人員を今すぐにでも、集めれるんじゃないのか?
「団員の方々と連絡は取り合えないのですか?」
村長の発言を村人が小さな声で「確かに」と肯定する声が聞こえて来る。
村長さんは俺の聞きたい事を言ってくれたな。グッチョブ!
「既に連絡はしているが...まだ返答は返ってきていない」
連絡用の魔道具的なモノがあるのだろうか?よくファンタジー小説の中では、魔道具無双とか魔道具=機械みたいな感じで書かれていることが多いけれど、実際はどうなんだろう?この修羅場的な雰囲気がなくなった後に訊いてみよう。ああ、今のフラグ、建ったな。一級フラグ建築士でもなければ、ゲーム実況者でもないのでフラグについては今後触れない方向で行こう。フラグ建てようとしてるやつが居たら速攻で溝内かまそう。そうしよう。
何故この結論に達したかは解らんが、話を戻そう。
「本部の緊急用の連絡具でも、全く返答がない...大体はこの本部の緊急用を使うと、副団長が直ぐ駆けつけてくれるんだがな...」
「本当か!」
村長さんがいきなり席を立つのが分かる。
「ヘンリ!あの怠け者に自体を伝えてくれ!」
因みにヘンリさんは村長さんの奥さんだ。
村長さんの声を聞いたヘンリさんが家を出ていく音がした。
「テメェら、村長がやる気出したぞ!今すぐ皆を地下室に避難させてくれ!」
「「「おう!」」」
門番の少し幼い兄ちゃんの声で若い村人がやる気を見せ、家を出ていく。
やる気?村長さんがやる気になったら危ない事でもあるのか?本気出したら村半壊の被害出るけど天獣全滅みたいな?。
ま、なんとかなりそうな雰囲気が出てるからいいか。
でも、いつも天獣が出てくるときに毎回こんな感じなのかな?それにしては、ありえないし。
主人公体質かもしれない人が(ソイラかロイスさんか俺)誰か解らないけど、普通じゃないことは、確かだ。異例の事態と踏んで問題なさそうだな。嫌な予感がする。
自慢ではないが、直感には自信がある方だ。高校とか決めた時は、100%直感で選んだからな。まぁ、妹が入学してきたのは、想定外だったが。てか嫌な思い出の一部だが。
階段を上ってくる足音が聞こえる。恐らく俺たちも地下室で避難することになるのだろう。
とりま
光源がなくなり、真っ暗になる。
「ソイラ!エルダ!起きてるか?」
オッサンの声がドアの向こう側から聞こえた途端、ドアが開きオッサンが入って来た。
「ロイスさんどうしたんですか?」
頭を掻きながらおっさんは困った顔をして言った。
「起きてたら、下が何やらうるさかったのが分かっただろう?」
「うん」
「その件だが、天獣が早朝集落を襲いに来るらしい。毎回、村人は地下に逃げ込むむそうだ。ソイラちゃんとエルダにも地下に避難するようになってな」
「わかった。エルダ起きて」
布団からのそのそと起き上がり、さっきまで寝てましたよアピールをしながら立ち上がる。
「エルダ、いまから地下に避難するよ。ロイスさん、地下には集落に住んでる人たちも、いるんだよね?」
「ああ、そうだ」
「いまは、何が起こってるかわからないから、集落の人達に聞けばいいから、早く地下に行くよ」
地下室の入り口は村長宅のすぐ横に建てられていた。
村人たちも避難しているようで、続々と地下室に村人が入って行っている。土砂降りなので、村人たちは駆け足で中に入っている。
「ソイラちゃんは先に入っていてくれ。エルダ少しだけいいか?」
「エルダ、先に待ってるね」
笑顔で頷く。
そこの人、気持ち悪いとか思うなよ?傍から見たら可愛い、可愛い子供二人が笑顔で見つめ合ってる?だけだからな。
ソイラが少しだけ雨に濡れながら、地下室に入っていくのを見た後、おっさんが俺の身長の高さに合わせてしゃがむ。
「エルダは男だろう?」
無性に頭を横に振りたくなったが、自制し頭を縦に振る。
俺の予想では、一緒に戦おう!とか言われるか、ソイラを守ってやってくれと言われるかの二択だと予想する。まあ、予想して何になる?と言われれば、その通りなのだが、まあ、趣味?みたいなものだ。当たったら嬉しいかな?とかいうレベルなのだが。
おっさんは懐から短剣を差し出す。
「分かってるよな?」
何をほざいてやがるのだ此奴は。子供に短剣を差し出して、わかってるよな?だと?それともその短剣一本でいざという時にソイラを守れと?いやいや、無理無理。短剣の扱い方さえ分からないのにどうしろというのだ。
それとも
「えーと、自害しろと?」
「はっははははっははは」
お腹を押さえておっさんが笑う。
「違う、違う。そもそも、子供が自害なんて言葉知ってるんだ。あーあ、お腹痛い。その短剣はな、付与魔法が掛かっていてな発動と念じれば自動で使用者から魔力を吸い取り、効果が発動する。その短剣は、相手を切ることで、温度を下げる効果がある。水の天獣を相手にして効くかは分らんが、持っていて損はないと思うぞ?」
なるほど、てか結構強くね?この短剣。納得している表情をしていると今度こそ怪しまれそうなので、難しく考えている表情で人差し指を頬につけ頭を傾ける。
「ま、難しく考えなくてもいいぞ。危険な時に発動と頭の中で念じるだけでいいぞ」
「了解です!」
「ははっは。飽きないな。エルダ、そろそろソイラのところに戻ってやってくれ」
軽く礼し、集落の人達と混ざって、地下室に入った。
「杞憂に終わるといいんだが...」
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