ストラン集落

第4話 集落(1)


肌寒さを感じながら目を覚ます。


馬車から出る。まだ、眠気を感じながら外に出ると冷たい空気が鼻孔をツーンと刺してくる。まだ日の出前で辺りは薄暗く、静けさが森を覆っている。

ロイスさんとソイラがまだ寝ていることを確認し(こちょこちょしても全く起きなかった)、自分の体を見る。この世界では普通の清潔さより少し汚れた程度かもしれないが、日本基準で見るとお世辞にも綺麗とは言えないほど汚れていた。

朝早く、何もする事が無かったので、水の音が聞こえる方に行き、水浴びすることにする。

まだ寒いだろうが、そこまで寒いのは気にならない方なので関係ない。



思った通り、というか川がある事はおっさんが魚を取ってきた時点で確定してたので迷わず辿り着いた。早速服を脱ぎ足先を川につける。

勿論冷たい。超冷たい。


とりあえず頭から浸かって髪を洗う。洗い終わり、次は体を洗う。少し水を掛け、ゴシゴシ擦る。垢がボロボロと湧き出てくる。うわあ。子供の頃の僕は、意外と不潔だったのだが、それ以上に酷い。


垢を流す。すっきりしてご機嫌気分のまま、服を着ようとしていた時に気づく。


「僕の体とか髪濡れてるジャマイカ...。自然乾燥だな...あぁ液体窒素のように寒いネタジャマイカ」


濡れている体を乾かすために風をいっぱい受けるように全裸で全力疾走する。完璧に変質者なのだが、5歳児なので返って心配されそうだ。

でも流石に走りながらヘッドバンキングをする5歳児は流石に変質者かもしれない。

まぁそもそもまだ日が出ていない時間にこんな森の中を歩いている人なんていないと思うが。


そんな客観的に僕を見たらどうなるかを考えていたら、体に張り付いていた水滴が無くなっていることに気づく。乾いたようだ。髪の毛は、若干濡れているようなだが、この程度は、直ぐに乾きそうなので、服を着て馬車に戻る。


馬車に着くころには、辺りは少し薄暗いが日が昇っていた。

今日の太陽は厚い雲に覆われているようだ。


「もう起きてたのか。はようエルダ」


「おはようございます」


「それにしても、ソイラちゃんとは大違いだな」



まだ眠っているソイラをみながらガハハハとおっさんらしく豪快に笑う。

どうやらソイラは朝に弱いらしい。


「出発するぞ」


「はい」


馬車の上に乗って景色を楽しみたかったのでロイスさんに乗せてもらった。


馬車が動く。どうやら馬2匹で引いているようだ。なかなかの速度だ。昨日は馬を見なかったので、ロイスさんがきちんと管理しているのだろう。


整備された道を見て、空を見る。進行方向には今よりも厚い雲がある。このままいけば雨が降るのは間違いないだろう。


「雨降りそうですけど、どうするんですか?」


「ああ、この道を行ったところに小さな集落があるんだ。そこで一泊して、朝早くに出れば、夕方には学園都市に着くはずだ」


さすが、おっさん×傭兵=知識豊富 だな。というかおっさん=傭兵の様な気がするが気にしないで進めよう。


この馬車から見た限り集落なんて見当たらない。正午以降に着きそうな感じだな。現在はまだ日の出直ぐなので、結構暇な時間が多いだろう。

というわけで、ロイスさんの傭兵話でも聞こうかな。ソイラの本を朗読してもらって、文字を覚えるのはいいのだが、ソイラはまだ夢の中なので、話を聞こう。


「あ、あのロイスさん。確か傭兵の仕事をしているんですよね」


と言って俺はロイスさんの横に座る。


「そうだぞ」


「その昔話をしてくれませんか?聞いてみたいです」


「ああ、いいぞ......あの出来事は確か2年前だったか。亜人の都という場所で事件が起きた」


亜人の都という解らない単語が出てきたが、質問していたらキリが無いので、無視して話を聞く。亜人の都というのは、多分いろいろな種族の人達が集まって出来た都市なのだろう。


「最初の被害者はテイマーと呼ばれている職種の者たちが飼っていた魔物だった。彼らは、魔物を仲間、家族同然として扱っていた。低級魔物が殆どだったが、中には低級魔物から中級魔物に進化した魔物もいた。低級魔物だけが、影響を受けた」


重苦しい表情でロイスは語りだす。


でも...5歳児の子供にどういう話をしようとしているのだろうか?

まぁこのオッサンが子供にこんな話をしているのは、何かわけがあるだろう。逆にわけが無かったらこのオッサン滅茶苦茶だしな。ソイラの家の父親と友達なのだから100%、訳があるんだろうな。


「低級魔物は突然、前触れもなく暴走し始めたんだ。この暴走が見られるのは、基本的に野生の魔物からだ。ある一定量のダメージを負うと一時的に身体能力が上昇するんだ。そして正気を失う。それが憤怒と言われる異常状態だ。それが仲間や家族同然と思っていた者の近くで起こったらどうなると思う?」


首を傾げる。


ホントこのオッサンは子供になんちゅうこと聞いてんだ。

テイマーと言われている職種の人達が死ぬのだろう。


「そうだ。この事件の最初の段階でテイマーという職種の者たちの半数が命を落とした。抵抗は出来るものもたくさんいたが、仲間や家族同然だと思ってきた奴らには難しかったらしいな」


表情を読まれたか。失態だ。

わけだあるっぽいので真剣に聞こう。


「確かにそれだけで終わるのなら対処がまだ出来ていたのだが、また事件が起きたんだ——————」


話が長かったので要約する。

貧民街に住んでていたあまり衛生面で悪かった獣人が...獣人の事を軽く説明すると色々な動物×人といった種族なのだが。殆ど人間よりなのだが、時々動物成分多めの人が居たりするし、個人差が大きい。その中の犬型の動物成分多めの獣人が憤怒状態になったらしい。動物成分が多めだったので身体能力も高い。それ相応の被害が出たらしい。

そこでオッサンが率いる傭兵団、トレイド傭兵団が率先して被害を抑えたらしい。領主は原因を調べており、原因が分かったらしい。

その原因はやはり食料だったらしい。

当時の低級魔物や貧民街の犬型の動物成分が多い獣人達限定でミコロコロギというコオロギ型の魔物を好んで食べていたらしい。

そして何故か、ミコロコロギは他の種族の者たちや魔物たちには、全く口に合わなかったらしい。


領主、タクミ・サイトウの戦闘メイドの一人がミコロコロギという種自体を滅ぼして解決したらしい。


凄い事なのだろうけど、でもこの人が転移者だという事と苗字が俺と一緒としか頭に入って来ない。でも転生者と転移者がこの異世界に複数存在するということが分かった。


「難しかったか」


僕の頭を硬く年季の入った手でゴシゴシと撫でられる。


痛いです。やめてください。将来剥げてしまいます。

制止を願う眼差しを向けるとすぐにやめてくれた。


「この話をした訳聞きたいか?」


頭を横に振る。


「ハッハッハ...面白い冗談だな?」


まずった顔をして訂正の意味を込めて頷く。


「今向かっている場所があるだろう?」


「小さい集落でしたよね」


「ああ。その”ストラン集落”は少しばかり問題があってな」


「問題?」


首を傾げる。

この話をした訳との繋がりを考えるに、魔物の被害か...口に合わない料理が振る舞われるとか...か?


「雨が原因でな」


雨?...雨の時だけ集落を襲ってくる魔物とか...か?だが魔物って本来魔石的な核を動力として生きているみたいだし...あれか?雨だけに飴が出て来て甘ぇぇとか言いながら襲ってきたり?いや、いやありえないな。あり得る訳ない。そんなユニークな魔物とか居たら変な趣味の奴らが集まる観光スポットに早変わりしてしまう?...?

あぁ、ダメだ。無理だ。なんか答えから離れて行っているような希ガス。


さらに首を傾げて考えている様子を見てオッサンが答えを述べる。


「雨が降り終わった直後に、降った雨が形となり魔物に変異するんだ。...この件で各国から一時期、調査員たちが原因を調べに出向いたことがあったらしいが、解らなかったらしい」


「そこまでして、なんで解らなかったんですか?」


「知っての通り魔物の動力原は魔石だ。だがこの常識が覆されたんだ。その雨が降った後に現れる魔物は、魔石という動力源が無かったんだ。この魔石が無く、活動を行えるのが魔獣と言われる獣なのだが、その類にも当て嵌らない別の生き物だったんだ。これ以上調べても進展がない現状を上位に位置する者たちが諦め、これからも、このような生物が出てくると予想し、魔獣にも当てはまらず、魔石もなく、天気の変化で現れる者たちをこう呼んだ”天獣”と」


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