第3話 清々しい空気


「はぁ、分かりましたよ。付き人になりますよ。でも、なんで自分を付き人にしたんですか?メイドとか執事でもいいんじゃないんですか?」


ずっと疑問に思っていたことを質問する。ファンタジーのお世話係といえばメイドとかメイドとかメイドとか。ヒヒヒヒ、じゃなかった。セバスチャンとかセバスチャンとかセバスチャンとか...。妙に強すぎる執事とか。


ソイラは考えるように頭を傾げ、口を開いた。


「う~ん、でもじいが付き人をさがすなら異性で同じくらいの人がいいっていたからかな?」


どうやらじいという人に直接聞きださなければ、真相は分かりそうにない


「そうなんだ!よくわかったよ!」


少しハイテンション気味で分かったオーラを出すと、嬉しそう微笑んだ。


「それで、この馬車?にずっと乗っていたら学園生活を送ることが分かったんだけど、どこにむかっているの?学園都市的なところでも行くの?」


「そう。今向かっているのは、学園都市インフィニスタという所に向かっているらしいんだけど...」


「分からないの?」


ソイラは頷く。


..........話す事が無い。5歳児の話題とか知らないんだが。そういえばここが、馬車の中らしいのだが、外の風景がよく分からない。というかこの馬車は誰が操縦しているんのかな?聞いてみようかな?いや、だけど誰が操縦しているかなんて僕に関係あるのか?関係ないよな。だが、心配なことがある。多分この異世界には盗賊とかいる世界だと思う。チャラい男が少年(僕)を追いかけてくる時点で盗賊的な集団がいることは間違いはないだろう。

恐らく侯爵家のご令嬢が5歳とはいえ、乗っているのだから護衛として雇われている人、もしくは馬車を操縦している人は、相当な腕を持っているのだろう。だから多分心配はいらないだろう。


襲撃される心配はないとして...。


難しそうな顔をしているエルダの事を気にしたのか訊く。


「なにを考えているの?」


しまった。顔に出ていたようだ。


「いや、さっき大きな本を読んでいたなと思って」


ソイラの座っている横に置いてある大きな本に視線を移す。


「この本は」


と言って表紙を見せる。


よ、読めねぇ。


「...読めないのですが」


生前、黒スライムに殺される...乗っ取られる前は、普通に字が読め、本を沢山読んでいた僕は結構なショックを受けた。

文字が読めないってこんな悲しいものなんだな。義務教育なので字が読めない人はいなかったので、異世界でも余計に少しというか、かなり落ち込んだ。


「そっか。じゃあ私が声に出して読むよ」


と言って僕の隣に座り、読み始める。


題名は、伝説の冒険者録。


所々に説明が入っているらしいので、分厚い本になっているらしい。読み聞かせをしている途中に説明してくる。


内容は、10歳の男の子が冒険者になって最初は、ショートソード一本で冒険に出て、数々の困難が襲い掛かるが少年は逃げ足が速く、経験を積みな...。















暖かい光が差し込んできたことで目が覚め、肩に寄りかかっているソイラを見る。


どうやら二人とも寝てしまっていたようだ。

ソイラの寝顔を眺めながら思う。純粋な寝顔ってかわいいなと。

暫く眺めていたら違和感に気づく。

馬車は揺れていないということを。気が付けばこの暖かい光から察するに夕暮れ時なのだろう。ソイラを起こさないようにそっとソイラから離れ、上着を掛ける。


馬車から出ると直ぐに清々しい透き通った空気が鼻腔をくすぐる。日本では絶対に味わう事が出来ない膨大な自然。木々の香り。自然が好きな俺は自然と瞳から涙が溢れ出す。


言わずにはいれなかった。


「異世界。大自然。ありが、とう」


暫く泣いた後涙をふき取り考察する。


多分操縦していた人はいないかったし、食料が運んでいなかったので現地調達して食べるのだろう。恐らく当たっているはずだ。近くに川の水の音が聞こえる。

僕も行ってもいいが、人手は足りていると勝手に判断する。そうなれば俺のやることは一つ。焚火だ。何にしても焚火があれば不自由ないし作っておいて損はないはず。


そこら辺に置いてある石で囲みその中に結構な量の乾いた枝をぶち込む。組んだりしたら火力とか上がるのかもしれないが、その手の知識は僕の頭の中には入っていないため、仕方がない。のでテキトーに組む。

そして、火をつけ......ない!火をつける方法がぁぁ。そうだ!魔法だ!


えーと。


「火種!」


・・・・・・・・・・・・・・・。


「ミニファイヤ!」


・・・・・・・・・・・・・・・。


「焚火に火を灯せ!」


・・・・・・・・・・・・・・・。


「精霊よ、我が頼みを受け入れん。火種!」


・・・・・・・・・・・・・・・。


何故だぁぁぁ。恥ずかしいから止めよう。てか最後の中二病丸出しの詠唱だな。たとえ一人だからと言っても恥ずかしい。今すぐ記憶から抹消しよう。魔法というものは難しいですな。ホホホホ。

マジワロエナイ。

それより今から何しようかな?そうだ。ソイラの様子を見に行こう。


馬車の扉が開き、寝起きでまだ眠そうな顔で欠伸をしながら僕の?上着を羽織ったソイラが出てくる。


「なにしてるの?」


「魔法で火種とかどうにかならない?」


ソイラは焚火に近づいて小さな手を焚火の真上で制止させて「火種」と唱えると適当に組んだ枝の中心に優しく弱々しい火種が現れ、枯れた小枝に引火した。


ここで疑問が浮かぶ僕は、火種とさっきに唱えたのに何も起こらなかった。魔力関係に知識が全くないから出来なかったのかな?ま、いいや。


「焚火を焚いてくれたのか。ありがてぇ」


4匹の魚を担いで、如何にも貴族を護衛してそうな、素人目でもわかる高価そうな革の装備を着た大体2m程度ある大男が茂みから出て来た。


「ロイスさん!」


「ソイラちゃんも起きたのかい」


「はい!」


頬を綻ばせながらロイスに頭を撫でられている。


「あ、あの。どなたですか?自分はエルダです」


「ああ、俺はロイス・サツティス。サツティス子爵家の三男だ。学園都市に行くときの護衛とこの馬車を運転している。俺は傭兵でな。ソイラの父親の同級生ということで頼まれたんだ。それに、時々ソイラちゃんと遊んだりするしな。ま、学園都市までよろしくな。エルダ」


「あ、はい。宜しくお願いします」


「さて、魚食うか」


新鮮な魚に塩を少し振りかけて棒に刺して、焚火に風を送って火力を上げて魚を炙る。ロイスは慣れた手付きで作業をしているので、結構現地調達に慣れている様に感じられる。


火が完全に通るまで時間が掛かるので、自然と雑談する雰囲気になる。

だが、僕は雑談すると口を滑らして本当の事をペラペラと喋ってしまう可能性があるので相槌だけを打つ。話の内容は僕が馬車で意味が解らない行動について話している。非常に相槌を打ちにくい。だが、記憶があまりないの一点張りで凌ぎ切った。


「お、焼けたようだぞ」


魚の味は最高に美味かった。塩に凄くマッチしていて直ぐに平らげてしまった。日本ではそこまで新鮮な魚を食べた事が無かった。しかも基本的に魚は嫌いなのだが、異世界の魚は思った以上に美味しかった。


気付いた頃には、魚を刺していた棒にも噛みついていたので、二人とも苦笑していた。

多分未来の自分が振り返っても、奇行に走っていた自分にドン引きすると思う。と寝る前の僕は、フッと笑う想像をして、馬車の中で寝た。


異世界一日目から精神的にも肉体的にも疲れた僕、そしてこの幼い体は睡眠を欲していたので、横になると寝付くまでそう時間は掛からなかった。



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