「転」

 最近体が少し怠い。風邪なのかと思い少し大人しくする日が続いた。そんな私の些細な変化にカズはすぐに気付く。変な所で鋭いのだ。

 「リン最近元気ないな?どうした?具合悪いのか?」

 「…大丈夫よ。少し怠いだけだから。寝てればすぐ良くなるから…」

 「うーん。なんか辛そうだな。よし!病院に行こう」そう言ってカズは私を抱き抱えて、車に載せてくれた。こう云う優しい所も彼の良いところだ。


 検査結果はただの風邪だった。ただし年齢が高くなってきた(ここが気になる!まだ若いから!)事もあるので薬を飲んで安静にしなさいと言われた。

 「良かったよ。大した事なさそうでさ。リン早く元気になれよ。俺お前が元気ないと寂しいからさ」だって。なにいい大人が言ってるのよ。大丈夫。カズの為に早く元気になるよ。


 一ヶ月たったが私は元気にはならなかった。逆に余計酷くなってしまった。元気になるって約束したのに…ごめんねカズ。


 次の日カズは仕事を休んで私を病院に連れて行ってくれた。

 「大丈夫!注射の一本でもしてもらえば直ぐに良くなるよ!リン大丈夫だからな!」

 本当に優しい。カズありがと。


 検査結果は私には教えて貰えなかった。ただカズの態度を見れば良くないことは私にも簡単にわかった。


 即日私は入院となった。有効な治療法がないのだろう。私は日に日に衰弱していった。そんな私の御見舞にカズは毎日来てくれた。会社を休んだり、早退してくれたのだろう。バカだなぁ。私の為にそんなに休んだら偉くなれないぞ。まぁカズのそんな所が好きだったりもするんだけどね。


 一緒に居るときはずっと頭を撫ででくれる。大きくて暖かいカズの手。大好きな手。カズは私の病気が治ったらしたい事だけをずっと話し続けた。


 一緒にどこに行きたい?(カズとならどこでもいいよ)


 なに美味しいもの食べよっか?(カズとならなんでも美味しいよ)


 元気になったら何がしたい?(カズとずっと一緒に居たいよ)


 その晩私は息を引き取った。苦しまずに逝けたのと、最愛の人に看取って貰えた私は幸せだったのだろう。

 でも心残りがないわけでは無い。カズだ。大人気なく、人目も気にしないで泣いている。

 そんなに泣かないで。私心配で行けなくなるから。カズなら大丈夫!私がいなくてもしっかり生きていけるから!顔はイマイチだけど、あなたの優しさに惹かれる人は沢山いるから!私がいつまでも空から見守ってあげる。だからこんな「老猫」のことは早く忘れて、あなたの自身の幸せを掴んでね。


 さようならカズ。ありがとね。

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