第5話レジナーディア

レジナーディアとは、ガートリルの長であり、トルチェの部族を束ねる存在である。ラグナーンが、レジナーディアとして就任したのは、二十歳の誕生日を迎えてすぐであった。通例、レジナーディアに就任する際には、過半数以上のジストバンニャの賛同が必要となり、ガートリルとしての能力および統率力は、言うまでもなく、人間としての資質も兼ね備えた経験豊かな人材がレジナーディアとして任命される。ここ百年間の間にアーリアであったレジナーディアは、過去に一人だけであり、その者の能力、カリスマ性は、群をしのぐものであったと伝えられている。そのため、ラグナーンが誕生した際には、ジストバンニャは、全一致でラグナーンをレジナーディアとして育てるためにすべてを注いだと言える。しかも、ラグナーンは、期待以上の資質を持ち合わせており、ジストバンニャは、ラグナーンが二十歳を迎えてすぐにレジナーディアとして就任させることを、五年以上も前から定めていたのであった。

 ガートリルは、“ルーセを繋ぎ異世界の物(者)を供給、提供する能力を有する者”と位置付けられている。ガートリルの能力は、いくつかの性質に分けられる。まずは、未知のルーセを発見する探索能力に長けた“ディータ―”。そして、ルーセを繋げることに長けた“ネクター”。その未知のルーセ内を実際に開拓していく狩人的役割を担う“ハジュナー”。“ディータ―”と反する能力であり、ルーセを外敵侵入から防ぐ能力を持つ“バルスナー”が主な分類とされる。そして、超希少価値であるルーセの創造を操ることができる能力者が、現段階では、ただひとり、ラグナーンのみである。この能力は、これまでの歴代レジナーディアの中でも、一本の手で数得るほどしか持ち合わせていない特殊能力であり、誰もが敬意を払っていた。この能力はクランベータと呼ばれている。

 それぞれの民族で特有のルーセを保有し、特有の産物を供給している。同様に、必要なものは、他の民族からの需要に頼っている。例えば、トルチェの部族は、代々、植物を中心とした産物を得意とし、薬草や香料といったものから、番犬が代わりにもなる獰猛な植物まで多様な種類を揃えている。中でも一番の人気は、チャット草と言われる観葉植物で、見て楽しみ、話して楽しむ。と言った具合に、一人暮らしの学生や老人などに大人気商品である。トルチェの部族は、健康食品にも力をいれており、免疫力を高めるタンパク質を豊富に含んだ野菜、抗がん剤と同じ働きをする物質を含む果物、そして、アレルギーを一切引き起こさない植林など、いろいろなものを作り出している。それはすべて異世界からの恩恵に由来するものであり、その発見から商品として完成させるまでには、多大な労力と経費がかかっているのである。

 レジナーディアとしてのラグナーンの業務は多岐に渡っている。ルーセの確保にわたっては、他の民族との協定を守り、また、争いが起こった際の鎮圧など、民族間での政から、民族内での統率に関わる事項、はたまた、実際に新ルーセの探索にまで力を注ぎ、余った時間には、研究所での研究に没頭している。中でも、一番の苦労は、クランベータを開放した時である。この能力は、ルーセを無から創造する力で、ルーセを形作り、それを固定し、更に、安全に踏み込めるように成熟させるという過程を7日7晩行い、やっと完成させるのである。しかしながら、優秀なラグナーンであっても、その完成率は、50%ほどで、実際に完成させたとしても、使い物にならないルーセになってしまうことも多々ある。しかも、クランベータを開放した後に襲ってくる疲労感は、すさまじいものがあり、3日3晩寝込むのが常であった。それだけ、高度な能力であることが伺える。

そんな多忙のラグナーンであったが、恋することもあった。レジナーディアになるまでは、限られた人々としか接触する機会がなかったが、その中には、当然女性もいた。ラグナーンが最初に心を打たれた女性は、妻のシューラーであった。彼女は前レジナーディアであったエンペストの娘であり、ラグナーンの存在が明らかになるまでは、次期レジナーディア第一候補であった。そのため、シューラーは、ラグナーンの存在が疎ましかった。それも当然で、シューラーは、競う機会すら与えられず、候補から蹴落とされた形となり、自分の父親からも当然のようにあしらわれたからである。一方のラグナーンと言えば、そういうことなど露とも知らず、気高く気品のある美しいシューラーから目が離せない状況であった。ふたりの初めての出会いは、アーリアとともに訓練を受ける三人が選出された時であった。当然ながら、この三人は、遠征訓練を受ける優秀な訓練生を言われて呼ばれたものであったから、寝耳に水の状況で、三人とも意味をなかなか理解できなかった。この三人は、後に親友となるサーキア、後の妻となるシューラー、そしてラグナーンの影武者として選ばれたトーシンであった。確かにアーリアの存在を知っていた三人であったが、まさか今現在この部族に存在し、しかも、そのアーリアが今、朱色の目をした男が、目の前に立っていることがあまりにも突拍子もなく、三人の理解の範疇を逸脱していた。

“この方が、アーリアであり、次期レジナーディアになるラグナーンだ”

とエンペストが言った。

“。。。”

3人ともとにかく、口が空いて塞がらない状態であった。

“聞いておるのか、君たち!”

とエンペストが声をあげた。

“ちょっと待ってください、父上。いきなりこの人が、アーリアと言われても、私たちは 

 どうすればいいんですか?“

とシューラーが、困惑気味に聞いた。

“どうするもなにも、これからお前たちは、ラグナーンとともに、訓練に励み、次期レジ

 ナーディアをしっかりサポートする存在になるのじゃ“

 と当たり前のように言った。

“了解しました!”

 お調子者のトーシンが直に応えた。

“わ、わかりました”

とサーキアも続けた。

シューラーは、どうしても納得ができず、ただ、何も言えなかった。

“わかっておるのか?シューラー”

とエンペストが言い終わる前に、シューラーは、部屋を出て行ってしまった。

“やれやれ、わがままに育ってしまったのう。”

とつぶやくエンペストであった。

そういう状況かの中で、ラグナーンは、シューラーの美しさに呆然としており、ことの状況をいまいち理解していなかった。ただ、今度いつシューラーに会えるのかが気になっていたラグナーンであった。

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