第2話ガートリルへの道

ガルヴァンにとって、母と別れることは、ものすごくつらいことであり、10歳の子供にはあまりにも過酷な試練であった。しかしながら、小さい頃から言われ続けてきたガートリルへの道が、この村に生を受けしものの定めであることは、すでに子供心にも深く刻み込まれていた。近所の子供たちの話では、ガートリルの訓練を受けることを許されたのは、半分程度で、そこからの訓練で更に絞り込まれることなど、皆、その話題で持ちきりだった。ガルヴァンの幼馴染の少女、ユウキも訓練生に選ばれ、二人とも怖いと思う反面、楽しみさもそれ以上に感じていた。

 二人が訓練校へ移ることになった日は、朝から霧が出て、何かしら気持ちを不安にさせるものがあった。二人とも、母親たちに見送られて、試練の寺の門を通って行った。門をくぐって、暫く歩くと、ちらほら同じように歩いている子供たちを見かけた。皆、どこか不安そうであるが、目は輝いて希望に満ちた顔をしているように見えた。

“ねえ、どこまで歩くんだろうね”

ユウキが言った。

“そうだね。”

ガルヴァンは、そうしか答えられなかった。

すると、それほど遠くないところから、鐘の音が聞こえてきた。その鐘の鳴るほうへ向かって行くと、7-8人の子供たちが一か所に集まっていた。その集団の前には、大人らしき30歳ぐらいの身なりのきちっとした男性が立っていた。

“皆さん、それでは、私について来てください”

それだけ言うと、その男性は、すたすたと歩き始めた。それは、歩くというよりは、早歩きだった。子供の足では、走らないと彼に追いつけないため、みんな必死で走ってついていった。

 すると、なにやら周囲の雰囲気が変わってきたことに、皆気づき始めた。なにやら、木々が異様に多く、あまり見たことのない植物が鬱蒼と茂っていた。しかも、なんとも言えない甘いやら酸っぱいやら、これまで嗅いだことのない匂いで満ちていた。

“さあ、皆さん、どうですか?違うルーセに来てみた気分は?”

皆、一斉に互いを見つめ、呆然と突っ立っていたが、そのうちの一人の子が、

“ええーーっつ。ここって別世界なの?”

と叫び、それに連呼して、みんな、一斉に、

“きゃー!うそーー!別のルーセに来ちゃったの?”

“うそー。信じられナなーい!”

など、各々が歓喜の声を上げ始めた。

ガルヴァンは、そんな中、実は、異世界に入った瞬間に、すぐにそれを察知していたことを内心、自慢げに思っていたのであった。

“それでは、皆さん、注目!”

と男が、礼儀正しく言った。

“コホン、申し遅れましたが、私、あなた方の教官となりました、ジューダムと申します。

これからは、私のことは、教官ジューダムと呼ぶように!“

と高々に言い放った。

“それでは、ここで質問です!あなた方がどうやってこのルーセにやってきたかわかりますか?”

と言った瞬間に、一人の男の子が、

“はい、はい、わかります!先生が瞬間移動させたんですよね!”

と言い切った。

“不正解。私にテレポーテーション能力などございません。”

と言うと、幼馴染のユウキが、

“ベセルを繋いだんじゃないんですか?”

と言うと、

“ワンダフル!その通りでございます!よくできました!”

と嬉しそうに言った。

“皆さん、これは、基本中の基本事項ですので、よーく聞くように!ご存知の通り、この世界は、一つではありません。星の数ほど、ルーセ(別世界)が存在します。そのルーセは、ベセルという通路のようなもので繋がっています。いえ、正確に言うと、繋げます!そして、その能力を有する者たちをガートリルと申します。そう!あなた達は、その訓練生ですよね!”

と声高々に言った。

“では、なぜ、ルーセを繋げなければいけないのか?それは、ものすごーく基本的ですが、かつ難しい質問でもあります。つまりですね。単独のルーセは、いわゆる一つの国と考えて頂きたい!国というものは、いろいろ輸出、輸入をして、経済を保っていますよね。将に、そのことがルーセでも言えるのです!そのお役目を我々が担うということです!”

“しかしながら、ルーセというものは、単純に歩いていくことはできませんよね。なぜなら、別次元にあるのですから。実際の距離ではないんですよね。近くて、遠いと言ったほうが必然的かな?”

“簡単に言えば、ルーセは、まず、普通の人間には見えません。まず最初のガートリルの訓練として、そのルーセの気配を感じること。そして、それを視覚化すること。そして、それを物体化させること。それが、三大基本事項となります。いいですね。”

ここまで来ると、皆、先生の言う、一字一句を見逃さないよう、必死だった。

“まず、気配を感じるといいましたが、これがものすごく重要なことです。何故だかわかりますか?”

誰も答える気配はなかった。

“そうですね、例を挙げるとしたら、とりあえず、動物園で飼育員をすると考えましょう。まず、動物の檻が見えました。中に入って、餌をあげなければなりません。どうしますか?”

側の男の子に聞いた。

“えっつと。。何がいるかわからないので、確認します!”

と答える否や、

“ワンダホ―!その通りでございます!まあ、私の例えがすばらしいですからね”

皆、呆然とした。

“とはいえ、確認です!そう、その発見したルーセが、安全かどうかを確認することが、もっとも需要なことです!未確認のまま入ることほど、危険極まりないことはございません!そんなお馬鹿さんには、決してならないように!”

皆、感心したように頷いていた。

“それでは、今日はこのぐらいにしておきましょう!それでは、皆さん、私の後をしっかりついて来てください!”

というと、教官ジューダムは、また、すたすたと歩いていった。

すると、ユウキが、

“ねえ、ガルヴァン。教官の周りになんか膜みたいなものがいきなり出てきたよね。”

と言った。

“えっつ、そうなの?”

ガルヴァンも必死に凝視したが、何もみえなかった。

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