ガートリル:異世界を繋ぐ者

Chocho

第1話ガートリル

この世界には、ルーセと呼ばれるいくつもの小さな世界が存在する。そのルーセと呼ばれる空間は、単体で存在するのではなく、いくつものルーセが、繋がりあって存在している。個々のルーセには、無数の生命体が存在し、そこでは、様々な生命の営みが存在している。知的生命体と呼ばれるものから、バクテリアやウイルスのような類の目に見えない生命体まで多種多様に共存している。我々が住んでいるこの世界もまた、ルーセの一つであり、同様に、無数のルーセと繋がりあっている。しかしながら、ルーセを行き来できるものは、限定されており、厳粛な規律のもとで、管理されている。そのルーセを繋ぐパイプの役割をなすものは、ベセルと呼ばれ、特定の能力を持った者のみが、視覚化でき、また、開閉することができる。古のころより、そのベセルを管理、統括する一族たちが存在し、その一族たちは、ガートリルと呼ばれ、能力に準じた世襲制により長い時を経て継承され続けている。しかしながら、ガートリルの存在を知るものは、一部の国家権力者に限られ、その存在の全容を知るものは、ほとんど存在しない。一体何の目的、意志をもって、ガートリルが存在するのか誰も知らない。ただ、ガートリルの存在なしに、我々の世界の秩序を保てないということだけは、周知の事実である。


ガートリルと呼ばれる民は、これまで把握できているだけで、約17の小さな国が確認されている。一つの小国は、約数千人の人々で構成され、その中で、クーアと呼ばれる“核”となる集団が存在している。クーアに属するものは、ガートリルとして優秀な者たちであり、様々な厳しい試練を経て、認められた者たちである。ガートリルとしての能力は、全く持って、その個人に起因するものであり、ある程度、能力の高いガートリルを輩出している家系も存在するが、そうでない優秀なガートリルも多々存在している。その中でも、能力、経験、そして統率能力に長けたものが、レジナーディアと呼ばれる、いわゆる、“長”としてクーアおよびガートリルの一族を束ねていく権限を与えられる。

 ガートリルとしての資質を見極めるには、いくつかの試練が存在し、それを経て初めてガートリルとしての訓練が行われる。その試練は、総称して、イ―サンテと呼ばれ、男女関係なく平等に誰でも受けることができる。イ―サンテの第一関門は、満10歳を迎えた歳に行われる。試練を受けるすべての者は、九弾の鏡の前に立つことから始まる。ちょうどその日を迎えた少年、ガルヴァンは、母親に連れられて、重々しい雰囲気を子供ながらに感じながら、ここ、試練の寺にやって来た。寺の門をくぐり、母親に九弾の鏡のある部屋の前まで来ると、

“ここからは、あなた一人で行くのです。何も怖くはありません。自分を信じなさい”

と言われ、勇気を振り絞って、扉を開けて中に入っていった。部屋の中は、薄暗かったが、部屋の奥だけ光が照らされており、そこに大きな鏡が厳かに置かれているのが見えた。近づいていくと、鏡の横に、一人の老婆が鎮座しているのが見えた。少し、怖かったが、勇気を振り絞り、ガルヴァンは、鏡の前まで向かっていった。すると、その老婆が、

“お前は、今、九弾の鏡の前にいる。お前には、一体何が見える?”

と尋ねた。ガルヴァンは、少し戸惑った。ガルヴァンが見えているものは、何の変哲もない、普通の鏡で、ただ自分が映っているだけであった。少し、考えていると、また、老婆が、

“何が見える?”

と聞いてきた。ガルヴァンは、とっさに、

“自分自身が見えます”

と思わず答えてしまった。すると、老婆は、

“それは結構、お前には、どうやらガートリルとしての潜在能力があるようじゃな。”

と答えた。ガルヴァンは、少し、困惑していたが、老婆は続けて、

“それでは、第二の試練を行う。よいか?”

ガルヴァンは、思わず、うなづいてしまった。老婆は続けて、

“お前の右手と左手、どちらに見える?”

と聞いてきた。ガルヴァンは、いまいち質問の意味が分からなかったが、何気に自分の手を見てみた。すると、左手の小指に赤いリングのような光の輪が見えた。

“左手の小指に赤く光るものが見えます”

と答えた。すると老婆は、

“そうか。お前は。狩人だな。”

と言った。ガルヴァンは、何がなんだかわからず、ただ、

“はい。”とだけ答えた。

 老婆は、こちらを見ているのか見ていないのかわからなかったが、なにやら、袖のあたりを手で何かを探している感じであったが、

“こっちへこい”。

とだけ言い、ガルヴァンに手招きをした。恐る恐る、老婆の元に近づいてみると、

奇妙なことに、その老婆は、老婆の姿ではなくなり、狼の姿になっていた。

“わっつ”

と思わず声をあげてしまったガルヴァンであったが、その狼は、鋭い眼光で、

“お前は、勇気ある狩人である。心して望め”

とだけ言った。

“はい”

そう答えることしか、ガルヴァンにはできなかった。すると狼は、困惑した表情で、

“んっつ。待て。お前。。いや。そんなはずはない。”

と言い放つと、

“勇気ある狩人、お前は、ガートリルとして認められた。精進せよ”

と言うと、また、元の老婆の姿に戻っていた。

“良かったのう。お前は、これからガートリルとしての訓練が始まる。心して望め。

 ご苦労であったな。さあ、母のもとえ帰るが良い“

と言った。

我に返ったガルヴァンは、軽く一礼すると、一目散で部屋を後にした。

 ガルヴァンは、少し涙目になりながら、母親に

“母さん、ガートリルとして認められたよ!”

と叫んだ。すると、母親は、満面の笑みで、ガルヴァンを抱きしめると、

“そうかい、良かったね。頑張るんだよ。”

と言うと、半分に割れた月の紋章であろうペンダントをガルヴァンの首にかけてやり、

“本当におめでとう。これをお母さんだと思って頑張るんだよ”

と涙を拭いながら、ガルヴァンの手を取って、試練の寺を後にした。

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