第46話 魔法を使ってみましょう

 魔法の訓練に使うホールへとやって来ました。

 協会内部にはこんな施設もあるのね。

 移動中に空が曇っていた。雨がふらなければいいけれど。


「ここで二人の魔力を確認するよ」


 天窓と白い壁の大ホール。高校の体育館くらいあるわ。

 そこになにやら魔法陣とか、壁に文字が書かれていたり、謎の装置があったり。

 原理がわからないので、アレックスさんとクレスさんにお任せしています。


「まず攻撃魔法と回復魔法。この二つが全ての基本じゃよ」


「それはどうやったら出せるのでしょうか?」


「そこで僕の発明品だ。この腕輪を付けてくれ」


 金色の腕輪というよりは手甲のようなものを右手につける。

 軽いわね。手の甲を覆うだけのもの。中心に宝石のようなものあり。


「さて、まずはやってみせよう。あそこに的が出る」


 遠くに弓道で使うような的が出現。床から出たわね。

 システムは考えても理解できそうにないので、無視しましょう。

 この世界、結構科学力高いわよね。

 元の世界とは別方向に進化した、が正しいかも。


「はっ!」


 赤い光が的を貫いた。ビームみたいね。


「今のが簡単な攻撃だ。魔力をただ撃ち出すだけ」


「今ので十分強くないか?」


「いや、実は人には効きが悪い。なぜなら人は魔力を帯びている。そこに魔力の塊をぶつけても、多少打ち消し合ってしまうんだよ」


「じゃから炎や氷に魔力を変換し、攻撃力を上げておるのじゃよ」


 なるほど納得。攻撃力を上げて、特殊効果をつけているのね。


「あやこくんは僕の発明品を使っていただろう。あの感覚でいい。集中してから放ての一言でうまくいくはずだ」


「そんなに簡単なものですか?」


「やってみりゃいいのさ。俺はどうすればいい?」


「カズマくんは気を纏って戦うタイプじゃ。こう……全身のみなぎるパワーを開放するイメージでどうかの?」


「いいですね。やってみます」


 カズマが私たちから離れ、一人で集中する。

 あれはバトル漫画の変身シーンね。ああいうマンガ好きねえカズマ。


「はああぁぁぁ…………だあありゃあああぁぁぁ!!」


 カズマが叫ぶより早く、アレックスさんとクレスさんが前に出て、私を隠す。

 その行動の意味を考える間もなく、魔法の壁に風がぶつかる。


「カズマの素質がこれほどとは。興味深いね」


「見事じゃな。あやこくん、怪我はないな?」


「はい。ありがとうございます」


 カズマの全身を白い光が覆っています。聖者レイと戦ったときのよう。


「これは……どうなってんだ?」


「やはり身体能力の向上に使われるんじゃのう。カズマくん。ちょいとこれを殴ってみるんじゃ」


 アレックスさんの飛ばした魔力玉を、なんなく殴って消すカズマ。

 弾けて消える時、ちょっと光って綺麗でした。


「手に痛みは?」


「ありません。かなり体が軽いですね」


「基礎体力が高いようだからね。ちょっと反復横飛びと垂直跳びでもやってみてくれるかい?」


「こうか?」


 カズマが分身しました。しかもブレとかもなく、綺麗に別れています。


「凄いわね。この世界に来る前じゃ、ギリギリ分身まではしなかったのに」


「次、とりあえず上に飛んでくれ。全力でね」


「うおりゃ!!」


 二十メートル以上ある天井に突き刺さってしまった。


「ゆっくり、怪我しないようにおろしてくれると嬉しいです」


 流石のカズマも困惑しているみたいね。突き刺さったまま降りてきません。


「しょうがないのう。ほっほいっと」


 アレックスさんがジャンプし、天井からカズマの突き刺さっている部分だけを斬り裂いて救出。そのまま担いでふわりと降りてきた。

 何も持っていなかったけれど、どうやって切ったのかしら。


「アレックスさん強いんですね……」


「ああ、君達は別世界から来たんだったね。なら知らなくても当然か」


「いやあ、どうもすみません」


「気にせんでもよい」


「全力で飛べと言ったのは僕だしね。初回から加減なんて、わからなくて当然さ」


 カズマが照れ笑いを浮かべながら、申し訳なさそうにしている。

 まあ突き刺さったら恥ずかしいわよね。


「昔のカズマのジャンプ力はどうだったんだい?」


「前は全力でも二メートルいきませんでしたね。授業の身体測定ですけど」


「劇的に上がっているわけか」


「しばらくはコントロールに慣れる訓練じゃ。毎回天井を突き破っていては、まともに戦えんからのう」


「ですね。しばらくこのままで、加減に気をつけてみます」


 カズマはずっと微妙に輝いています。

 昔から他人より輝いているというか、私には眩しい存在でしたが。

 なんとこのたび、物理的に輝かれました。


「さ、次はあやこくんだ」


「よし、やってみましょうか。集中集中」


 魔力を操作するというのは、理詰めよりも感覚の世界らしいです。

 上級はちょっと違うらしいけれど、まず撃ち出すということが大切。

 目を閉じて、右手に意識を集中。体に流れる魔力を集めるイメージ。


「いいね。そのままだ。そのまま突き出してみればいい」


「ふうぅぅぅ…………放て!!」


 心の赴くままに、制御もしないで出した魔力の波動は、人を丸々飲み込める大きさで、壁にあたって大爆発。室内に物凄く大きな音が響きました。

 壁がボロボロです。ひび割れ、大きくへこみ、部屋そのものが揺れました。

 壁そのものが相当分厚いようで、かなり奥までえぐり取られちゃっています。


「…………あの……これは」


「素晴らしい。星の巫女の力、ここまで強大になっているとは。実に面白い」


「凄い威力だな。その必殺技みたいなやつどうやった?」


 目を輝かせている二人。別方向に興味を持っているみたいだけれど、どうやったかは私が一番聞きたいです。


「大きくなり過ぎておるのう。欠片を取り込んできた結果じゃな」


「初心者のレベルではないのですね?」


「威力だけなら中堅か……それ以上じゃな」


「これは外で撃たせると危険かな」


 危険なものらしいです。壁が壊れていますからね。外で撃ったら大惨事ですよ。


「これは要練習じゃのう」


「あやこがやった必殺技みたいなやつ、俺もできますか?」


 カズマの中では必殺技らしいですよ。


「壊れていない壁に試してみたらどうだい?」


「よし……ゥオラアァァ!!」


 ちょっと離れたカズマが右手を突き出す。

 でもなーんにも出ません。魔力にも使い方があるのかしら。


「難しいな。ふっ! はっ! せい!」


 パンチやキックも混ぜて、色々と試すもビームは出ない。

 その代わりに、衝撃波が壁にばしばし当たっています。


「風圧が凄いから、それでいいんじゃない?」


「必殺技っぽくないだろ」


 どうしても必殺技が欲しいのね。たまに男の子っぽいのよねえカズマ。

 ビームを出すための予備動作なのか、両手を前に出して、ゆっくり腰のあたりまで引く。


「はああぁぁ!!」


 全力で突き出すも、無慈悲にもビームは出ない。


「体の光を飛ばせないかしら?」


「それだ!」


 私の何気ない提案に、希望の光を見出したカズマ。


「光を腕に集中するのじゃ。そして一気に爆発させる。穏やかな心を一瞬で解き放つわけじゃな」


「大ピンチのあやこくんを助けると思って、冷静に、持てる力のすべてを出すんだ」


「危ないから、斜め上に向けて撃ちなさい。壁壊れるわよ」


「やってみる」


 カズマの右手に集まる光。全身から溢れ出ては、その輝きを増していく。


「今だ! ゥオラアアアアァァァッ!!」


 結論から言うと、ビームは出ませんでした。

 でも、カズマの右パンチは、その風圧だけで壁と天井の大半を吹き飛ばし、跡形もなく消し去ったのでした。


「拳圧だけでこれか……いったい……どういう力で殴れば、こんなことが起きるんだ?」


「やれやれ……人のいない場所で試させてよかったわい」


「俺の必殺ビームは……出ないのか」


 一人がっかりしているカズマ。陽の光がスポットライトのようにカズマを照らす。

 なんだか余計にしょんぼりしている姿が寂しそう。


「ん……?」


 確かここに来た時は曇り空だったはず。


「雲を散らすほどか……二人はまず、基礎訓練を徹底的にやらねばならんのう」


 そこからひたすら魔力を上げたり下げたり、放出量を操作する作業に時間を費やしました。

 苦労のかいあって、多少はコントロールできるようになったかな。

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