第45話 ロイヤルレポート追記

 温泉から帰ってきた次の日。

 依頼もなく、魔法の訓練は用意があると言われたので後日。

 そんなこんなで自室を掃除したり、ご飯を食べたりです。


「やっぱ私物って増えるんだな」


「そうね、ここにきて実感したわ」


 食べ物や飲み物のような必要なものから、本や小物入れとか日常品まで。

 人が暮らす場所には物が増えます。

 実際に調理器具なんかは結構増えました。


「お茶飲む?」


「いや、飲みたくなったら自分でいれる」


「私が飲みたくなったの。一人分も二人分も同じよ」


「んじゃ頼むよ」


 私がお茶をいれている間に、カズマがお茶菓子を探す。

 適当に見繕って、ソファーと背の低いテーブルの前に持っていけば、だらだらする準備は完了。


「ん、美味いな。ハーブじゃないし……なんだこれ?」


「果物のお茶よ。たまにはいいかなって」


「本当にたまに飲むならちょうどいいな」


 甘いタイプの果物風味のお茶は、クッキーと合わせるくらいでちょうどいい。

 まったりしながら本を読む。こういう時間が大切だと気付くのは、最近忙しかったからかしら。


「ゆっくりできるくらいの心の余裕が生まれたってことよね」


 何の気なしにロイヤルレポートを読み直していると。


「…………あれ?」


「どうした?」


 ソファーで別の本を読んでいたカズマがこちらに訪ねてくる。


「ページが……増えている?」


「……なに?」


 明らかに本が分厚くなっている。それに白紙だったはずのページに文字が出た。


「確かに……見たことがないな」


「どうして今になって……」


「とりあえず読んでみよう」


 最初からめくって見覚えのないページを探し、ちょっとだけ期待を込めて読み始めます。呪いの簡単な解き方でもあればいいのになあ。


『人間の恋愛感情と、そこから生まれる力について追記』


「追記?」


『人ではないわたしには未知の部分が多すぎる。推論などいくらでもできる。それを全て書き続けていてもきりがない。よっていくつかの可能性を提示。加護を受けた人間が成長するにつれて、該当するページがその経験から保管され、浮かび上がるよう本に能力を与える』


「魔法万能だな」


「ロイヤルの能力なのかもしれないわよ」


『これまで加護を与えてきた人間は、どいつもこいつも世界を平和にはできていない。この星の瘴気は厄介だ。これではいつまでも帰ることができない。優秀なわたしが、この程度の世界に時間をかけているなど経歴に傷がつく』


「経歴?」


 ロイヤルがどういう存在なのか不明ね。この世界と帰る場所が違うのかしら。


『ただ強いだけでは駄目だ。応用力がある能力。人間の未知の部分。そんな可能性に期待するしかない。人間は愛だの恋だのに重きを置く。ならばその恋愛感情そのものを戦闘力に変えられるようアシストできないだろうか? 瘴気を浄化する星の巫女計画は順調だ。あれならば瘴気を減らしていける』


「巫女自体はずっと前からいるんだったな」


「ええ、それこそ百年以上前からね」


『浄化した欠片は巫女の魔力となる。ならば結びつけよう。全てを。愛が世界を救う。なんとも陳腐であくびが出るストーリーだ。だが、最後には案外そういうものが大切なのかもしれない。少なくとも、人間にとっては』


 これがあのカズマに迫っていた色ボケロイヤルの書いたもの?

 なんだか別人みたいね。


「代筆の人でもいるんじゃないのかこれ」


「否定はできないわね」


『瘴気は負の感情からだ。とりあえず娯楽でも人間に与えよう。保険をかけて。そして友達以上恋人未満とやらを探す。全世界からたった一組だ。その二人に全てを集中させる。恋する乙女は無敵らしいから、期待しよう』


「これに選ばれちまったわけか。確かに仲はいいし、恋人じゃないな」


「そうね、仲がいいと言ってくれたことだけ覚えておくわ」


 プラス思考でいきましょう。カズマは仲良しだと思ってくれています。

 よし、明日からも頑張れるわ。


『欠片により星の巫女の力は膨れ上がる。常人ではたどり着けないレベルまで。それはあまりにも漠然としているが、器用貧乏よりは全能に近いだろう。よって能力は本人次第で変わる。なんでもありは一番強くてもありということ。わたしはそう信じることにした』


「本当になんでもありになったわねえ」


 爆発から力士、花火に間欠泉。よくわからない光の魔法まで。

 思えば色々出てきたものね。


『まず欠片を吸収させて、魔力を無限に高めるべし。瘴気がゼロになることはないでしょう。ならどんどん強くなればいい。一応強敵も用意した。あとは魔法やこの世界の技術を身につけさせれば、ひとまず成功でしょう』


「ここから白紙ね」


「欠片を集めようってことだな」


「シンプルにまとめたわね。つまり今とやることは変わらないわ」


「ああ、欠片を取り込んで強くなる。魔法も使えるなら使いたいな」


「それは私も興味があるわ」


 ちゃんと使えるように訓練しましょう。

 どうやったって戦闘は避けられない。なら足手まといにならないように。

 いつまでも告白のスキがある状況ばかりじゃないわ。


「しかし魔法使いか……まさか自分がなる日が来るとは思わなかったぜ」


「私もよ。これはこれで貴重な体験ね」


「このくらいの特典がなくっちゃあな」


「やってられないわね」


 どうやら欠片は二人とも集めた方がいいみたいね。

 それに強敵がいる。わざわざそんなものを用意するなんて。


「ん? 強敵?」


「どうした?」


「娯楽で満たす。強敵を用意。女性の声」


 はい、嫌な予感がしますね。口に出したら本当になりそうで凄く嫌。


「このページに書いてあるでしょ、強敵をって……これ、極楽四天王のことじゃ?」


「…………うーわ」


 カズマがうんざりした顔です。私も多分似たような顔。

 あーあどうしましょうこれ。可能性高いわよ。なんせあのロイヤルですもの。


「どう……する?」


「報告……する?」


「信じてもらえるのか? まず異世界から来たことをどこまで誰にばらす?」


「それよねえ……クレスさんは知っているから……」


「あとはアレックスさんに話せたら、それでいいか」


「そうね、あまりこちらのことは知られない方針でいきましょう」


 レポートはここまでしか書かれていない。仕方がないので本棚にしまっておきましょう。


「おおーい二人ともおるかい? 準備ができたんでちょいと来てくれんかのう?」


 扉の外からノックとアレックスさんの声。


「魔法の準備か。さてどんなものが出てくるかな?」


「楽しみね」


 終わったらロイヤルのことも話してみようかな。

 そんなことを考えながら下に降りていきました。

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