第40話 フィナーレは流星とともに
ミュージカルもいよいよ終りが近づいていく。
船は飛行モードとかいうもので、雲の上を漂っています。
満天の星空と綺麗な満月が、私とカズマとミウだけを映していました。
「決着をつけよう、カズマ王子」
「あやこ姫に降りかかる火の粉を払うため、姫への愛を示すため、皇帝ミウ! 貴様を討つ!」
「負けないで、カズマ王子!」
甲板を見渡せる二階から、二人の戦いを見守る。
ラストシーンに相応しい場面ね。
「ここまでよく戦ったと褒めてやろう。だが、わたしには勝てん!」
「どうかな? それにしては、俺に攻撃が当たらないようだな」
さっきからミウの攻撃が全て避けられている。
刀で流し、体を傾け、時に弾き飛ばしているカズマ。
「わたしを上回るスピード……いや、この短期間で私の動きに対応したのか!?」
順調に戦闘経験が蓄積されているわね。
押され気味のミウが、いったん距離を取る。
「だが、我が秘剣を破る術を持たぬお前に何ができる! 最大出力のエンペラースラッシュだ!!」
サーベルに宿る黒い炎が勢いを増している。
あれを受けたらカズマでも危ないわ。
「これがわたしの燃え上がる愛だ! あやこ姫への愛が! この炎を作り上げる! 喰らえい!」
黒炎の刃が魔力を伴い、縦に長く伸びた衝撃波になる。
「カズマ王子! 逃げて!」
「安心しな。その技はもう見切ったぜ。ゥオラアア!!」
手にした刀で、衝撃波を下から斬り上げたカズマ。
そのまま横に一回転すると、カズマの刀に炎が巻き付いていた。
「一度見せた技を、得意気に披露するもんじゃあないぜ。エンペラースラッシュ……返し!!」
さらに回転し、横一文字に黒炎を撃ち返す。
カズマのパワーで衝撃が上乗せされているわね。
「バカなっ!? わたしの奥義が!?」
荒れ狂う暴風と爆炎を避けることもできず、サーベルで受け止めるミウ。
「くううぅぅ……うわああぁぁ!?」
その体が宙に浮き、全身に炎が燃え移りながら、大きく後方へ飛ばされる。
「あやこ姫に向けるには、ちょいとばかりドス黒い愛情だったな。自分の愛でその身を焦がし、燃え尽きな。皇帝ミウ」
「バカな……わたしの愛が……負けるというのか!」
「おい、炎が操作できるなら引っ込めろ。そのままじゃ本当に焼け死ぬぞ」
炎は更に強くなる。このままじゃミウが危ない。
でも空の上じゃ、どうすればいいのかわからないわ。
「ふっ、わたし自身の愛に焦がされるか……なんと醜い結末だ……さらばだあやこ姫。カズマ王子。わたしが死ねば、この炎の暴走も消え去ることだろう」
「ちょっと!? 流石に死なれるのは困るわ!」
「いいんだよあやこ姫。きっとこれは罰なのです」
「そっちがよくても、こっちは寝覚めが悪いんだよ」
燃え尽きる前になんとかしましょう。
私がいる場所は、ミウとカズマの戦っている場所より一階分は上。
ここからなら、告白を届かせて全てを解決できるはず。
「あやこ姫! わたしは……あなたを~愛しています~! 死にゆくこの身が朽ち果てよう~と~も~!」
なぜ炎に包まれながら歌えるのかしら。
これも演出? まあ元気みたいだし乗っちゃいましょう。
「それでも~それで~も~! 私の気持ちは~変わりはしない~! ずっと~ずっと~私の心にいる人は~!」
うわあ……これ恥ずかしいわ。でもやってしまったものは仕方がない。
羞恥心は消すのよ。今は告白を成功させることだけ考えましょう。
「ずっと私を支えてくれて~。辛い時は側にいて~。財宝~なんて~なくても~あなたといられて幸せだから~! だから、いつまでも……いつまでも……カズマ! あなたを愛しています~!!」
歌の最後で七色の流星が、ミウに向かって落ちていく。
「こ……これは……なんだ!? わあああぁぁぁ!?」
虹色の光がミウを包み、炎を消してはじけ飛ぶ。
「これは星魔法レインボースターダスト! 奇跡だ! ミウの体から炎が消えた! 最後なにを言っているか聞き取れなかったが、ミウは救われた!」
そこで足元に何かが転がってきた。なにやらピンク色に輝くそれは。
「これ……浄化された欠片?」
拾い上げると確かによく見るピンクの欠片だ。
両手で包み込めないくらいの大きさがある。
うっかり拾い、驚いた瞬間に吸収してしまった。
「ああ……やっぱりこれは慣れないわね……」
全身にじわりと元気が染み渡るような、なんとも言えない微妙な感覚。
これで確定ね。なんで欠片が出てきたのかは後回し。
「わたしの……負けだ……あやこ姫はカズマ王子に返すよ」
「カズマ!」
カズマのもとへ駆け寄る。お姫様の衣装なのに、意外と動きやすいわ。
「あやこ!」
勢いに任せて抱きついてしまった。
よし、ミュージカルをやらされたご褒美だと思いましょう。
「無事でよかった」
「俺は平気だよ。姫を悲しませるわけにはいかないからね」
「ふっ、わたしに勝ち目などなかったのかもしれないな」
ミウも無事ね。なんだか憑き物が落ちたような顔だけど、服がボロボロよ。
「祝福しよう。そしてわたしは旅に出る。本当の愛を知るために。二人の愛に負けぬ、真実の愛を手にするために!」
「俺が言っていいのかわからないが、応援しているぜ」
「ごめんなさい。私にはやっぱりカズマしかいないの」
「ああ、どうか幸せに……あやこ姫。愛していたよ」
そこで世界が暗くなる。暗転したということは、これで終わりかしら。
『こうして、あやこ姫とカズマ王子は国に戻り、やがて結婚して幸せな家庭を築きました。二人の結婚式に現れたミウの横には、とても幸せそうに微笑む女性がいたそうな。あやこ姫も、カズマ王子も、皇帝ミウも、真実の、そして永遠の愛を手に入れたのでした』
謎のナレーションが入り、謎の拍手が巻き起こる。
ナレーションの声がミウだったわ。
そんなことを考えていたら、私達の服が戻る。
「終わりか?」
「みたいね」
まだ拍手が続いている。
明るくなっても変わらず、客席の人達は拍手を続け、そして消えていく。
「素晴らしかったよ……わたしのミュージカルについてこられた人間は初めてだ! 二人にもう一度大きな拍手を!」
歓声と拍手がさらに増す。そしてミウも半透明になっている。
「なんだか残りたくなってきたな。半透明で留まるか」
「いや成仏しろよ」
「そもそも霊体なの?」
「いやあ素晴らしいね。二人に演劇の才能があるなんて知らなかったよ」
最前列にクレスさんが座っている。そこでなにをしているのですか。
その満面の笑みは何ですかね。
「クレス……すぐ追いつくとか言ってやがったのは、いったいどこのどいつだったかな?」
「すぐ追いついたんだよ。だから最前列を確保できた」
しれっと言いおって。隣で兵士さんが控えめに、同情の視線を送りながら拍手してくれている。借りていた兜は、ちゃんと持ち主に帰ったみたい。
「そうか、なら後始末は任せる。逃げるぞあやこ!」
「ええ、逃げるが勝ちよ!!」
「どこへ行く! わたしとミュージカルについて語ろうではないか!」
清々しい笑顔のミウは無視して、全速力で舞台から逃げる私達。
舞台の疲れも気にせず、公園から脱出しました。
「しばらく外に出たくないわ」
「俺もだ……気力が残っているうちに買い物をするぞ。二、三日は籠城できる準備だ」
幸い普通に食費を使うだけなので、問題はない。
「本当に……どうしてこうなるのかしらね」
「なんとも妙な一日だな」
手早く買い物を済ませて、家に戻りました。
二人で買い物デートとか、そんなことを考える余裕なんてありませんでしたよ。
どっと疲れが出たので、家でゆっくりしましょうか。
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