第35話 お掃除をしましょう

 クレスさんとご飯を食べた次の日。

 熟睡して疲れも取れた私達は、お部屋のお掃除をすることにしました。


「俺達さ、星の巫女としての仕事、ほとんど受けてないよな」


「仕方ないわよ。変な事には巻き込まれるし、アレックスさんから休んでおけと言われるし」


「仕事も来ないしな」


 そんなわけで服も着替えて準備完了。カズマの部屋へ。

 間取りは私と一緒。カーテンも私と同じ薄い水色。

 家具も一緒のデザインね。買った剣が立てかけてある以外は一緒かしら。


「掃除といっても私物が少ないよな」


「そうね、来たばっかりだし」


 はたきで家具をぱたぱたしたり、雑巾で拭いたり。

 掃除機で一気にできないと不便ね。


「クレスさん。掃除機作ってくれないかしら」


「冷蔵庫があるんだ、普通に売っているかもしれんぜ」


「一理あるわね」


 なにがどこまであるか、まだ見極められない。

 思いついたら調べるの繰り返しになるわねこれ。


「小学校の時さ、掃除の時間に野球派とチャンバラ派がいたろ?」


「カズマはチャンバラ派だったわね。それか必殺技の打ち合い」


「そうそう、それなんだけどさ……」


 ホウキを手に取り、剣みたいに構えているわね。


「今の俺が全力出したら使えるんじゃないか? 必殺技」


「埃が舞うからやめなさい」


「…………だめか」


 わかりやすくしょんぼりしているカズマ。がっかりするほどのことかしら。


「最悪風圧で窓とか家具が壊れるわよ」


 そうしたら掃除どころじゃない。アレックスさんに迷惑がかかる。

 まあカズマもその辺はわかっているでしょうし。強く言い過ぎることもないわね。


「強くなり過ぎるのも考えものってことか」


「なによその漫画みたいなセリフは」


「こうして俺の必殺技はあやこの手によって封印された」


「私のせいにしないの…………そんなに使いたいの?」


「使いたくない男がいるとでも? しかも異世界だぞ?」


 ちょっと目が輝いている気がします。男の子って本当にそういうの好きねえ。

 少年の目ね。子供っぽいカズマはなんだかかわいいわ。


「よくわからないわよ。公園で試しなさい。人のいない公園で」


「もし人がいたら恥ずかしいだろ」


「室内でも恥ずかしいわよ」


「大抵一人かあやこと二人だろ」


「私には見られてもいいのね」


「あやこは事情を知っているだろ。笑ってくれるくらいの優しさはあるはずだ」


「ちゃんと掃除しない人は笑ってあげません。まず掃除を終わらせるわよ」


 話しながら手が止まる事はない。カズマは手際もいいし、家事スキルも万能なのさ。

 小さい頃は正直女性として負けた気もしていたけれど、万能すぎて比べるのもバカらしくなったわ。


「いや笑われたいわけじゃないけどな」


「笑われるのではなく、笑わせるのね」


「お笑い芸人の哲学みたいだな。違うから」


 住み始めて間もないので、掃除はすぐに終わる。

 食器は洗ったし、洗濯した服はしまったから。


「あとはなにかしらね?」


「逆に必要なものを考えよう。生活用品と最低限の家具はある。絨毯とベッドがあるから……あとはなんだろうな?」


「こっちの設備がまだよくわからないのよね」


「だな。加湿器とかなくても俺は困らない。PCは当然ないから除外。難しいもんだな」


「むしろ本棚はあるのに本が無いわよね」


 この部屋にも本棚がある。けれど、中身は何もなし。

 カズマは本も読むタイプ。漫画多めだけど。けどこっちの世界の本は買っていない。


「そうだな。家具より中身か」


「今度買いに行きましょう。まだ行っていない場所が多いし、色々見てまわりましょうね」


「乗り気だな。見知らぬ土地で行動的なのはちょいと意外だ」


「だとしたらカズマのおかげよ。カズマが私を引っ張り出してくれるから、色々覚えたんだし。子供の頃からそうじゃない」


「そうか、じゃあちゃんと責任とらないとな」


「そうそうちゃんと責任…………はい?」


「これからもどこかへ行く時は、俺があやこを連れて行くよ」


 うかつだったと……認めましょう。一瞬呪いのことを忘れたわ。

 そうね、昔の私はこういうのを告白とか好意の表れだと思っていたわね。


「俺はどこかへ行くなら、あやこと一緒がいいしな」


 今のセリフから告白されたら凄くよかった。よかったのになあ。

 前から意識していない時に、不意打ち気味で妙なこと言うのよね。

 それで勘違いしかける女の子がいるから直して欲しいです。切実に。


「あやこ、どうした?」


「ちょっと昔を思い出しただけよ」


「そうか。懐かしいよな」


「ええ、あんまり思い出すのはやめましょう」


 カズマの部屋は掃除終了。

 続いて私の部屋も掃除する。

 といっても普段から片付けているし、やっぱり私物は少ない。


「床を拭いて、家具を拭いて、俺の部屋よりやることが少ないな」


「普段から部屋全体を使ったりしないからよ。ちょっと広いのよね」


「なるほど。だから埃が溜まる場所だけ綺麗にすれば終わるのか」


 この部屋二十畳ちょっとあるわね。それプラス、キッチンとお風呂とトイレつき。

 かーなーりいい物件です。星の巫女って大切にされているのねえ。

 他の協会を見たことが無いから、なんとも言えない部分はあるけれど。


「よし終わり。結構時間かかったわね」


「だな、ちょっと疲れた」


「あんなに戦えるのに」


「使う筋肉とかが違うんじゃないか?」


「なるほどね」


 お掃除も終わって、お茶を淹れてひとやすみ。

 テーブルも綺麗にして、クロスをかけて、ちょっとは生活観が出たわね。

 向かい合って座り、もらいもののクッキーがあったので食べる。


「おいし……ハーブかしら」


「ハーブとクリームっぽいものが練りこんであるな」


 ちょっとしんなりしたクッキーは、食べたことの無いハーブの味。

 サクサクよりしんなりが好きなので、これはいいわね。

 練りこまれたクリームの甘さと、すっとするハーブの香りが気分を落ち着かせてくれる。


「リラックスクッキーね」


「美味いなこれ。こっちの食い物は美味いものが多くていいな」


 ゆっくりお茶飲んで、こうして昔の話なんかして。

 ずっとこういう時間が流れていればいいのにね。


「もしかしたら高級品かもしれないわよ。もう食べられないかも」


「それは……切ないな。今のうちに味わっとくか」


 星の巫女といわれようが庶民なのでありました。


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