第34話 やっとお休み。そしてお昼ご飯

 私は疲れていた。それはもうくたくたに疲れていた。


「起きろあやこ。もう昼過ぎてるぞ」


「まだ眠い……」


 今何時かわからないけれど、夜遅くまで戦っていた私は疲れ果てていた。

 女子高生だった私にはしんどかったのさ。

 帰ってきて即眠った。泥のようにってやつよ。


「昼過ぎたら起こせって言ったのはあやこだろ。ほら起きろ」


「カズマが代わりに起きて」


「俺はもう起きてんだろうが」


 正直もう今日は寝ていたい。カズマは元気ね。

 やっぱり呪いでパワーアップしているのかしら。


「……カズマ?」


「なんだよ?」


「なんでいるの!?」


「今更そこか!?」


 そうだ、起こして欲しいと言ったことを思い出した。

 完全に目が覚めたわ。


「大丈夫か?」


「ん……まだだるいけど……まあしょうがないわね」


「辛い戦いだったしな。じゃ、俺は外に出ているから、二度寝するなよ」


「自信がないわ」


「三十分でもう一度部屋に入るからな」


 ちょっと重たい体を起こし、なんとか着替えて身なりを整えたら部屋から出る。


「うぅ……まだ眠いわ」


「俺もちょっと疲れた」


「カズマが疲れるなら、私はもう限界よ」


「わかっちゃいるけど、クレスが待ってるぜ」


「ご飯食べに行くんだったわね」


「ああ、クレスが指定した店は覚えているから安心しろ」


「助かるわ」


 階段を下りながらそんな話をする。ああ眠い。

 お昼過ぎにお食事しながら話そうと言って、協会の玄関で別れたんだったわ。


「アレックスさんは?」


「朝から用事で出かけている」


「そう、クレスさんを待たせるのも悪いし、ちょっと急いで行きましょうか」




 そして外でお食事しながら事情説明を受けることになりました。


「さて、とりあえず僕の方で協会と関係者に説明はしておいた。証拠も山ほど出てきたし、聖女の遺体が奇跡的に見つかってね」


 大通りで賑わいをみせる海鮮料理のお店に入り、説明が始まる。

 家族連れや、カップルなんかが多めの明るいお店。適度な活気があります。

 吹き抜けで一階が見渡せる、二階のボックス席でソファーに座る。


「君達は無罪だ。むしろ町の危機を救ったんだからね。感謝状の一つも渡したいくらいさ」


「俺達で新発明のテストもできたしな?」


「その通りさ。感謝しているよ。というわけでここは僕が奢る。好きに食べていいよ」


 カズマとクレスさんはなんだか仲良くなっているみたい。

 一緒に死線を潜り抜けるとこうなるのかしら。


「すまない。助かるぜ」


「すみません、ご馳走になります」


 料理を食べながらゆっくり話をしましょう。

 私が注文したのは、白い海老と卵をお米と一緒に炒めたもの。

 海鮮チャーハンとでもいうべきかしら。

 旨味がぎゅっと閉じ込められていて、お米もパラパラで好み。いいお店ねここ。


「ん、美味しいわね」


「ここは値段はそこそこ、味は上等といういい店さ。僕のお気に入りだよ」


 クレスさんはどこか楽しそう。食べているのはクリーム色のソースがかかった焼き魚とパンね。ソースをちょっとパンに付けて食べているけど、あれが正しい食べ方なのかしら。


「さて、聖者レイだが、色々と研究をしていたらしくてね。まだまだ余罪が出てくるそうだよ。もっとも、本人はもういないけれどね」


「あれほど頭のおかしいやつには始めてお目にかかったぜ」


 魚介パスタを食べながら耳を傾けるカズマ。平べったい麺で貝類が多めね。

 大盛り無料という点に釣られて注文していたわ。


「まあ聖女様復活のために無茶をしていたことは、簡単に想像できるしね。結晶が出てきたのは、自分の人形が瘴気に包まれたとき、そのまま意思を持ち、自分の指示に従ったことから、瘴気をエネルギーにすることを思いついたらしい」


「よくまあ危険なエネルギーを利用しようなんて考えたな」


「あれ? でもレイからも出てきましたよね?」


「ああ、彼は聖女シャルロットと並び、聖者と呼ばれることを望んでいた。つまりシャルロットと同じになりたかった」


「つまり?」


「食べたのさ。瘴気の塊を」


「うえぇ……」


 倒した後でも気持ち悪い。心底気持ち悪いわあの人。


「そんなでたらめな敵に勝ったんだ僕達は戦友といっていいんじゃあないかな?」


「だな。異論はない」


「そうですね。本当にお世話になりました」


「そうかい、だったら教えて欲しいな。君達が何者なのか。一度疑問が吹き出ると止まらないものでね。戦友のお願いだ。まあ無理にとは言わないさ」


 おおう、そうきましたか。これは悩むわね。

 信じてくれそうな気はするけれど、巻き込んでもいいものかしら。


「かなり胡散臭いというか……レイをバカにできん嘘くささだぜ?」


「正直これは二人の秘密にしておこうかと思っていましたから」


「構わないさ。困るようなら聞かない。聞いても誰にも話さない」


 どうしようか考えながら食べていたら完食していた。ちょっとだけ物足りない。


「俺のも食ってみるか? いけるぜ」


「ありがとうカズマ」


 カズマにパスタをちょっとわけてもらう。気配りのできるイケメン。それがカズマよ。

 ソースの味が濃い目だけど悪くないわ。


「雰囲気も料理もいいわねここ」


「なにより俺達の手持ちで食えそうってのが最高だ」


「自分で言うのもなんだが、僕はセンスがズバ抜けているからね」


 前に聞いたセリフはスルーして全員完食。

 おいしいものは気分を安らげてくれるわ。ついでに決心も固まった。


「正直なところ……協力者は必要だと思うの」


「だろうな。これから先、どうやったって俺達じゃ頭打ちになる」


「じゃあクレスさん。これは私達の旅の目的で、本当の話です」


 クレスさんは真剣に話を聞いてくれる。私達を信じてくれているのでしょう。


「私達の目的は二つ。第一にカズマの恋心や異性への興味の欠片を取り戻すこと」


「二つ目は元の世界に帰ることだ」


「……予想外の答えだな。理解が追いつかないが……欠片?」


「俺は正直ピンときていない。その辺の説明はアヤに任せる」


 カズマは恋心そのものがなくなっているから、この説明は私にしかできない。


「レイを倒した時に出てきたピンクの結晶が、カズマの恋心や異性への興味を回復してくれるんです。あれを集めないと、カズマは一生鈍感難聴系ハーレム主人公として生きていくという呪いを受けています」


「専門用語が多すぎてさっぱりだ」


 ですよねー。最初は私も戸惑ったし。初見で理解するのは無理だと思うわよ。


「俺を見られても困る。正直理解できん。自分のことだとなぜか実感できないんだよ」


「できないのにあやこくんの言う事をきいているのかい?」


「よくわからないが、あやこは本気だ。本気で困っていて、本気で俺のために動いている。それは幼馴染として付き合いが長いからわかるつもりだ。なら俺のやることは一つさ」


 そういうかっこいいセリフは言えるのよね。

 異性に興味がなくてもそうなんだからタチが悪いのよ。


「なるほど、まるで恋人同士……いや、熟年夫婦のようだね」


「はっはっは、あやこには俺なんかより相応しいやつがきっと現れるさ」


「これです。こういうことです。こういうところですよ」


「なるほど、鈍感ね。面白いじゃないか」


 理解が早いなあ。自分で魔法の武器が作れるくらいだし、天才なのかもね。


「とにかく星の巫女が浄化した結晶を集めていると」


「はい、呪いを解くのに必要です。集めないと告白もできませんし、通りません」


「告白……そういえばレイとの戦いでしていたね」


「うわあ……聞こえちゃいました?」


「ああ、最初の部分だけね。いいじゃないか、青春大爆発ってやつか。僕はそういうこととは無縁だが、なんだかほっこりするねえ」


 完全に意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうにこちらを見るクレスさん。

 この人もいい性格しているわほんと。


「なんの話だ?」


「レイとの戦いの話よ」


 話がややこしくなるから、ちょうど来たデザートを食べていてもらいましょう。

 フルーツが何種類も使われている。辛かったりしないでしょうね。


「想像はついたよ。告白しようとするとなぜか邪魔が入る。邪魔の効果が毎回ランダムなんだろう?」


「本当に察しがよすぎません? なにか知っていたりしませんか?」


「いいや、実際に間近で見ていたからわかったことさ。自分で言うのもなんだが、僕は天才というものらしいからね」


 クレスさんが尋常ならざる美形であることも相まって、天才でも嫌味も違和感もない。

 どうせ完璧超人なんだろうと先に予想できてしまうからかしら。


「面白いね。個人的に研究してみたいけど……」


「危険ですから、お勧めはできません」


 あなた一回それでお寿司屋さんになってますよ。


「だろうね、残念だよ。それで、元の世界というのは?」


「俺達はこことは別の世界から来た。魔法もないし、魔物もいない。猛獣はいるけどな」


「まったく違う文明の世界です」


「興味深いね。別世界そのものは否定しないよ。天界には神が住むといわれている。逸話も残っている。あっても不思議じゃあない」


 神様とかいるのね。実在していると集客効果が高くて、お布施がもらいやすそう。


「話が早くていいな。俺達は元の世界に帰ることも目的だ」


「カズマがこのままじゃ帰れませんけどね」


「このままで帰れる機会が来ても?」


「帰りません。欠片を集めきらないと帰りません」


 まあこの世界も悪くないし、カズマの恋心が戻らないなら帰る気もないわ。


「ま、こっちも嫌いじゃないんでな。やり残した事があるってのも気にくわねえ。中途半端はよくないぜ」


「同感だね。しかし別世界か。少しだけどんなところか聞いても?」


 自分達のいた世界と、欠片について説明を続け、そこそこ長く喋っていた。

 お茶なくなっちゃったわ。料理も食べきったし帰りましょうという話になる。


「それじゃ、欠片を見つけたら教えてあげるよ。レイ討伐の報酬は後日払われる」


「助かります……報酬?」


「あいつ指名手配犯だったのか?」


「いいや。だが街を守り、聖女の遺体を取り戻した。君達に報酬がないなんて気に入らない。だから説得した。僕からもちょっと付け加えておいたよ」


 どうやって説得したのかしら。やっぱりいいところの貴族なのねきっと。


「そういえば、戦いの最中に白く光っていたのはなぜなんだい?」


「あれはアレックスさんにもらった花のおかげらしい」


「私の花が防御結界で、カズマの花が一時的に潜在能力を爆発させて神経を研ぎ澄ませる効果らしいですよ」


 帰った時にぼろぼろだった私達は、まだ起きていたアレックスさんに、半分寝ながら事情を話し、説明してもらいました。初めから危険な場所へ行くと予想していたらしいです。


「つまりカズマはあれくらいできる素質があると」


「呪いで強化されているところもありますけどね」


 もうレイとどっちが化け物かわからないくらい強化されたわね。

 まあどうなろうがカズマへの愛は揺らがないわ。


「おかげでなんとかあやこを守れているさ」


「守らなければいけない状況に首を突っ込まないことだね。やりたいことは早めにやっておくんだよ」


「そうですね、とりあえずぐっすり寝ます」


 もう疲れていた。カズマも私も戦闘なんてこっちに来て初めての経験だもの。

 くまちゃんと遊んだりしながら、ほのぼの異世界ライフでいいじゃない。

 なんで妖魔とか聖者と戦うはめになるのよ。


「なるほど。休息は必要だ。よく寝ておきたまえ。用事ができたらそっちの宿に行くよ」


「はい、色々ありがとうございました」


「世話になったな」


「僕の方こそ。それじゃあまた会おう」


 クレスさんと別れ、お昼すぎの町をカズマと歩く。

 女の子に戦いの日々はしんどいです。

 早くお家に帰りましょう。

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