第28話 新装備ゲットです
月の昇った夜九時。準備を終えて玄関まで行く途中。
アレックスさんと鉢合わせしました。
「おや、お出かけかね?」
「ええ、ちょっと。カズマとクレスさんが一緒ですし。すぐ帰ります」
「ふむ……ではこれを渡しておこうかの」
緑色の宝石三つ。いやいや高いでしょこれ。なぜここで宝石?
「そんな高価なものを……」
「安心せい。宝石ではない。回復魔法を込めた石じゃ。危なくなったら使いなさい」
「いいんですか?」
「構わんよ。安物じゃ。それと、前あげた花は肌身離さず持っていなさい。一回くらいなら助けてくれるじゃろ」
「ありがとうございます。行ってきます!」
受け取って懐にしまい。一礼してカズマたちの待つ玄関へ。
帰ってきたらアレックスさんに何かお礼をしないといけないわね。
「今更だが酔狂だな君達は」
玄関まで行くと、クレスさんとカズマの話し声が聞こえてきた。
「会って間もない聖女様を助けに戦地へ向かうなんて。一晩眠れば忘れてしまうかもしれない相手だというのに」
「確かにな。だが出会っちまったし、話しちまった。俺達のことを知られている。つまり黒幕を倒すしかないのさ」
「そういうこと。このままじゃあ、夢見が悪いのよ」
カズマが扉を開けて外へ出る。
外の風は昼間より少し冷たくて、戦いに赴くことが、ほんのちょっと怖くなった。
「あやこ、夜中に女の一人歩きは危ないぜ」
「そうだな。聖女様のところまでエスコートしてあげるとしよう」
二人が私の正面に並び、カズマがそっと手を差出して微笑んでくる。
「さ、参りましょうか。お嬢様」
二人の声が重なった。さてはこれ練習したわね。
「よろしくお願いします」
なんとか笑顔でカズマの手を取った。
冷静に……冷静になるのよ。簡単に言うと超かっこいい。
月明かりで照らし出されるキメ顔のカズマは危ないわ。
クレスさんという正反対のタイプのイケメンを横に配置することで、完成された絵画のような美しさがあった。長時間この空間にいると鼻血出るわこれ。
「あやこくん、これを渡しておく。腕に付けておいてくれ」
クレスさんから渡されたのは、右腕に付ける……手甲? のようなもの。
指よりも長い筒がついているわね。
「簡易式の魔力弾射出装置だ。試作品だけどね」
「自分で作ったのか?」
「僕は発明家だよ。この程度わけないさ」
付けてみるとそれほど重くない。普通に動けるし、腕輪に手を防護するための薄い素材をくっつけたような何かは、振ってみても支障がないくらいだ。
「筒の反対側が宝石に繋がっているだろう? そこに僕の魔力を貯めておいた。左手を宝石に添えて、射出のイメージと『放て』という言葉をキーとして使う」
小さなレバーがついていて、左に向けると一発。右に向けると三連射できると得意げに説明してくれました。え、これ凄いんじゃ……?
「俺達にはどれほどの技術が必要か見当もつかないが、素直に感動したぜ」
「別に遠距離攻撃がしたければ、もっと安くて威力のあるクロスボウだってあるさ。僕のは誰でも、特に女性が安全に使えることを想定したオンリーワンな代物だよ」
前から自分の装備として開発していたものを、いい機会だからと私にテストしてもらおうとのこと。
クレスさんは説明が楽しいのかどんどん饒舌になる。
「こんなに無駄金のかかるものは、道楽で作るものだと軽視されている。ああその理屈は納得できる。威力も魔法に勝てず、値段の安くて強い弓矢のように量産されていない。メンテナンスも必要だ。団体で使うには絶対に向いていないだろう。だがそこに……」
「話が逸れはじめているぜ。まずどう使うか。あやこに危険はないかが先だ」
「む、おっと……すまないね。どうも熱中すると周りが見えなくなる気がする。悪い癖だ」
「いえいえ、凄いのは伝わりますから」
魔法の道具を自分で使う日が来るとは思ってなかったわ。慎重に使っていきましょう。
「二十発ほど撃てるはずだ。足りなくなったら僕に言ってくれ。補充する」
「ありがとうございます。あの、カズマにもありますか?」
「一応ね。これを利き腕に付けておくんだ」
カズマがもらったのは、手甲とグローブの中間の……何か刃のようなものが見える装備。
「そもそも馬鹿力でアホほど頑丈なんだ。武器も防具も邪魔になるだろう。だがそれだけじゃ戦闘に幅がない。だから必要な時にだけ伸ばせる鉤爪にした。一応本人の魔力や精神力をくっつけたりもできるけど……」
「俺に魔力があるかは微妙だな。だが助かる。礼を言うぜ」
がしゃんと音をたてて一本の刃が伸びた。
手を切らないようにグローブのような装甲がついている。
カズマの身体能力を活かした装備ね。
短時間で私達の能力を見抜くクレスさんが凄いわ。
「それじゃ出発しようか」
三人で月明かりと街灯に照らされた町を歩く。王都マグナヴェリスは道も広くて明るい。
まだ人もまばらに存在している。大半は帰り道なんでしょうけど。
「この町は夜でも明かりがあるな」
「治安向上のためさ。道は常に整備されている。過去に大改革があってね。路地裏のような細くて危険な道を作れないように設計してあるんだよ」
「なんだかものすごく徹底されていますね」
「そんな町でよくまあ人形で人さらいなんぞしようと思ったな……」
「ただのアホか、問題ないほど保険をかけてあるかだね」
後者だと面倒ね。今から相手にしないといけない私の身にもなって欲しいわ。
「さて、それじゃあ話していこうか。あの仮面の女性は人間じゃない。人形だ。あいつらは製作者がいて、簡単な指示で動いている」
簡単な指示か。私を連れて来いとかそういうことかしら。
「人形は全員聖女シャルロットと容姿が同じだ。顔しか見ていないが、少なくとも四人は同じ顔だった」
「にわかには信じがたいな」
「今日僕は聖女の仕事について取材していた。その後だよ。ついでに館内を回ってみる許可をシャルロットさんからもらった」
なかなかにアクティブな人ね。そして問題の部屋を見つけたんだとか。
「で、そのとき僕は探検気分で浮かれていたのかノックを忘れた」
そしてずかずか部屋の奥に入っていった結果、着替え中のシャルロットさん四人に遭遇したらしい。
「そいつはまた災難だったな。着替え中の女に遭遇するなんて、ぎゃーぎゃーうるさくて面倒だろう」
「まったくだ。一応謝罪したよ。着替えなんて見たくもなんともないけれど、見てしまったことは事実だからね」
この二人は女性の着替えを何だと思っているのかしら。
男の人って下着とか裸を見たらもっと嬉しいものじゃないの?
それとも嬉しいのは漫画的な表現で、フィクションの世界なのかしら。
実際にバナナの皮で転ぶ人がいないように、着替えを覗いて喜ぶ人もいないのね。
勉強になったわ。
「全員同じ顔、しかも顔だけ生身の人間でね、後は土や木なんだよ。それがじわじわ全身人間の肌に変わっていくんだ。これはもうホラーだ。明るいうちじゃなければ、しかも僕でなければ悲鳴を上げていただろうね」
「うわぁ……想像したくないなあ……」
「で、謝罪したのに『見られたからには殺すしかない』ってんで追い掛けられたのさ」
後は敵を倒しながら私達と出会ったらしい。
「その人形ってのは、あんな風に感情豊かというか……しっかりと意思を持って動くものなのか?」
「いい着眼点だ。戦闘バカかと思えば、案外頭の回転が速いじゃないか」
「褒められている気がしないな」
少しにやけているクレスさんと、やれやれといった雰囲気で笑うカズマ。
これは雰囲気が悪くなっているわけじゃなくて、お互い適当に話しているだけね。
「はっきり言うが不可能だ。というより無駄なんだよ。まず声を出せるように魔力を送るなら、その分を身体能力に回すべきだ。人間様のように高性能な脳みそも持っていないから、交渉なんてできない」
完全に人形なのね。でも敵は確かに話ができた。
「人間の肌にする必要なんて無い。人形の方が襲ってきた時に怖いだろう? 戦闘用に作ったというよりは美術品に近いな。シャルロットに似せているのは、こだわりでもあるんだろう」
「あの、シャルロットさんは脅されて従っているようでした」
シャルロットさんに敵まで誘導された時のことを話しました。
「その子がオリジナル、ということか」
「オリジナルね……僕はその子も偽者なんじゃないかとにらんでいる」
「その可能性もあるが、シャルロットが脅えていたのも事実だ。あれが演技なら、聖女なんかやらずに女優で食っていけるな」
「ううむ、そこまで感情のある人形か……そんなものを作る理由がわからないな」
どうも人形を動かすことは、そこまで高度な技術ではないらしいです。
「戦闘にもイマイチ使えないんだよ。まっすぐ行って、敵というか人間がいたら剣を縦に振れ。程度の指示しかできない。途中に落とし穴があっても回避するという知能は無い」
そんなわけで、戦闘ですらあまり使われていないらしい。
「謎だな。そんな連中がなぜあやこを狙ったのか」
「僕のように素顔を見てしまった?」
「それはない。だったら俺ごと始末すればいい。手荒な真似はしないと言っていたから、どこかへ連れて行くことが目的と推測できる」
「ますますわからないな。なぜ狙われたんだ? 本当に思い当たる節はないのかい?」
言われてシャルロットさんと過ごした時間を順番に思い出す。
「なにもなかったはずです」
「本当に心当たりがない」
やっぱりわからないわね。それからも話し合った結果、一つの疑問が浮かんでくる。
「シャルロットさんが犯人だとして、人形を作ったのは誰かしら? それに聖者様は無関係なの?」
「職場が同じなんだ。まず間違いなく隠せないだろう。協力者か、人形か……」
「でなきゃ主犯だな」
熱心なシャルロットファン。つまりシャルロットさんの人形を作るだけの理由はあるわね。
ただファンになるという命令を受けた人形の可能性もある。
どちらかは不明だけど、レイさんに油断はしないという結論になりました。
「ついたな。わざわざ出迎えご苦労。土人形くん」
美術館の前まで来ると、フードも仮面もしていないシャルロットさんが待っていました。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
「きみが先だシャルロット。背後を取らせたくない。常に僕達から少し離れて先に行け」
いよいよね。気を引き締めてかかりましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます