第23話 これはもう美術館デートといっていい

 無料期間中の、お金を払わなくていい美術館へとやってきました。

 来る途中町の人々がこちらを振り返っては小声でなにやら言っていましたよ。

 イケメンとか羨ましいだの片方分けて欲しいだの。カズマは私のです。


「しかし、まさかこんな大きな建物とは……」


「街の小さい美術館だと思っていたわ」


「ここは国立の美術館だからね。一日で全部見るのは多分無理だよ」


 予想していたより何倍も大きい……外国の神殿みたいな美術館くらいの大きさ。

 教科書やテレビでしか見たことのないアレですよ。

 真っ白な外観から高級感と歴史を感じますね。

 これ本当に無料? 別にお金に余裕があるわけじゃないのよ?


「これは高いわね。建物も入場料も」


「ついでに入るやつの意識と飾ってあるものの値段も高いとみた」


 これは入るのをちょっとためらうわ。カズマも私もセレブじゃないもの。

 元の世界でもこの世界でもね。


「普通に家族連れで入ったりする場所さ。今日はただなんだ、堂々と行こう」


「そうね。ただほど高いものはないらしいけど」


「それでも今日は無料に感謝しておこう。感謝の気持ちはただ、だからな」


 今の私は無料という言葉に弱い。所詮普通の女子高生ということですよ。

 私達は一階から見て回ることにしました。美術館の展示は綺麗な指輪なんかも多い。

 大きな宝石のついた指輪がケースに並んでいるコーナーは、照明の関係もあるのかキラリと光って美しさが更にアップ。色とりどりで素敵です。


「はー綺麗ねぇ。一つくらい送られてみたいものよ」


「こっちの人も指輪を送るんだな」


「大昔の絵にも恋人に指輪を送る絵とかあってね。長く続いている習慣なんだろう」


「身につけられるものと考えれば、おかしなことはないな」


 贈り物で身につけるなら、相場は指か首かよね。

 で、外れやすいとダメだから輪っかになるのは自然の流れ。

 こういう考察はちょっと面白いわね。


「綺麗ね。好きな人に送られたら嬉しいでしょうねえ」


「あやこも、もう少し大人になったらそういう相手が現れるさ」


「はいはい、お約束ね。今のは自分でもわかっててやりましたよーだ」


 カズマの鈍感さで遊んでみた。心に余裕ができてこそなせる業よ。

 これができてようやく呪い初心者は卒業ってところかしら。

 ……卒業したことに悲しみしか感じないわ。


「なんだそりゃ? 何の話だ?」


 どうせそう言うと思ってたってことよ。本当にどうにかならないかしらね。


「なるほど、そういう関係か。面白いね」


 初対面のクレスさんでもわかるみたい。

 それなのにカズマときたら、この察しの悪さですよ。


「カズマもそれくらい察しがよければ……」


「ま、頑張りたまえ。他人の色恋に首を突っ込む趣味はない」


「助かります」


 それからも高級そうな首飾りとか、装飾品を見ていきます。

 宝石だらけのネックレスなんて、あれ一つで何年分の食費になるのかしら。


「美術館ってもっと絵とかツボばっかりのイメージだったわ」


「俺もだな。ツボと絵画や掛け軸のイメージだよ。あとブロンズ像」


「かけじくがなにかわからないが、絵は二階だよ。一階のホールにもあったろう? あそこから階段を登って行くと絵画コーナーだ」


「なるほどな。一階のでかい絵は呼び水だったわけか」


 そういえば二階への階段前に、凄く綺麗な女性の絵があったわね。

 かなり大きな絵で、髪の長い大人の女性。


「美人さんね。あれが聖女様かしら」


「ああ、大昔の聖女、シャルロット様……らしいね」


 モデルがいるとしたら絶世の美女ね。

 元の世界にいたら大女優確定だと思う。

 写真集と出演作の印税とかで家族三代は食べていけるんじゃないかしら。


「こっから武器だな。英雄の武器とかあるらしいぞ」


 声がほんの少し弾んでいるカズマ。

 隠しているつもりでしょうけど、付き合いの長い私にはわかるわ。

 そんなカズマと三人で刀剣や槍なんかの武器コーナーへ。


「おぉ……こいつは凄い。いかにも伝説の剣ってやつだ」


 カズマが立ち止まって凝視しているのは、金色の柄に赤い宝石の嵌めこまれた立派な剣。刃渡り二メートルはある両刃の剣です。ちょっとカズマの目が輝いている気がするわ。


「でっかいな。戦闘用だとして、これは振り回せるのか? 刀身にも文字のようなものが彫ってある……どこかに解説はないか?」


「さては冷静に観察しているふりしてテンション上がっているね?」


「カズマにも子供っぽい一面があるのです」


「悪いな一人だけ。先に進むか?」


 照れ隠しに順路の先を見て提案してくる。こういうの好きなのね。

 まあゲームでしか存在しないような武器があるんだし、満足するまで付き合いましょう。


「いいわよ、興味ゼロってわけじゃないし。ゆっくり見ながら行きましょう」


「ああ、実に興味深いよ。心配しなくても楽しんでいる」


「そうか、助かる。付き合わせちまってすまない」


 赤と白でそれぞれ炎と風が出る双剣とか、有名な賞金稼ぎが使っていたらしいハルバードっていう長い斧のような武器を、カズマは興味深そうに見ていました。


「武器を飾る金持ちの気持ちが、ほんのちょっぴりだが理解できるな」


 武器というと物騒なもののイメージですが、芸術品として綺麗な剣もあります。

 宝石がついていたり、刃が見る角度によって光の反射で五色に変わったりするものまで多彩です。

 ゲームの中なら高いんだろうなあとか、宝箱からしか出ないやつだなーとか考えてしまう。


「武器も凄いが、これをブン回して戦っていた人間がいるってのが凄いな。これ持って移動とかしてたんだろ?」


「戦う前に疲れちゃいそうね、それ」


「それじゃ意味がないけれどね」


「とんでもない人間もいたもんだ」


 カズマはそれになりかけてるわよ。

 っていうかなってるわよ。と思ったけど言わないでおこう。


「魔を滅するため、当時の実力者達に合わせて作り出されたシリーズだとさ。いいね、ロマンってやつが溢れているじゃあないか」


 重騎士の槍とか、名のある剣士の妖刀とか、精霊の支配者の杖とか大層な解説のついた武具だ。ここは有名なシリーズなのか人も多いわね。家族連れからごつい男性客……英雄志望の人かしら? そんな人から小・中学生くらいの子供までいます。少し男性多めだけど、意外に女性客も多い。


「この辺はイケメンの持ち物シリーズ……どんなくくりよこれ」


 女性客の増えるゾーンに突入。

 クレスさんによると、存命の英雄にはイケメンもいるんだとか。

 どんな世界でもファンっていうのはいるのね。


「はぐれないように気をつけろよ」


「そうね。カズマ、危ないから手を繋いでいきましょうか」


 今回は先手を取る。すっとカズマの横に立ち、手を差し出す。

 結構恥ずかしいけど勇気を振り絞る場面よね、ここ。


「そうだな。そうするか」


 なんでもないことのように手を握ってくるカズマ。

 嬉しいけどちょっと悲しい。でも嬉しい。複雑ね。

 カズマの手はいつも大きくて温かい。こっちに来てからちょとごつくなったかしら。


「ふむ、やるじゃないか。見ていて微笑ましいよ」


「ふっふっふ、いつまでも遅れを取っていたりはしないのですよ」


 ここは勝ち誇っておきましょう。勝ったのよ私は。

 告白が通らないという意味では惨敗だけどね。 


「カズマくん、この状況で女の子を一人にしないようにするんだね」


「承知のうえだ。あとカズマでいい」


「それじゃあ僕もクレスでいいよ」


 そんなやりとりを続けながら展示品を見て行きます。


「ほう、魔剣のレプリカか。数ある贋作の中で一番出来が良いもので、持ち主の心を安らげて精神力と肉体の向上を図る機能付き。魔剣なのに安らぎ求めてんのか」


 カズマはなにやら真っ黒な剣に夢中です。うわあ男の子が好きそう。

 クレスさんも興味深そうに見ています。


「そもそもガラスケースに入っていようが魔剣なんだろ? 展示していいもんなのか?」


「レプリカだからな、噂の聖女様とかが浄化してるんじゃあないかね」


「そういや浄化作業見に来たんだったな」


「そうだね。じゃあこの武器展を見たら会いに行こうか。ちょうど約束の時間になるだろう」


 聖女様か……きっと人気が出ているってことは綺麗な女性なんだろうなあ。

 ん? 綺麗な女性…………ああ……なんだか嫌な予感がします。

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