第22話 巫女のお仕事がありません
動物園から帰って。疲れからかぐっすり眠った私達。
今日から星の巫女のお仕事をしてみようと思います。
「おはようございます」
一階にアレックスさんを発見。カズマと二人で挨拶します。
「おお、おはようさん」
「今日はお仕事のことで……」
「おお、とりあえず座りなさい。立ち話もなんじゃろ」
いつものリビングです。もう朝食は終えたので、今日はごちそうになりません。
適当にパスタを作りました。面倒なときはパスタとサラダでいいのよ。
「二人には簡単な仕事からじゃ。難しいものは他の人間がやる」
「他の人……そういえば、俺達以外の人を見ないような……」
かなり大きな建物なのに、あんまり人がいないのよねここ。
「この王都は広い。なので複数支部がある。そしてここは結構新しいんじゃよ」
「建物が綺麗なのはそれもあるんですね」
「そんなとこじゃな。そして、ワシはしばらく怪我で休業しておった。つまり、元々数人しかおらんのじゃよ。ナッハッハッハ!」
結構問題なのでは? さらっと言っているけれど、どう触れるのが正解かしら。
「最低限の人員は確保してあるし、星の巫女もおる。立派に協会じゃ。悲観する事はない」
「それで運営とか大丈夫なんですか?」
「国から金は出ておるし、財宝が山ほど残っとるから問題なしじゃ」
財宝? お金持ちなのかしら。まだまだ謎が多いわねアレックスさん。
「俺達には難しい問題ですし、仕事を進めていくしかないですね」
「うむ、では仕事じゃが……全部終わっとる」
「…………はい?」
まだなにもしていませんよ? あれ、これ私達いらない子なんじゃ。
「一人メッチャメチャ優秀な子がおってのう……その子が全部やってしまうのじゃよ。全て私がやりますと言って本当に終わらせてしまう。星の巫女としても戦士としても高レベルで完成されておる……もう少し年頃の楽しみを知って欲しいもんじゃが」
なんだか自慢の部下を心配しているようね。
ここまで褒められる巫女……仕事のできる女っていうのかしら。
ちょっと憧れる響きね。
「困ったもんじゃのう……ちょっと遠くの町に行っておるから顔合わせもできん」
「なら先輩巫女の仕事っぷりでも見に行かないかい?」
リビングの扉から見知らぬ男の人がやってきた。
後ろで細く一本にまとめて、腰のあたりまで垂らした金髪はとても綺麗です。
ルビーのような赤い瞳はどこか高貴な雰囲気。
服装が普通の人より綺麗なことと、一挙手一投足に優雅さがにじみ出ていることから、多分貴族なんだろうと予想。
「おお、クレスくん。メンテは終わったのかい? 長いこと調整しておったようじゃな」
金髪イケメンクレスさん? はカズマより身長がちょっと低いくらい。
つまり百八十以上はあるわね。すらっとした美形よ。
「ええ、無茶な使い方をしましたね? 試作品だから扱いは丁寧にと言ったはずですが?」
カズマと並ぶと生半可な絵画じゃ比較にすらならないほどの美しさ。
でも私にはカズマがいる。どれほどの美形が出てこようが一ミリたりとも心が揺れ動くことはない。美形であってもそれだけです。
私が好きなのはカズマただ一人!
「ナ……ナハハッハハ……すまんかった……使った感想と修理代はがっつり色をつけておくから許してくれんかのう? このっとおおおおりじゃ!!」
ジト目のクレスさんに謝り倒しているアレックスさん。
二人の関係性がわからないわね。
「失礼。クレスだ。ただのクレス。それだけ覚えてくれればいい。敬称はお好きにどうぞ。歳も離れていないようだしね」
私達の視線を察したのか自己紹介してくる。全動作が流れるようです。
これが貴族か。なんというオーラ。
「あ、あやこです。よろしくお願いします。星の巫女見習いです」
「カズマです。星の巫女の守護者をやっています」
「よろしく、僕はマルチに発明家と……アレクさんの協会の整備・改造なんかをやっている」
「いつも助かっとりますわい」
整備と改造……改造? なにか特殊な装置があるのかしら。
「整備って……なんのですか?」
「君達もここで暮らしているのなら見ているだろう? 食材を冷凍・冷蔵させるあれとか、焼き加減と時間を設定できる窯とかだよ」
「あの冷蔵庫か。凄い人ですね」
「凄いだろう? もっと褒めてもいいんだよ。あの新型は製品として完成された第一号を特別にこの協会にプレゼントしたんだよ。既存のものは冷凍と冷蔵を両立できなかった。根本的な術式が違うため、回路に魔力が流れにくく威力の調節が……」
凄い勢いで話し始めたわ。目が子供のように輝いている。
「これこれ、新人を困らせるもんじゃないわい」
「失礼続きで申し訳ない。自分で言うのもなんだが、センスというものがズバ抜けていてね。いや、ズバババババくらい抜けているね」
「よくわかりません。協会の関係者ではないのですか?」
「微妙だね。アレクさんが試作品のテストをしてくれるものだから、お言葉に甘えているのさ」
いやいや微妙って。貴族なのにファーストネームを呼ばせるということは、何か事情があるのかも。こういうことは本人が話したくなるまで触れないようにしましょう。
「いやあほら、最新型とか試作品とか、一つだけの改造品とか……なんかわくわくするじゃろ?」
本当に人生を謳歌している人ね。こういう生き方は純粋に羨ましいわ。
「あー俺ちょっとだけわかります。ワンオフ機とか、試作ゆえに無茶なシステムぶっこまれた機体とか男のロマンかも」
「わかるかね? いいセンスだ。僕は自分のロマンと、市民の生活向上を両立させた生き方を目指しているのさ!」
この人も楽しそう。やっぱり男の人ってそういうの好きなのね。
カズマも小さい頃ロボットアニメとかヒーローもの好きだったし。
世界が変わっても男の子は男の子なのでしょうか。
「もう本題に入るのじゃ。キリがないじゃろう」
「ああ、そうだった。聖女様を取材に行くから、ヒマなら一緒に行くかい? 新米星の巫女の話しも聞きたい」
まーたよくわからない単語が出てきましたよ。
この世界について知らないことが多いわねえ。
「聖女……あの聖女シャルロットの再来と騒がれている?」
「流石アレクさん。耳がいい。運良く取材許可が下りましてね。噂の聖女シャルロットの浄化作業を見てみたら参考になるんじゃないかな」
「俺達は遠い国から来まして、その聖女さんを知らないんです」
「聖者レイが美術館に連れてきた星の巫女でね。大昔に聖女と謳われた星の巫女シャルロットと名前が一緒だとかで大人気だ」
肖像画が多数存在する伝説の聖女様だったらしく、国立美術館には大小様々な絵が集められているとか。特設コーナーがあるほどの人気らしいです。
「美術館って……高そうなイメージだな」
「そうね……入場料が庶民に優しくない予感がするわ」
「今なら無料だよ。一週間ほど来場無料」
無料。それは今の私達にとってなんと素敵な響きなのでしょう。
節約生活の中で無料の二文字に抗うことは難しいのです。
「しかも、過去の英雄が使っていた武器コレクションが特別展示されている」
「それは……見たいな」
カズマが武器に反応している。ファンタジー丸出しの武器……好きそうね。
「でもこれって遊びに行っているんじゃ……」
「後学のために見ておけばいいのさ。他の星の巫女さんが浄化するところを観察してより、効率的に動けるように。俺達は素人なんだぜ」
「二、三日は休んでもよいじゃろ。先輩の仕事を見るいい機会じゃよ」
「決まりだね。日の暮れないうちに行こう。案内するよ。道中……ぜひ君達の話も聞いてみたい。どんな力があるのか……興味は尽きないよ」
「ではすみませんが……行って来ます」
「遅くなる前には帰るんじゃよ。それと二人とも、これを持って行きなさい」
アレックスさんが手渡してきたものは……お花?
「ワシが種から特殊な方法で育てた花じゃ。お守りになる。懐に忍ばせておきなさい」
アレックスさんから貰ったのは白い綺麗なお花。スッとする気分が落ち着く香りです。
「ありがとうございます。いい香りですね」
「大切にします。ありがとうございます」
私達はお礼を言って美術館へ向かうことにしました。
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