第24話 聖女シャルロットと聖者レイ
宝石を見て武器を見て、私達は一階の探索を終えてエントランスまで戻ってきました。
「さて、ちょっと早く来てしまったけれど、館長さんはいるかな? まだお祓い中かもしれないね」
「おはらい? 神職かなんかか?」
「ああ、そうだよ。危険なアイテムのお祓いや悪霊退治とか、星の巫女が浄化しなきゃいけない結晶以外を清めたりできる。聖女シャルロットと合わせて聖者とか呼ばれていたりするよ」
戦闘のできる神父さんみたいなものらしいです。
聖者さんは神の力を借りて人を癒すこともできるとかなんとか。
「会ったら加護とかあるかもしれないな」
「神の加護を受けた人間の加護か。出涸らしのお茶みたいだねえ」
「一気に神聖さが消えるわね……」
加護というものが本当にあるのなら、その方法もやっぱり気になります。
この世界は魔法が存在するんだから加護があっても不思議じゃない。
ゲームでいう補助魔法みたいなものかもしれないわ。
「聖者も聖女も肩書に負けない美形なんだよこれが」
「そう、それじゃあ絶対に出会わないようにガードしないとね」
とりあえずカズマの右手は掴んだままです。離すとどうなるかわかったものじゃないわ。
「いや会いに来たんだろ」
私との話に気を取られていたのでしょう。
運悪くカズマが、曲がり角から出てきた誰かとぶつかってしまう。
「きゃっ!?」
「おっと……」
そこそこのスピードでぶつかってきた白いフードの人は、後ろに倒れそうになる寸前でカズマに手を捕まれ、引っ張った勢いのまま胸の中で抱きとめられる格好に。
「すまない。ちょっと不注意だった。怪我は?」
「…………えっ……あの……」
白いフードが後ろにずり落ち、それはもう綺麗な金髪に負けず劣らずの美人さんが現れました。真っ白い服の効果か清楚なイメージが強いです。
「どこか怪我を?」
「……はっ、ああいえ……その……」
金髪さんの顔がすっぽりカズマの胸あたりに収まっている。
なんて羨ましいポジションに居るのさ。
同じ状況で抱きしめて貰うのは私も経験があるけども。
そんな簡単に機会は巡ってこないわけで、なんかずるいと思うわ。
「ほら、女の人をいつまでも抱きしめてちゃダメでしょ」
「ああそうだな、悪い」
顔の赤い金髪さんを離して申し訳無さそうにしているカズマ。
ここで問題なのは美人さんの顔が赤いこと。
そして離れる時にちょっと残念そうだったこと。これはまずいわ。
「あの……失礼いたしました」
「いや、怪我がなかったならいい。こちらも不注意だった」
「いいえそんな! 私が悪いのです!」
結構大きめの声で美人さんから否定いただきました。
私の中で不安がぐんぐん増す。
「あの……お名前をお聞きしても……?」
「名前? カズマですが……?」
「カズマさん……素敵なお名前ですね。意味はわかりませんが芯の強さを感じるお名前です」
「んん……私はあやこ、こちらがクレスさん。貴女は?」
ずっと繋いだままの手をちょっとだけ前に出して、ありもしない所有権を主張してみる。
無言で。というか利き腕を私と繋いだまま、完璧に助けられるカズマの反射神経と運動能力の高さよ……本当にとんでもない人間になりかけてないかしら。
「あ……これは失礼を……私はシャルロット。ここの聖女なんです」
「やっぱりかー。くるとおもったなー。そんなきがしましたよー。すごくすごくしましたよー」
「なんでそんな棒読みなんだよ」
聖女確定です。聖女という名前に負けない美人さんですよ。
さらっさらの金髪です。肌も白い。なんて綺麗な人でしょうねえ。
カズマが呪われていてよかった。よくないけどよかったと思いたいのさ。
「それで、聖女様はここでなにを?」
「ああ、いけない。その……こちらに来て日が浅いもので……迷子に」
恥ずかしそうにうつむく顔も絵になる人だ。
絵……なんだろう……どこか引っかかる……なんだっけ。
「確かに広いからな。慣れるまで大変そうだね」
「広すぎるっていうのも考えものだな」
「お掃除大変そうですし、シャルロットさんも……」
「あ、『さん』はいりませんよ。歳も近そうですし」
「そうか、んじゃよろしく頼む。シャルロット」
「はい!」
聖女様ってもっとお堅いイメージだけど、普通の女性と変わらないのね。
いや普通より数段上の容姿だけども。そして満面の笑みで可愛さアップ。
これはまずいわ。でも反応からしてまだ完全にカズマを好きにはなっていないはず。
「さっそくだが昨日予約したクレスだ。今日は噂の聖女様の浄化作業と、美術館のお宝を見学に来た」
「浄化作業の……ですか?」
「なぜ不思議そうな顔なんだ? 昨日も会っただろう……まあいい。館長さんはどこに?」
たずねるシャルロットさんに困惑したような、呆れたような声のクレスさん。
「あっ、ああ昨日。昨日の私のあの、はい」
「どうしたんだシャルロット。何かトラブルでも?」
シャルロットさんと同じローブを着た男性がこちらに歩いて来ました。
こちらはフードを脱いでいます。
「あっ、レイさん」
レイさんと呼ばれた人は身長百八十前後くらいのがっしりした男性です。
腰まで届く濃い紫色のロングヘアーで、三十代くらいかしら。
「私がぶつかってしまって」
どうやら聖者と聖女は対等らしいけど、レイさんの方がしっかりしていて、上司みたいに見えるわね。
「そうですか、シャルロットがご迷惑を」
「気にしていませんし、俺からぶつかってしまったので。悪いのは俺です」
はいさらっとシャルロットさんを庇っています。
「カズマさん……」
はいシャルロットさんの視線が熱っぽい気がしてきました。
「ここの館長兼学芸員兼僧侶のレイと申します」
学芸員って聞いたことがあるような……多分もとの世界にもあるわね。
美術品の案内とかしてくれる人? だったかしら。
とりあえず自己紹介を済ます。
「そうですか。クレス様の……」
「個人的な友人で、発明仲間です」
さっきクレスさんが、星の巫女だということは秘密にしようと言い出したのです。
隠して後で見せたら驚くだろうって。なんですかその無駄なイタズラ心は。
「さっそく始めましょうか。空いている浄化室を使いましょう。シャルロット、三番室の準備を」
「はい、失礼します」
一礼して去っていくシャルロットさん。
セーフ……だと思う。去り際に何もなかった。
カズマを名残惜しそうに見たりもしていなかったし。
まだ恋心が育つ前に彼女持ちだと思わせることに成功したのかな。
「それでは参りましょう」
浄化室とは、魔力と神聖さで清めて、丈夫な素材で作られた部屋です。
余計なものを極限まで省いて遮蔽物をなくし、浄化戦闘に使う部屋。
三、四十人は入れるわね。そんな場所に来ました。
「準備はできております」
中央の台には不穏な空気を纏った刀。刀そのものはこっちの世界にもあるみたいです。
「では、始めます。皆さんはその線から出ないようにお願いします」
私達は離れたところから見学です。見えない結界が張ってあるらしい。
レイさんが刀の封印を解くと、嫌な気配が部屋に漂った気がした。
「現れましたね」
刀からどす黒い煙があふれ出し、大きな二足歩行の犬のような形になった。
刀はまるで爪の一本のように、魔物の右腕に埋め込まれている。
「ふっ!」
魔物が動き出す前に、懐に飛び込んだレイさんがパンチの連打で怯ませる。
「素手か。豪快だな」
「武闘派だね。見事だ」
一発一発の攻撃が室内に響く。重い音がするたびに、黒い煙が消えていく。
抵抗する魔物の動きを見切っているのか、かすりもしないレイさん。
「シャルロット!」
「はい!」
シャルロットさんの手から発される光の剣が魔物に突き刺さる。
やがて光が内側から破裂するように広がり、結晶と刀だけが残った。
「おお……鮮やかだね。戦闘慣れしているものの動きだよ」
シャルロットさんが欠片を手に取り吸収していく。
刀は鞘に納められ、レイさんのもとへ。
「…………ん?」
今何か変だったような。吸収されたのは理解できたけれど。
カズマと目が合う。お互いに首をかしげる。つまりカズマも違和感があったということ。
「どうかしたのかい?」
「ああいえ、なんでもないです」
説明できそうもないし、黙っておきましょう。巫女でやりかたが違うのかも。
余計なことを言ってレイさん達に怪しまれるのもいやなのです。
「いやいやお見事でした。流石噂の聖女様と聖者様」
「まだまだ未熟です。お恥ずかしい限りですよ」
「ではさっそく取材を……」
「立ち話もなんでしょう。シャルロットに別室へ案内させますので、そちらでゆっくりと」
「助かります。聞きたいことは山ほどありますので」
クレスさんにとってはここからが本題なのでしょうね。
「そんなに長くなるのか?」
「ん? ああ、二人は先に帰ってもいいよ。あやこくんを暗くなるまで連れ回したら危ないしね」
一応そういう所に気遣いのできるタイプなのねクレスさん。
「そうですな。長時間ともなりますと、女性には……」
「そう……ですね。あと一時間くらいですね」
「それくらいで帰りましょうか。ついでにシャルロット様のコーナーだけ見て帰りましょう」
「シャルロット様にご興味が?」
レイさんの目が光ったような気がしますよ。
そういえば聖者さんは熱心なシャルロットファンだとか聞いたような。
「同じ名前ですし、特設コーナーまであると聞いてちょっとだけ」
「よろしければご案内いたしましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ、いいですとも。もちろん無料です。それに」
そこで一回貯めてから。
「シャルロット様を布教したいだけなんですよ」
そんなことを言われました。
ああ、シャルロット様が好きなんだとはっきりわかるオーラが出ている。
なんというか敬愛? 恋愛感情じゃないわね。
神様への気持ちというか、うまく言葉にできないわ。
「僕のことは気にするな。シャルロットさんに先に色々聞いておく。そっちも見終わったら帰っていい。待ち合わせる必要は無い」
ここはご厚意に甘えさせてもらいましょう。
「ではすみません。お願いします。貴重な作業が見られて嬉しかったです。クレスさんも」
「誘ってくれてありがとなクレス」
「いいさ。結局僕がやりたかっただけだ」
そんなわけで別行動となりました。
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