第11話 怪しいお屋敷探索とお花

 どれだけ動かしてもピクリともドアが開かない。これは仕方がないわね。


「非常事態よ。カズマ、お願い」


「しょうがないか。二人とも下がってな」


「なにをするんです?」


「いいから、ちょっとこっちに来て。安全な場所にいましょう」


 カズマと扉から距離を取る。開かない扉にすることは一つです。


「ゥオルア!!」


 全力のキックでバラバラになる扉。呪いのおかげで、扉が壊れるくらいから、粉々になるまで威力アップ。これで帰れると思ったんだけど。


「なによこれ……」


 私達が歩いてきた道は、紫の花とツルで覆われていた。

 もう道が見えない程にわさわさ集まって気味が悪い。

 屋敷の壁にくっついている分も動いている気がします。

 もしかして窓を塞いでる? これは危険ね。


「仕方ないわね。カズマ、さっきの続きよ。これを見て」


 仕方がないので好き札を取り出して、その中から一枚選んで投げる。

 一応『愛してる』は残して『好き』とだけ書いてある札を使えば十分なはず。

 これで道の花だけでもなくなれば、なんとか逃げることができるかな。


「おいおい、花の中に入っちまうぞ……」


 好き札を中心にぶわああああっと青い炎が巻き起こる。

 まるで小さな竜巻みたいに回転して、花をどんどん消していく。

 道限定だけど、灰すら残さず消してくれました。


「スクリューブルー・フレアドライブのせいで見えなくなったな」


「今のそんな名前なんですねぇ」


「どうでもいい知識が増えたわね」


 そんなことを話しているうちに花がどんどん集まってきて通せんぼ。うわあ気持ち悪い。


「お花って綺麗とか可愛いだけじゃないのですねぇ」


「これほどまでに気味が悪い花には、初めてお目にかかったぜ」


「いったん家の中に入りましょう」


 諦めて玄関ホールの中ほどまで戻ると、入り口も窓も花で覆われてしまう。

 本格的に出られないわね。お花が嫌いになりそうだわ。


「最悪……」


「最悪だな。もう夜まで時間がない。完全に暗くなる前に脱出するぞ」


「ここで一泊はイヤですよー」


「だがどうする? メイドさんかロザリアさんに会うなら厨房か。だがあいつらに会っていいものか」


 ロザリアさんが敵である可能性もある。というか多分敵だ。

 メイドさんも一人ではないと仮定して、敵かどうか不明なのが怖いわね。

 厨房にいたメイドさんは味方なのかしら?


「エルミナちゃん。ここについて知っていることを教えて」


「いいアイディアだ。頼むぜエルミナ」


「ええっと……ここは最近まで持ち主のいないお屋敷でした。元から気味の悪い場所でしたし、敷地も広くてお値段が張るので、買い手がつかなかったのです」


 急かさずゆっくりと聞く。置いてあるランタンを二つ借り、ホールに見取り図がないか三人固まって探す。

 探しながらエルミナちゃんの話も聞きましょう。

 とにかく非常識なことが起こり過ぎている。落ち着くためにも話して気分を変えないと。


「だいぶ前に業者の人がお掃除に来て、壊れていたり使われていない家具も回収されてなくなったはずです」


 言われてみると確かに、家具も少ない。もっと絵が飾ってあったり高そうなツボとかあってもいいはずよね。必要最低限のものしかないみたい。

 ところどころ錆びていたり、ぎしぎし音を立てる場所があるし。

 お屋敷が古いのも簡単に想像できる。


「最近になって女性が買い取って住んでいるという噂になって、私達のパン屋にも注文が入るようになりました」


「その注文ってのはどうやってされてたんだ?」


「取りに来られない日をメイドさんが指定しに来てましたよー。一週間経たないくらいで違うメイドさんになるので、気味が悪くて辞めちゃうんじゃないかって、お店で噂になってました」


「正確に何ヶ月前から引っ越してきたとか、主人のプロフィールはわかるか?」


「無理ですよぅ。エルミナがこの話を知ったのは二週間前。最低でもその二ヶ月前から引っ越してきてると思います。主人に関してはなにも知りません」


 そりゃパン屋さんがそこまで詳しくてもおかしいわよね。

 話しているうちにエルミナちゃんも落ち着いたかな。


「ありがと。助かったわ」


「いえいえーあまりお役に立てませんで……」


「そんなことはないさ。これが見取り図か?」


 壁に貼り付けてあるこの屋敷のマップによると、部屋は多いけど、お屋敷自体はそこまで大きくはないわね。


「一階に厨房・倉庫・使用人の部屋・食堂・大浴場か」


「二回には書斎と寝室。書斎から行ける大きい部屋が主人のものかしら」


「ロザリアさんは車椅子ですし、出会わないようにするには二階だと思います」


 冷静に分析しているわね。いい判断よエルミナちゃん。恐怖心が薄れてきたかしら。


「書斎だな。書庫も可能性がある。だが車椅子とロザリアの発言から書斎と寝室が一番可能性が高い」


「そうね。それじゃあ書斎に行きましょう」


「あの、可能性ってなんのですか?」


 ホール中央から二階へと伸びる階段前。

 これから上に行こうというところでエルミナちゃんに質問される。


「ロザリアが言っていたことを思い出せ」


「言ってたわよね。今日のことを日記に書こうって」


「言ってましたねー…………んん? 言ってましたけど……?」


「俺達の目的は館を出ることだ。そのためには花をどうにかする必要がある」


 階段を上がり、長い長い廊下を壁のランプと手持ちのランタンの明かりだけで進みます。窓は花が占拠していて、まるで光の侵入を阻んでいるよう。これは帰れても花を見る目が変わりそうね。


「あの花……まさか勝手に咲いて、ロザリアさんと無関係ってわけでもないでしょう。だとしても調べるはず」


「書庫じゃ本が多すぎてわからん。ならば自室か書斎にある日記を見たほうが早いぜ」


「おおーお二人ともすごいです!!」


「あくまで可能性があるというだけよ。絶対じゃないわ」


 階段を上がるとながーい廊下が見えてきます。

 いくつもの十字路の先に目的地があるはず。薄暗くてちょっと怖いです。

 でもどれだけ怖くても、カズマが側にいれば安心できる。こんな状況だけど、心の支えがあるというのはいいものね。絶対に死なない。負けたくないと思えるもの。


「行きましょう。全部の部屋を見ているヒマはないわ。最短ルートで寝室を目指す」


「ああ、二人とも離れるなよ」


「あら、お帰りになったのでは?」


 驚いて反射的に振り返ると、そこにはロザリアさんが立っていた。

 そう、立っている。バルコニーっていうのかしら? 下の階が見渡せる、突き出したスペースで、設置された手すりに寄り掛かり、こちらに笑顔を向けているロザリアさん。

 まだまだ帰るのは先になりそうね。

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