第7話 ニコポ・ナデポについて
パンの配達に来たエルミナちゃんが、カズマを好きになりかけています。
これもハーレム系主人公の呪いね。
『ニコポ・ナデポについて』
ロイヤルレポートにはこう書かれている。
『にっこり笑いかけるだけで、頭を撫でるだけで、女の子の好感度がどんどん上がります』
なんて都合のいい。なんてお手軽なんでしょう。まさかそれを。
「目の前で見ることになるとは……」
カズマの腕の中で、笑顔を独り占めしおってからに。
いいわねあれ。変な能力なんてなくても好きになるんじゃないかしら。
『まず笑顔で好感度を上げます。そして絶妙のタイミングで女の子の頭を撫でるのです』
なるほど。まだ大丈夫ね。そこまで好感度は上がっていない。
「どうしたエルミナ?」
「いえ、ちょっと転びそうで怖かったといいますか」
あとはどうにか引き剥がしてしまえば勝ちね。よかったわ本を持ってきていて。
「そうか、大丈夫だ。パンも無事だったろ」
「ふわ……あああの……カズマさん!?」
「もう撫でられてる!?」
女の子の頭を撫でたりするタイプじゃなかったのに!
タイプだったらもうちょっと私は撫でられているはずよ。
これも呪いのせい? なんてやっかないなの。
「ん、ごほん! カズマ、いつまでも女の子に抱きついていると失礼よ」
「ああ、そうだな。すまない」
「えっ、ああ……はい。ありがとうございました」
エルミナちゃんが凄く残念そう。あーあもう手遅れっぽいじゃない。
それに比べてカズマは平然としているわね。
『この能力は幼すぎる相手、または歳を取りすぎた相手には効きません。また、片思い中の相手がいたり、恋人がいる女性にも無効です』
つまりバッチリ当てはまったわけですね。
やってくれるじゃない……なんて面倒な。
「私はあやこ。よろしくね」
「エルミナです。よろしくお願いします!」
笑顔の眩しい元気な子ね。こんな子を毒牙にかけてしまうとは。
呪いって怖いわね。でもカズマは譲らないわよ。
「とりあえずパンを運びましょう」
「そうだな。アレックスさん。これはどこに?」
「ああ、そうじゃったのう。ワシが頼んだんじゃからワシが運ぶよ。それが筋っちゅうもんじゃ。配達ありがとうエルミナちゃん」
パンを運び終えて、エルミナちゃんにバスケットを返す。
これで終わり。さて、今後の対策でも考えましょうか。
「ついでにパン屋の場所を……」
「聞いておきましょうね! ここで!」
この流れはパン屋までついていくことになる。それは避けよう。
エルミナちゃんの好感度を上げないように動きましょうね。
「そうじゃのう、それなら二人もエルミナちゃんと一緒に……」
「場所だけ教えてくれたら大丈夫ですよ!」
アレックスさんに『エルミナちゃんをカズマから引き離したいです』と視線を送ってみる。
「う、うむ、聞いておけば事足りるのう。ナッハッハ!!」
よし、アレックスさんには伝わった。ありがとうございます。
その察しのよさを少しでもカズマに分けてあげてください。
「エルミナのパン屋への行き方を教えてくれないか?」
「あ、でしたらもう配達は終わりなので、一緒に行きませんか?」
あ、まずい。完全に善意で言っているわあれ。
「手間かけさせることにならないか?」
「いいえ、お客様の新規開拓もお仕事です! エルミナはそんな一つ上のサービスもできるハイパーなパン屋さんなのですよ!」
エルミナちゃんの目が輝いている。キラッキラしていらっしゃいますよ。
「はあぁ……なんでこうなるのかしらね……行くなら三人で行くわよカズマ」
「だな。そんな訳なんだけど、いいか?」
「どうぞどうぞ! お客様二名様ご案内ですよー!」
ああ……基本的に純粋な子なのね。私が来ることに嫌な顔一つしない。
ごめんねエルミナちゃん。なんだが自分が汚れているみたいな気分だわ。
「それではしゅっぱーつ!」
「行って来ます」
「夕方までには帰るんじゃよ」
そして協会から一番近い商店街までてくてく歩く。
治安向上のため道幅が広く作られているらしく、電気以外の力で動くらしい街灯も多い。
「いい街ね。綺麗だし、明るくて」
「国王様が善政中毒と呼ばれる方ですからね。毎回国民への挨拶が『ようこそおいでくださいました!』からはじまる善人で腰の低い方なのです」
「それは……なんでそうなったんだ?」
この世界の常識がないからわからないけれど、そこまでいくと異常ね。
「二代前くらいに天啓を受けて、善政をするために命を賭けるようになったとか。エルミナが生まれる前なので詳しくないのですよー」
「そう、まあ治安がいいのなら嬉しいか……ら……」
そこで見てしまった。リードと首輪をつけて、飼い主さんと仲良くベンチに座っている、ちっちゃくてもこもこした生き物を。間違いない。生き物だあれ。
「カズマ。白いのがいる。ふわふわしているわ」
「意味がわからん」
白いクマ? 最初テディベアかなにかだと思ったけど、確実に動いているわね。
でもクマにしてはかなり小さいような……三十センチくらいかしら。
目がくりくりしてて、まっしろで、もこもこした毛並みがかわいい。
飼い主っぽいお姉さんに撫でられて、目を閉じながらあくびしてるのが心底かわいい。
「しろくまですねー。まだ子供のしろくまですねー」
「うわあかわいい。もふもふしてそう」
触ってみたい。猛烈に触ってみたい。でもクマって怖いじゃないの。
手とか噛まれたらどうなるのよ。そもそも知らない人のペットみたいだし。
「落ち着け。子供でもクマだぞ。肉食獣だ」
「くまちゃんがちっちゃくて和むわ……でもしろくまってそもそも飼えるの?」
「そりゃ飼えますよ。しろくまですからねー」
どうやらこっちの世界では、成長しても私達の知る大きさにはならないみたいね。
種類によって差はあるけど、犬くらいの大きさでペットにできるらしいわ。
飼い主の膝の上でおとなしくしてるし、人間になつくみたい。
控えめに言って銀河で二番目くらいに可愛いわ。ギャラクシーレベルでかわいい。
「うわあ……うわあ……なにあれかわいい。触りたい」
「あんまり見たことないですか?」
「俺達のいるところじゃ、しろくまってのは人間よりでかくて人を襲う危険な獣だったんだ」
前に動物園で見たクマの子供もかわいかったけど、やっぱり大人は大きくて迫力がある代わりにかわいさを失ってしまう。
どっちがいいかは個人の趣味ね。大きくてかっこいいクマが好きって人もいるでしょうし。
「はー……信じられませんね。突然変異ですか?」
「いや、こっちとは色々違うんじゃないか?」
鳴きながら、飼い主さんの服をちっちゃな両手で掴んで軽く引っ張っている。
「鳴いてる。鳴いてるわよカズマ。しろくまって鳴くのね」
「聞こえてるから落ち着いてくれ」
落ち着けるわけがないじゃない。なぜカズマはそんな平気な顔をしているのよ。
「もうおねむなんですねー。帰って寝たいんじゃないですか?」
飼い主さんの腕に抱かれて、うとうとしているしろくまちゃん。
そのまま抱えられて行ってしまった。おそらくお家に帰るのね。
「あぁ……くまちゃんが行っちゃった……」
「俺達も行くぞ」
「そうですよー道案内の途中ですよー」
「そう、そうね……さようならくまちゃん」
次は撫でたいわ。撫でられるスポットを探しましょう。
動物園とかないかしら。休日の過ごし方が増えそうね。
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