第6話 私は星の巫女らしいです

 自室で目を覚ますと朝の八時。ちょっと寝過ぎたけど仕方ない。

 快適とはいえ、知らない家は中々に寝付けないもので。

 必然的に足りない睡眠時間を補おうとしているだろう。

 人体というのはよくできているのか、できていないのか。


「カズマを起こさないとね」


 身支度を整えてカズマの部屋へ。一応ノックと声をかけてみるも反応無し。

 こういう朝のカズマは単純に寝ているだけ。私が起こさないといけません。


「はい起きて、もう朝だから。アレックスさんの所に行くわよ」


 部屋に入ってベッドにいるカズマを揺する。たまーに寝ぼけるのよね。

 カズマは朝がちょっと弱い。休日は起こさないと昼まで寝ているのである。


「ん……ふあぁ……もう朝か……早いな」


「カズマが遅いの。さっさと着替える。着替えこれ?」


「テーブルのイスに……俺がやるよ」


 眠そうにしながらハネた髪の毛を直して準備を始めるカズマ。


「はいはい、さっさと着替えて。脱いだらこっちのかごに入れておいてね」


 もうこの辺は作業である。幼馴染が長いとこうなる。

 漫画でよくある毎朝起こしに来る幼馴染とか、実際にやるとしんどいので遠慮します。

 流石に毎日はしんどい。カズマは平日なら自力で起きるから、必要なくて助かるわ。


「部屋の外にいるから、準備できたら呼んで」


「わかった」


 完全に起きたわね。声の調子で目覚め度合いがわかる。

 こういう付き合いの長さが浮き彫りになる状況が結構好き。

 私が一番カズマと一緒にいるのよーっと。


「待たせて悪かった。行こう」


 部屋を出て下の階に降りる。アレックスさんは一階にいるはず。

 木と知らない素材でできた家は、日の光が差し込んで暖かい。


「カズマくん、あやこちゃん。おはよう。朝ごはんは食べたかの?」


 一階に到着した私達に、アレックスさんが声をかけてきました。

 私達も挨拶をして、ちょっとおしゃべりに入ります。


「いえ、まだです。先にお話を伺おうかと」


「そいつはよかったわい。ちょいと作りすぎてしまってのう。良かったら食べていかんか?」


「いいんですか?」


「おう、ワシがいいと言っとるんじゃ。遠慮することはない」


 二人で顔を見合わせ、軽く頷く。気持ちは一緒みたいね。

 一階の食堂で三人一緒にちょっと遅めの朝ごはんです。


「ではいただきます。あ、おいし」


「いただきます……こりゃうまい!」


 目玉焼きとパンに野菜サラダ。パンは中にチーズが入っている。

 柔らかくてもちもちしていて、口の中に広がるほのかな甘みが素敵ね。


「ふっふっふ、年の功ってやつじゃよ。これでも各国旅しとったからのう。大抵の国の料理は作れるんじゃよ」


 本当に美味しい。カズマのお皿がどんどん空になっていく。これは喉に詰まるわね。


「はいお水。ゆっくり食べなさいって」


「心配せんでも誰もとりゃせんよ」


「美味いもんてのは自然と次から次へと食いたくなるもんだ。それだけ料理の腕がいいってことですよ」


「ふっふっふ、飯屋でやっていけるくらいにはできるという自負がある。それでも褒められるというのは悪い気がせんわい」


 自慢のあごひげを撫でながらにこやかに笑うアレックスさん。いいおじいちゃんだわ。


「さて、星の巫女について話さねばならんのう。長くなるが、巫女について知らんのじゃな?」


「ええ、凄く遠くから来まして。星の巫女どころかこの国の常識も危ういです」


 いきなり異世界から来ましたーはまずいわよね。

 記憶喪失も嘘くさいので旅人ということにしました。


「その土地に興味もあるがまあいいじゃろ。まず星の巫女とは、瘴気、邪気なんかのくっついた敵を浄化できる存在じゃ。この星の悪い気を綺麗にしてくれる特殊な人間じゃな」


「それで星の巫女ですか」


「敵って俺達が戦った魔物のようなものですよね? あれって星の巫女しか倒せないんですか?」


「倒すことはできる。しかし、悪しき力を浄化できんのじゃよ。煙のように散って、時間が経てばどこかで集ってしまう。なので巫女はしっかり保護して、戦ってくれる優しくて強い人を探しておるんじゃよ」


 随分と貴重な存在なのね。実感が湧かないわ。

 ちなみにジュリーさんのように襲ってくる巫女は本来あり得ないんだとか。

 よほどの目的がないならやらない行為。つまり同じ呪いにかかって焦っていたのね。


「安心せい。巫女と守護者はあくまで形だけ協会で登録して、任意で働いてもらう。そこに強制力はない。やりすぎると力を落とすのじゃよ」


 どうも強制的に働かせても、その影響で力が下がるとか。


「なのでやる気をそがないように、それでいて巫女として傲慢にならない程度に扱われるわけじゃな。そもそも世界を綺麗にしてくれる存在じゃ、いなくなれば困るのは自分達。共存共栄じゃよ」


「巫女と守護者……そういえばなんで巫女なんです?」


「今まで男の能力者がほっとんどおらんかったんじゃよ。本当に珍しいんじゃ。よって巫女と呼ばれておる。カズマくんは素質があるからのう……とりあえずあやこちゃんの守護者と、ワシは呼んでおる」


「いいですね。正式な呼び名が決まるまで、それでいきます」


 女性しか持っていない特別な力を手に入れた男性。

 なんでしょう、このカズマがモテるためにあるような状況は。

 これ完全にカズマが巫女養成のための女子高に入る流れですね。

 その場合、幼馴染は勝ちフラグなのかしら。


「混乱を防ぐために、カズマくんはあやこちゃんの護衛とする。巫女の力は必要がなければ隠しておくとよい」


「そうですね。隠していきましょう。私もあんまり目立つとちょっと」


 そもそも私はカズマがいないと巫女の力が使えない。

 告白は相手がいないと無意味なのですよ。


「巫女の適正といいますか、素質はどうやって覚醒? 発覚? するのですか?」


「星の巫女の力があるものは、ある日突然目覚めたり、自覚なく生まれた時から備わっていたり、例外的にあの性悪が……」


 そこで玄関のベルの音がした。ボタンを押すと、外に取り付けてあるベルが鳴る。

 流石にインターホンで会話したりはできません。


「おおっと、もう配達の時間じゃな」


「配達?」


「お気に入りのパン屋じゃよ」


「ああ、あれ美味しかったです。凄く」


「じゃろ。お気に入りじゃ。よければ紹介するぞい」


 せっかくなのでアレックスさんの後に続いて玄関へ。知っておいて損はないわね。


「お待たせしましたー!」


「おお、配達ご苦労様じゃのうエルミナちゃん」


「いえいえーアレックスさんこそ、今日もおひげがダンディですねえ」


 鮮やかなピンク色のロングヘアーで、澄んだ青色の瞳の女の子。

 ファミレスみたいな制服ね。かわいい女の子に似合うタイプ。

 私達より年下でしょうけど、美少女の部類。中学生くらいかな。


「さ、あがっとくれ」


「はーい、失礼しまーああぁぁっと!?」


 何もない所で転んでしまうエルミナちゃん。

 持っているバスケットが宙を舞う。


「危ない!」


 人間技とは思えないスピードでバスケットをキャッチし、そのままエルミナちゃんを胸の中に抱きとめるカズマ。

 今の速度は一般人が出せていいものじゃないわよ。


「ナイスじゃカズマくん! ベリーグウゥゥッド!!」


 完全にベリーグッドと聞こえたわね。

 言語の変換がどうなっているのかわからないけれど、カズマも同じように聞こえている。

 まあ伝わるならそれでいいわ。わかりやすいに越したことはないもの。


「大丈夫か?」


 ちょうどカズマの胸に顔を埋める形になったエルミナちゃん。

 ちょっとだけそこ代わって欲しい。


「……あ……の……」


「どうした? どこか怪我でもしたのかい?」


 年下の女の子相手なので、できる限り優しい口調と声で話すカズマ。

 めっちゃいい声です。カズマに欠点などない。それは声にも当てはまるのさ。


「いえその……ありがとうごじゃいましゅ」


 セリフ噛んだわね。顔も真っ赤になっている。

 まあ怪我もしていないみたいだし、よかったわ。


「怪我はないね?」


「……はい。あの……エルミナといいます。その、お名前は……?」


「名前? カズマだよ。よろしくエルミナちゃん」


 最高に爽やかな優しい笑顔です。

 その笑顔は、ただそれだけで相手を魅了する必殺の微笑み。


「カズマさん……聞きなれない響きですが、なんだか素敵なお名前です」


「…………んん?」


 嫌な予感がする。なんだか何か見落としているような。

 なんとなく持ってきていたロイヤルレポートを急いでめくる。

 そして見つけてしまった。書いてあったのは衝撃の事実。


『ニコポ・ナデポについて』


「しまったああぁぁぁ!?」


 甘かった。あの子はもう……カズマが好きになりかけているっ!!

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