第5話 恋煩いとは呪いなのです

 そんなこんなで異世界に来てしまったわけですね。いい迷惑だわ。


「で、しょうがないから扉をくぐったらこの町の近くでしたと」


 料理と回想終わり。お皿に盛って、テーブルへ運んで夕飯開始。

 お肉は薄く切ってから焼いて、ちょうどいい大きさのパンに挟んで食べることにした。

 ちょっとしょっぱい赤色のソースをかけたら完成の、お手軽な料理です。


「いただきます」


 二人で手を合わせる。ちょっと喋りすぎで疲れたわ。喉をお茶で潤しましょう。

 ついでにひとくちスープを飲む。じっくり煮込めば味も染みて、塩コショウを軽く振るだけで美味しい。


「美味しくできたわね」


「ああ、俺の好きな味だ。こっちの食材なんてわからないものが多いってのに凄いな」


「味見は大事よ。これ、全部焼いてパンに挟めばよかったかもしれないわね」


「スープは体が温まるからいいんだよ。一品じゃ寂しいだろ」


 パンはホットドッグに使うようなものがあったのでそれを使う。

 食料は報酬で買ったものと、協会からの貰い物です。星の巫女は貴重なんだとか。

 これからはちゃんと稼がないとね。


「パンがやたらと美味いな」


「本当にね。冷めているのにいい香りで、外がさくっと。中がふわっと」


 アレックスさんオススメのパン屋さんらしいです。配達もやっているとか。


「今度行ってみましょうか」


「いいね。あんまり人のいないところは行くなよ?」


「わかっているわよ。出かけるときは基本一緒に行きましょう」


 土地勘がないから待ち合わせができない。

 一緒に行ける場所を増やそう作戦です。単純に一緒に行動したいだけともいう。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わって食器を片付けてひとやすみ。

 テーブルで隣合ってお茶を飲む。茶色いほうじ茶みたいな味のお茶ね。

 口の中がすっきりするわ。


「それじゃあちょっとお勉強といくか」


 カズマが持ってきたのはロイヤルの渡してきた本。

 このロイヤルレポートには欠片や恋心、愛などについての研究がびっしり。

 さらに恋する乙女の力を魔力に変換し、パートナーの男性とともにパワーアップさせることで強化するとか、まあどうのこうのと書いてある。


「この世界の人間を呼んで、トラブルを解決させていくうちに、愛だの恋だのに興味を持ったんだな」


「そして別世界の人の弱みにつけこんで、浄化できる人間をこの世界に送る計画を立てたと」


呪いについての記述もあった。もしかして鈍感主人公にする魔法、もしくは計画自体は前からあったのかもしれない。


「そういや、あやこが何を願ったのか知らないな」


「まあ、それはその……いいじゃない別に」


 そもそもどう伝えたらいいのかしら。妨害入るでしょう。

 告白妨害が入るかどうかチキンレース開催しそう。してどうする。


「無理に聞こうとは思わないさ。俺は呪いってやつがピンと来ない。でも聞けば理解できるかもしれない。それだけさ」


 そうきたか……カズマは呪いにかかったという事実と記憶はある。

 けれど告白詠唱からのアクシデントは偶然だとしか思えない。

 つまりなんか呪われたけど実害ないしパワーアップできたと思っているわけさ。


「あれよ…………カズマと、もっと仲良くなりたい……って」


 できる限りぼかして言いましたよ。部屋の掃除とかしたくないですし。

 これ凄い恥ずかしいんですけど。どうやらこの程度なら呪いは問題ないようです。

 私は恥ずかしいけど。恥ずかしいけども。


「なんだそんなことか。もう十分仲がいいと思ってたけどな」


「いいの。カズマは気にしなくて」


 爽やかな笑顔で言われても、むなしいだけよ。

 仲がいいは幼馴染として、という意味だと確定しているもの。


「ちなみにカズマの願いはなんだったの?」


「ああ、まあなんといいますか……あれだよな」


 カズマにしては珍しく歯切れが悪い。

 身体能力が強化されていることに関係しているのかしら。


「なによ? 人には言えないような後ろめたいこと?」


「別にそんなんじゃないさ。改めて言うことでもなくてなあ」


「ほほーう。そう言われると余計に気になってしまうわね。私が話したんだから、カズマも言いなさい」


 これは追求するところよ。なにか解決のヒントでもあればいいし。


「わかったよ。その時は二つ願いがあった。けど片方が思い出せないんだ」


 そういえば二つあるとか聞いたわね。

 ここでカズマが嘘をついていないことは理解できる。

 呪いや封印なんてファンタジー案件は無理に聞いてもダメでしょう。


「呪いの影響もあるでしょうし、思い出せる方でいいわ」


「あの時は……隣であやこがなんか真剣に考えていたんだよ」


「私もお遊びにちょーっと本気だったかもね。それで?」


「それでまあ、あやこの願いを叶えてやりたい。叶えられるくらい、強くて頼れる男になれればいいと…………それだけだ」


 カズマがちょっと照れているのか、顔が赤いしこっちを見ない。

 なんですかその萌えポイントは。素直に嬉しいわ。

 そういう不意打ちで好感度を上げるやりかたは卑怯よ。


「まさかそれで、こんなことになるなんてね」


「俺達の理解の範疇を超えている。正直今でも意味がわからない」


 堂々と宣言するカズマ。いやもう本当にわけがわからないのよねえ。

 これ相当無理ゲー強いられているわね。


「また随分と曲解されているものだな。二つの願いが混ざっているんだ」


 私の願いが、カズマと恋人になること。

 カズマの願いが、私の願いを叶えられるようになること。


「欠片を集める過程でカズマは強くなる。私の願いは欠片が集らないとダメ。確実に集めさせるための保険として、カズマには呪いがかかる」


「なるほどな。そうなりゃ俺としちゃあ、集めないわけにもいかんからな」


「私が必死に探すものだからね。願いにかかわっているとカズマは考える。そして協力する。私の願いを叶えるという誓いのために」


 無駄にえげつないわね。意地でも集めさせようという魂胆がみえみえじゃないの。


「地道にやるしかないわね。よろしくねカズマ」


「ああ。任せてくれ。あやこが無茶さえしなければ、俺が何とか守ってみせるよ」


 そろそろ寝る準備をしましょう。町の治安は物凄くいい。

 でもだからといって今から出かける気も起きない。


「さっさと寝ましょう」


「ああ、明日はアレックスさんのところに行かないとな」


 星の巫女についてちゃんと聞きましょう。

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