第18話 6月28日
「……ごめんね~。せっかく応援しに来てくれたのに負けちゃって。」
そう言う神大の首には銀色のメダルがかかっている。
仙谷中は決勝戦は僅差で惜敗という結果になった。フルセットまでもつれ込んだ激戦で、準決勝での疲れが出たのか、最後は力尽きてしまった。表彰式の後、次の大会でのリベンジを誓っていた。
片付けも終わり解散したのち、神大はナルに駆け寄ってきた。
「ううん。すごかったよ。特にスパイク。びっくりするほど決まってた。たくさん練習したって言ってたもんね。」
「うん。特に今日はナルが応援しに来てくれたから調子が良かった。応援に来てくれてうれしいよ。……この大会が終わったら私から会いに行こうと思ってたんだ。中々、会いに行けなくてごめんね。」
「ううん。こっちこそ、連絡取れなくしててゴメン。」
ナルは少しためらったようだが、連絡を絶っていた理由をゆっくりと話し出した。
五体満足で青春を謳歌している神大を羨んでいたこと
接していると自分を振り返り辛くなること
「でもね、やっぱり思ったんだ。正ちゃんとは友達でいたい。ずっと、ずっと。私はまた嫉妬しちゃうかもしれない。そのせいで嫌な思いをさせちゃうかもしれない。それでも、友達でいて欲しいの。」
神大は突然の告白に驚いたようだ。
「……そうだったんだ。でも、よかった。ずっと連絡が取れなかったから、病気が悪化したんじゃないかって思ってた。」
「……心配させちゃったね。」
「すごく心配した。それはね、私もナルのこと親友だって思ってるから。そのナルが私と一緒にいて辛いっていうのは悲しい。だけど、それでも一緒にいたいと言ってくれて嬉しい。私でよかったら、ずっと友達でいさせて。」
「……うん。」
2人は今にも泣きだしそうな顔をして微笑みあう。
「ナル、これから辛いことがあったらちゃんと言って。ナルの辛いことを少しでも分けて欲しい。その代り、私もナルと一緒に楽しい時間を作る。辛いことを忘れるくらい、いっぱい楽しい話をしよう。」
「ありがと、正ちゃん。そうだね。いっぱい話そう。」
「いつもはくだらないことばっかり言うくせに肝心なことは話さないんだから。」
「今度はちゃんと話すよ。辛いことも、楽しいことも。」
「楽しみ」
「私も」
俺は2人の会話を少し離れた場所で聞いていた。
車いすを押してきたのだからナルの後ろにいて当然なのだが、途中で空気を読んで移動した。切りのいいところで声を掛けようと思うのだが会話は途切れない。
俺はこの数カ月、ナルが『楽しい』と思える学校生活を提供できていただろうか。ナルも神大に充実したあおい特別支援学校の話ができるようにしなければ。
生徒がたった一度しかない青春を存分に謳歌できるようにする。これは勉強を教えるより、部活を教えるよりよっぽど教師がやらなければいけないことではないだろうか。
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