第17話 6月28日

 この公園のある山一帯が市の管理する土地になっている。公園の隣……山の頂上付近にはそれなりに立派な総合運動場がある。陸上トラックから、野球場、サッカー場、体育館、柔剣道場などがあり、この市の運動競技大会の多くはここで行われる。

 本日は第2体育館で全国中学校体育大会……通称中体連のバレーボール地区予選が行われている。

 俺は気乗りしない様子のナルの車いすを押し、観客席に向かう。まだ、地区予選のためか観客はまばらだが、熱気に包まれている。


「仙中~ファイ!オウ!ファイ!オウ!」

 観客席の前列に伊達の姿を確認する。さすがは応援団。館内に響き渡る声である。彼の応援声の先には仙谷中女子バレー部が熱戦を繰り広げていた。神大正子の姿も確認できる。

 俺は購入したパンフレットを見ながら、対戦校を確認する。

「相手は……去年の優勝校、第一シードのチームだな。これに勝てば決勝だが……正念場だな」

 スコアボードを見ると11対16でリードを許す展開になっている。

「なかなか、厳しい展開だ」

「よく見てよ、先生。セットでは勝ってるよ。大健闘だよ」

 確かによく見るとセットは2-1でリードしている。もう1セットで大金星である。

 だが、さすがは王者、中々簡単には勝たせてはくれない。じわりじわりと点数が離れていく。相手校は背の高い選手が多い。強烈なスパイクが鋭い角度で飛んでくる。

「あれは中々止められないな……」



 仙谷中のタイムアウトの後、試合が動いた。甘いサーブが相手チームに入り、チャンスボールになってしまう。170近い長身の選手から強烈なアタックが繰り出される。

「……おお。ナイスブロック」

 一瞬の出来事だった。相手のフェイントにも素早く対応した神大のブロックが決まり、相手コートにボールが落ちる。ファインプレーである。

「いいぞ!いいぞ!正子!!いいぞ!いいぞ正子!!」

 仙谷中の観客席も沸く。

 このプレーで試合の流れが完全にこちらのものになった。ブロックを警戒してか相手の思い切りのよいアタックが影を潜め、ついにマッチポイントまで王者を追い詰めた。

「……かっこいいな、正子。」

 ナルがポツリとつぶやく。

「嫉妬してしまう?」

「……違うかな。羨む気持ちもあるけど、それ以上に勝ってほしい。」

 マッチポイントまで追い込むものの、ここから相手方は意地を見せる。デュースにもつれ込むと中々決着がつかない。息をのむ展開が続く。


「……よし!決まった。」

 こちらのアタックが決まり、何度目かのマッチポイントを奪う。

「……次で決めたいな。」

 仙谷中のメンバーの方が疲労の色が濃い。このままいくと押し切られてしまうかもしれない。相手のアタックをなんとか止めると、セッターから神大にトスが上がる。

「いけぇぇ!正ちゃん!!!!」

 ナルは身を乗り出して声を上げる。


 一瞬、神大がちらりとこちらを見た気がした。


 バシン!という効果音を上げて、ボールがライン上に落ちる。ここからはインかアウトか確認できない。

「どっちだ……」


 会場中が静まり返る中、副審の旗が下がり、インの判定が下った。

 その瞬間、会場から大きな拍手と歓声がおこる。

「キャー!やったよ!やったよ!」

 ナルは車いすをバタバタさせながら喜ぶ。俺も稀にみる熱戦に興奮していた。

「なぁ、ナル。やっぱりお前は彼女のことが好きなんだよ。ねたもうがひがもうが、大切に思ってる気持ちは変わらないんじゃないか?」

 試合の中、真剣に応援するナルの姿を見て、改めてそう思う。

「……うん。大好き。一番の友達だよ。」

 このまま、友情が続いていけばいいと思う。

「決勝が終わったら、正ちゃんに話し行くよ。」

 そう言って、こぶしを強く握った。

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