第27話 TOP 5入り・祝賀パーティー

12月1日の 日曜日。 午前11時30分。気温は 15度ほど。

肌寒いが、好天に 恵まれて、

日差しは 暖かである。


下北沢駅から、歩いて3分ほどの、

ライブ・レストラン・ビートで、正午から、

グレイス・ガールズ と クラッシュ・ビートの

ダブル・ヒット・チャート・TOP 5入り・祝賀パーティーが

行われるところである。


人びとの行き交う、

下北沢駅で、待ち合わせをした、

清原美樹と 松下陽斗が、

楽しげに 会話をしながら、

ライブ・レストラン・ビートに 向かって 歩いている。


美樹は、チェック柄のセミ・ショルダー・バッグを

肩にかけ、ゆったりとした ネイビー(濃紺)の

ボア・コートに、スカート丈が 膝から

少し上の ワンピース、ワインカラーのコットンタイツで、

歩く 姿も 可愛いらしい。

美樹は 1992年10月13日生まれ、21歳。


陽斗は、インディゴ・ブルー(濃紺)、

裏が 暖かい生地の フリースの ジーンズに、

厚手の グレーの ジャケットが よく 似あう。

陽斗は、1993年2月1日生まれ、20歳。


「美樹ちゃん、オリコンの CDの 売り上げランキングとかって、

いま、どうなっているんだっけ?」

といって、ほほえみながら、陽斗は 美樹を見る。


「昨夜、確認したら…、週間の CD・売り上げ ランキングが、

グレイス・ガールズは、アルバム・チャートが 3位だったわ。

シングル・チャートが 2位だったの。

クラッシュ・ビートは…、アルバムが 2位で、

シングルが3位だったわ。なんか、ウソみたいで、

すごいことよね!」


子どものように 微笑んで、

美樹は 眩しそうに 陽斗を 見る。

美樹の身長は 158で、陽斗は175だから、

美樹は 陽斗を ちょっと 見上げる 感じになる。


「そうなんだ。アルバムじゃ、クラビ(クラッシュ・ビート)が、

2位かあ。グレイス・ガールズも3位なんてね。

まったく、夢を見ているような、現実だね、美樹ちゃん。


多くの ミュージシャンたちは、成功を 夢に見ながら、

経済的には、いつも大変で、ぎりぎりの生活をしている人が、

ほとんどという、きびしい、この世界なのにね。


モリカワ・ミュージックは、そんな夢見る人たちを、

いいカモとかにしないから、おれは好きなんだ…。

この世の中、何を信じていいのか、自分のことしか、

考えてない、口ばかりがうまい、詐欺師とか

ペテン師見たいのが多すぎるよね、美樹ちゃん。


大学も出ていて、頭がいいからって、

その人を信じていたら、大ウソつきで、

人をだまして、自分の利益だけを考えているなんてのが、

ゴロゴロいるんだからなあ…」


「どうしたの 急に、はる(陽)ちゃん。

なんかイヤなことあったの?」


「まあね、あっはっはは!でもね、モリカワ・ミュージックや

モリカワって会社は、正直一筋で、

突き進んでいて、どんどん大きくなっているから、

おれは好きだなぁ…。


おれが、モリカワ・ミュージックと、専属の契約をしたのも、

モリカワが、立場の弱い、弱者というか、個人を、

尊重してくれるからなんだよ。


はっきりいって、世の中の風潮は、

その反対で、社会的弱者や個人を、無視する方向の

ような気がするからね。ねえ、美樹ちゃん」


「うん。はる(陽)ちゃんのいうこと、よくわかるわよ。

わたしも、モリカワだから、純さんのお父さんたちの

会社だから、信用して、契約したんだもの」


「モリカワの 社是 社訓は、

世直しだから!違ったっけ?…あっははっ!

でも、社長の、純さんのお父さんは、坂本 龍馬を

師と 仰ぐような 人で、正義感の かたまりのような、

それでいて、子どものように 純真な 心の 人なんだよね…」


「知っているわ。わたしも 雑誌で、そんな記事を

読んだことあるもの…」


美樹は、無意識に、陽斗の手を 握っている。


「雑誌といえば、美樹ちゃんのグレイス・ガールズや

クラッシュ・ビートへの、雑誌の取材の申し込みが、

すごいらしいじゃん!」


「そうらしいわよね…。わたしなんかも、突然、

写真撮られたりすること、あったもの、最近。

どこかの雑誌社の人らしいけど。

でも、すべての取材は、モリカワ・ミュージックが

窓口になっていて、ほとんど、すべて

お断りしているみたいだから、

わたしたちの生活は、ほとんど、いままでどおりの

平穏なんだけどね。

これも、モリカワの お蔭なのかしら…」


そういうと、美樹は 陽斗を 見て 微笑む。


「モリカワって会社は、ほんとに、良心的だよ。

美樹ちゃんは、よく知らないと思うけど、

おれたち、一応 プロ になっている、

ミュージシャンやアーティストの収入って、

大きく 分けて、2つあるんだけどね。


ひとつは、アーティスト印税という、実演家に、

与えられる印税。

もうひとつは、著作権 使用料といって、

コンポーザー、つまり、作曲者や 作詞者に

与えられる 著作権 印税があるんだよね。

ザックリ いって、この2つになるんだよ。


たとえば、そのアーティスト印税なんかは、

普通、1%から、多くても 3% くらいしか、

もらえない契約が多らしいんだ。

それを、モリカワでは、5% くれるという契約だから、

すごいというか、画期的だよね」


「それって良心的だわよね。著作権使用料というのは、

営利を 目的として、楽曲を使用したり、

歌詞や楽譜などを引用するときに、著作権者に

支払うとかいう、その使用料のことなんでしょう?


音楽 ビジネスって、権利 ビジネス ともいわれているくらい、

権利というか、利権というか、お金に対して、

シビア(過酷)なんだって、姉の美咲ちゃんがいってたわ。


なんか、いろいろと 難しいわよね。

わたし、法律的なことは 苦手だから…。

お姉ちゃんの、美咲ちゃんのように、

弁護士には、絶対、なれないわ!」


そういって 美樹が 声を出して わらうと、陽斗もわらった。


「だいじょうぶだよ。美樹ちゃんには、もっと、ほかの、

才能があるんだから!あっはっは。

ところでさ、グレイス・ガールズや、クラッシュ・ビートや、

クラッシュ・ビートのアルバム作りに

参加させてもらった、おれにもだけど、

お金が どのくらい、口座に 振り 込まれるか、

おれ、ザックリ、計算してみたんだ」


「ええ!?…うっそ!」


「まあ、お金なんて、そのために、音楽やってるんじゃないけどね。

まあ、気になって計算したんだ。そしてたらね、

作詞作曲は、すべて、バンドのメンバー全員というか、

楽曲つくりに 参加した メンバー全員に、という 契約で、

計算したんだけど、アルバムとシングルが、ともに6万枚くらい、

いまのところ売れてるじゃん。そしたらね、

グレイス・ガールズの場合、1317万円くらいを、

メンバーの5人と 岡昇くんの、

6人で、平等にわける 計算になるんだけど。そしたらね、

ひとり、219万くらいの収入になったかな。

ちょっとすごい 金額だよね。それも、まだ1カ月くらいなんだから、

売り上げは、まだまだ 伸びると 考えると、

まだまだ、収入は 増えると 思うなぁ!」


「そうなんだ。うれしいような、なんか、びっくりよね。

これも、モリカワや、会社のスタッフや、たくさんのみなさんの

お蔭よね」


「メジャー・デビューしたばかりで、ヒットチャートを 盛り上げて、

どうせ、一発だろう?なんて陰口をいう ヤツもいるけど

これは、みんなの 才能と 努力の成果だよね。

モリカワ・ミュージックも、社運を 賭けて、

おれたちの、CDの制作や製造、あと、小売店への営業や

新聞、テレビ、ラジオなどの、メディアへの、

プロモーション( 販売 促進 )を行ってきたんだし…」


そんな話をしながら、美樹と陽斗は、ライブ・レストラン・ビートの、

入り口に 着く。レストランは、静かに 陽光を 浴びる

樹木に 囲まれている。


「ライブ・レストラン・ビート の 赤レンガ って

わたし、好きなの!」


清原美樹が、11 の 石段 になっている

エントランス(入口)を、松下陽斗と

手をつないで 歩きながら、そういった。


ライブ・レストラン・ビートの建物の、おしゃれな 深い味わいの

赤レンガの建物は、下北沢でも人気のスポット(場所)でもあった。


「赤レンガ 造りって、1個ずつ、

積み 上げるわけだから、

手作りのよさのような…、

古き 良き 時代とでもいうような…、

ノスタルジック とか、 郷愁とかの、

懐かしい 雰囲気があるのかもね」


「うん。そうね。見て、陽くん、

花束が すごく きれい!」


エントランス(入口)の 石段を 上がった

フロント(受付・うけつけ)の手前には、

『祝・ヒットチャート・TOP 5 』という 札の ついた、

色とりどりの スタンド花が、華やかに

飾られてある。


12月1日、日曜日、12時15分前で、

開演まで、あと 15分。

フロントには、チケットを手にする 来場者たちがいる。


TOP 5入り・祝賀パーティーの チケット(入場券)には、

招待で配布したものと、

予約販売したものとがある。


「いらっしゃいませ!」


フロント(受付・うけつけ)の、2人の若い女性 スタッフの、

丁寧で 気持ちのよい 挨拶に、

美樹と 陽斗は、微笑む。


「美樹!」


美樹は 肩を、ちょんと 叩かれて、

振り 向く。


小川真央 と 野口翼の

ふたりが来ていた。


清原美樹も、小川真央も、1992年 生まれの、

早瀬田大学、教育学部の3年の、21歳。


ふたりは、下北沢に住んでいる 幼馴染みで、

小学校、中学校も同じ学校で、同じ教室だったことも、

何度もある、かけがえのない 無二の親友であった。


野口翼は、1993年 生まれ、早瀬田大学、

理工学部の 2年で、

松下陽斗と 同じ、20歳だった。


「美樹ちゃん、TOP 5入り!おめでとう!」 と 真央は

満面の 笑顔で いう。


「美樹ちゃん、おめでとう!」 と 翼も いった。


「どうも ありがとう。真央ちゃん、翼くん。

真央も、もうすぐね、お誕生日。お祝いしようね!」


そういって、美樹は 真央に ハグをする。


「ありがとう…」 と 真央も 美樹を 抱きしめた。


下北沢にある、ライブ・レストラン・ビートは、

280席の キャパシティ(収容力)があって、

下北沢でも 最大級。


下北沢でも、20年にわたって 運営してきた、

ライブハウスの ライブ・レストラン・ビートは、

今年の 1013年の 2月に、

株式会社 モリカワによって、

友好的 買収が 成立したのであった。


モリカワの、ライブハウス事業を 全国 展開のための、

布石として、

ライブ・レストラン・ビートは、

収得価額、9千万円で、

ある 有名 ミュージシャンの設立した会社から、

買い取ったのであった。


全株式を取得し、1013年 2月3日付で、

ライブ・レストラン・ビートは、モリカワの

完全 子会社となった。


モリカワは、ライブ・レストラン・ビートの 子会社化によって、

将来へ向けて、 創造的に、音楽 事業に 取り組むための、

ライブハウス 運営に関する ノウハウ(know-how)などを

効率的に 収得できたのであった。


12月1日、日曜日、正午ころ。開演までは、あと 10分。


派手さはないが、温かな 趣のある、

赤レンガ造りの、

ライブ・レストラン・ビートの、

エントランス(入口)の 石段を 上がった

フロント(受付・うけつけ)は、

チケットを手にする 来場者で、順番を待って、

長々と続く、二人ずつの 行列だった。


清原美樹、松下陽斗、

小川真央と 野口 翼も、

2列に 並んだ。


「なんか、びっくり。わたしたちのバンドの祝賀会に、

こんなに、一般の人たちが、来てくれるなんて!」


そういって、美樹は、隣の 真央にいった。


「いつのまにか、美樹たち、人気者になっているのよね!」

と真央が、

美樹に、それを祝福するように、やさしく、ほほえむ。


「そうなのかしら」と 美樹。


「美樹ちゃん、おれ、計算を 間違っていたよ」


美樹と真央の、うしろに並ぶ、

松下陽斗が、

清原美樹に 小さな声で そういった。


「どうしたの!?はる(陽)くん…」 と 美樹は、

陽斗に 振り向く(ふりむく)。


「さっきの 印税の 計算だけど。

シングルの売り上げを計算に入れるのを忘れてたさ。

なんか、抜けてるよな、おれ。

シングルを 計算に入れると、

ひとりあたり、293万円くらいの収入になるよ。

すごい、金額だ」


「うん、スゴすぎ…。でも、お金って、

たくさんあっても、困らないよね!

無くて、困るよりは いいことよね!」と

美樹はいいながら、

真央ちゃんたちが いるんだから、

いまは、お金の話は、止そうってば…、と思う。


「いいわよね。美樹ちゃん。まるで 宝くじが

当たっちゃったみたいに、急に、

お金持ちになっちゃって。とても 羨ましいわ」


そばにいる、小川真央が、そういう。


「でもね、真央ちゃん、お金って、

いろいろと、トラブルというのか、心配事や

不幸を 招く、素でもあるのよね。

うちの父親や

姉が弁護士でしょう。法律事務所に、持ちこまれてくる話は、

ほとんどが、

お金が関係することばかりなんだから。

事務所の、お手伝いを、たまにしてるじゃない。

お金って、扱いが、難しいんだなって、

つくづく 感じちゃっうのよね。

人間を、狂わしちゃうんだもの」


といって、美樹は、ちょっと 困った顔をして、

真央を見る。


「わたしも、前に、美樹ちゃんちの法律事務所で、

アルバイトさせていただいわよね。

そのとき、感じたけど、法律事務所って、

社会の縮図にみたいな気がしたわ。

美樹ちゃんちの法律事務所は、ほんと、

知的な感じで、センスがあって、お部屋もきれいで、

優しくて、すてきな、お姉さまやお兄さまばかりで、

居心地も、最高だったわ。

また、アルバイト、させてね、美樹ちゃん」


「こちらこそ、よろしくだわよ、真央ちゃん」


「美樹ちゃんはね。

そんな環境の中で、育ってきたんだもの。

それで、

世の中、社会の仕組みとか、よく知っているし、

理解できるのよ。

人の気持ちの、機微とでもいうのかしら、

そういうものも、

わたしなんかよりも、よくわかっているし…。

美樹は、

人の 外面からは、決して、わからないような、

微妙な 心の動きとか、

物事の趣というのかな、状況とか、

察知いたするの、特技なんだもの!」


「そうかしら、真央ちゃん。自分では よくわからないな!」


「うん、美樹は、妙に、オトナの、ところあるもん。

たぶん、

そんな、法律事務所という、特殊な家庭 環境

の中で、

美樹は 育ってきたからなのよ。そんな環境のせいで、

いつのまにか、

美樹ちゃんは、その魅力的で、少女のような、あどけなさとは、

なんというのかしら、

アンバランスで、どこか、つり合いがとれていないような、

妙に、悟りきっている オトナの女性の、

考え方が身についているのよ、きっと…」


「アンバランスで、悪うございましたわ」 と 美樹。


「美樹ちゃん、ごめんなさい。でも、そんな、美樹だから、

バンドのリーダだって、立派に 務まるのよ!

わたしは、いつだって、美樹を応援してるんだから!」


「ありがとう!真央ちゃん!わたしも真央ちゃんが大好き!」

と美樹は、

いいいながら、瞳を 潤ませる。


そんな会話に、4人が、声を出して、わらった。


「ははは。たしかに、人間のもめごとの、ほとんどは、お金。

お金に 纏わることばかりだし…」


そういって、松下陽斗が わらった。


「人の欲望には、際限がないとか、

よく、いいますもんね」


陽斗の 隣にいる 野口 翼が、

そういって、若者らしく 微笑む。


「お金は、時には、恐ろしいものだわ。

その人から、地位でも、名誉でも、信用でも、

家族とか、愛や友情でも、奪いとってしまうんだから」


いつもは、明るい 美樹が、ちょっと 暗い表情になって、そういう。


「大丈夫よ!美樹。そんな悲しいこと、

考えないの!いつも 元気な、美樹らしくないわ!

美樹が、いくら、お金持ちになっても、

私は、いつまでも、美樹の 親友でいるつもりなんだから!

美樹は、お金なんかより、

大切なものがあることを、よく知っている、いい子だもん!」


小川真央が、そういって、声を出してわらう。


「ありがとう、真央」 といって、美樹は、真央の手を

固く 握った。



2013年、12月1日の日曜日の正午ころ。


晴れた 空からの 日の光が、ライブ・レストラン・ビートの

外壁の 赤レンガに、

暖かく 降り 注いでいる。


祝賀 パーティーの 開演まで、あと 5分であった。


フロントで 受付をすませた、美樹と 陽斗、

真央と 翼は、ホールへと 向かう。


ホールの1階と 2階の、合わせて 280席は、

全席、指定席で、ほぼ、満席だった。


美樹は、ホールの入り口で、陽斗と、

驚いたような表情で、目を合わせる。


「すごい、人でいっぱいだわ!」と 美樹。


「うん、ステージの前のテーブルにいる人たちは、

テレビ局とか雑誌社の人たちみたいだよね。

一般の お客さんは若い人たちが多いよね」


そういって、微笑む、陽斗を、

まぶしそうに見る、美樹。


きょうは、挨拶をするときだけで、

歌ったり、演奏しなくてもいいって、いうから、

気も楽だわ!

お酒も飲んで、いっぱい、楽しんじゃおう!

・・・と美樹は思う。


美樹たち4人は、ステージからは 後方の、

クラッシュ・ビートやグレイス・ガールズのメンバーたちや、

モリカワの社長、副社長、ほかの社員たちや、

早瀬田大学で、いつも会っている、

ミュージック・ファン・クラブの 仲間たちのいる、

テーブルに着席した。

1番、遅れた、美樹たち4人を、

みんな、笑顔で 迎えてくれる。


華やかな、充実した 照明の、

ステージに近い、1階の フロアのテーブルでは、

雑誌社、新聞社、テレビ局、ラジオ局など マスコミの、

招待した客たちが、

ウエイトレスや ウエイターに 料理や飲み物を

注文したりして、

ゆったりとした ムードで、開演を待っている。


祝賀パーティーの、ステージの演奏は、いまをときめく、

音楽家の 沢秀人と、

彼の 率いる、総勢 30名以上による、

ビッグ・バンドが、メイン (中心)ということもあって、

会場は、特別な、盛り上がりを見せている。


ギターリストでもある 沢秀人は、ここ数年、

映画音楽や テレビ・ドラマなどの作曲家としても、

活躍していて、レコード大賞の作曲賞も受賞している。


インプレッション( impression = 感動 )という名の

会社を設立して、この ライブ・レストラン・ビートを

経営していた、沢秀人だった。


しかし、沢は、人気とともに、多忙となり、

音楽活動だけに 専念したいと

考えるようになっていた。


そこで、旧知の仲でもある、

森川学が 副社長をしている、

芸能 プロダクションの、モリカワ・ミュージックに、

自分の会社、インプレッション( impression )と、

ライブ・レストラン・ビート の すべてを、

任せることにしたのであった。


それと、同時に、沢秀人自身も、

モリカワ・ミュージックに 所属の アーティストとなった。


そんなことを、迷わずに、実現できるほどに、

森川学と、沢秀人とは、

価値観にも 共通点も 多く、正義感も 強く、

おたがいの情熱 や 資質も 理解し合い、

信頼し 合っているという、無二の親友であった。


「みなさま、お待たせしました!

これより、クラッシュ・ビート、そして、

グレイス・ガールズの、ヒット・チャート、

トップ・ファイブ(5)入りの、

祝賀パーティーを 開催いたします!」


店長の佐野幸夫が、開会の言葉をいった。


「本日は、お忙しいなかを、誠にありがとうございます。

楽しいひとときを、過ごしていただくために、

美味しい、お料理やお飲物もご用意いたしました。

そして、

日本のトップ・ミュージシャンによる すばらしい ステージも

ご用意いたしました!

本日は、まさに、五感で、楽しめるライブ・ショーですので、

お楽しみください!」


「みなさまの、ご祝辞や ご挨拶は

また、のちほどということです。

それと、本日は、

クラッシュ・ビートと、グレイス・ガールズの、歌と演奏は、

ないという、プログラム(催しの予定)なんですけれど、

お酒でも入って、いい気分になれば、

きっと、歌いたくなるはずですから、そうしたら、

ぼくのほうから、

なんとか、交渉して、このステージで、歌ってもらいますから、

それも、ご期待ください!」


そういう、佐野幸夫に、会場から、わらい声と拍手がおこる。


「はっはっは、およそ、3時間の ひとときですけど、

みなさま、ごゆっくりと、お楽しみください!

それでは、

いまをときめく、沢秀人さんと、

彼の 率いる、総勢30名以上による、

ビッグ・バンド、ニュー・ドリーム・オーケストラのみなさんです!」


佐野幸夫の、そんなMC(進行)に、また、

大きな拍手と 歓声が 沸く。


「みなさん、こんにちは。沢秀人です。

クラッシュ・ビートのみなさん、

グレイス・ガールズのみなさん、ヒット・チャート、

トップ・ファイブ(5)入り、

ほんとうに、おめでとうございます。

こんなことって、前例もないでしょうから、

こうして、多くの方が、心からよろこんで、

お祝いに、駆けつけてくださっているんだと

思います。ぼくも、自分のことのように、うれしいです!」


会場からは、また、拍手や歓声が、わきおこる。


1973年8月生まれの、40歳になる、沢秀人が、

少年のように、目を輝かせて、ちょっと、はにかんでわらった。


沢の、無二の親友の、モリカワの 副社長の 森川学は、

1970年12月生まれで、森川は、沢の、3つ年上になる。


「えーと、本日は、ぼくと、ニュー・ドリーム・オーケストラで、

クラッシュ・ビートと、

グレイス・ガールズのヒット・ナンバーとかを、たっぷり、

みなさんに楽しんでもらいたいと思います。

歌は、ドリーム合唱団のみなさんです!」


また、割れんばかりの、拍手と歓声。


「では、1曲目ですが、

グレイス・ガールズの最新のヒット・ナンバーの、

Angel of love (愛の天使) を、お楽しみください!」


沢秀人は、ギターの担当で、

総勢30名以上による、

ビッグ・バンドは、指揮者はいないのだが、

ニュー・ドリーム・オーケストラという名にふさわしい、

弦楽器、管楽器、打楽器、鍵盤楽器など、

さまざまな楽器と、合唱の、楽しい合奏団であった。


---


Angel of love (愛の天使)  作詞 作曲 清原 美樹


出会いは いつも 偶然

偶然から 人生は 運命的に 

進展して ゆくもの かしら?


あなたとの 出会いの

事の 始まりも

小さな勇気と 愛だった


ときどき 感じてしまうことは

きっと 愛の 天使が

いつも 見守っていること


愛の 天使なんて お話は

いつも 夢見る 少女のようで

みんなに 笑われるけど


でも そんな天使が いないなんて

やっぱり 信じられないわ だって

世界には 愛が 必要なんだから


ah ah!Angel of love!

(ああ、愛の天使)

I can't live without love

(愛なしでは 生きられないわ)

Love is always miraculous

(愛は いつも 奇跡的)

Love is always miraculous

(愛は いつも 奇跡的)


お気に入りの お店で

大好きな 友だちと

ほおばる アップルパイ


甘酸っぱい りんごの味!

こんなにも おいしいなんて

やっぱり 奇跡! 天使の愛だわ!


どんな時にも どんな場合にも

愛があるから うまくいくんだわ

乗り越えて ゆけるんだ


もしも 困ったことがあったとき

愛のかけらもない そんなときは

何もかも 信じられない わけだけど


いつも 大切にしたいと思うの!

天使は 気まぐれだけれど

愛を 感じて 生きてゆこうと・・・


ah ah!Angel of love!

(ああ、愛の天使)

I can't live without love

(愛なしでは 生きられないわ)

Love is always miraculous

(愛は いつも 奇跡的)

Love is always miraculous

(愛は いつも 奇跡的)


≪つづく≫ーーー 27話 おわり ーーー

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