第28話 モリカワの 新春 パーティー

2014年1月5日の日曜日。

陽の光の少ない、曇り空。肌寒い。


株式会社 モリカワの、新春パーティーが、

下北沢駅、南口から、歩いて 約3分の、

ライブ・レストラン・ビートで、

正午の12時から 始まるところであった。


1階 フロアと、2階 フロアの、あわせて、280席は、

モリカワの社員や招待客で、満席だった。


清原美樹たち、グレイスガールズや、早瀬田大学の

音楽サークルのミュージック・ファン・クラブの学生も、

ほとんど 出席している。


学生たちのためにもと、この新春パーティーの会費は、

無料で、飲み放題、食べ放題であった。


モリカワっていう会社、みんな、いい人ばかりで、

わたしも、この会社に、就職させてもらっちゃおうかな。

きょうの、会場の、なごやかな雰囲気の中で、

ふと、清原美樹は、そんなことを 空想する。


美樹たちの グレイスガールズ、クラッシュ・ビートのメンバー、

モリカワの社員でもある川口信也たち、 それに、

モリカワの社長の森川誠や、副社長の森川学、

会社の本部のメンバーは、

ステージからは 後方のテーブルに集まっている。


会社の社長ともなれば、ステージ寄りの、特等席に座る

ものだろうが、ここの社長たちは、いつも、謙虚である。


モリカワという会社では、経営理念を、明文化して、

仕事上で 必ず 守るべき、

信念や 誓約を 明記している。


そのひとつに、

「管理する思考ではなく、支援をする思考で、社員が安心して働ける

職場や、新たな顧客価値の創造のできる 経営を 目指そう!」

がある。


モリカワの 従業員たちは、相手に、自分の考えや行動を 批判される

こともなく、自分の意見や質問を、自由に発言できた。


モリカワの自由で平等な、階層や部門にとらわれないフラットな関係の、

社風や気風は、そんな経営理念によって、しっかりと 守られて、

今日の 飛躍的な発展の原動力となっている。


社長をはじめとする 経営トップたちは、そのように、顧客の

ニーズや、現場で働く 社員の待遇や安全を、第一 に 考えていた。


いまや、世間では、ブラック 企業といわれる会社の不祥事

とは、正反対な、ホワイトな優良 企業と 評価される 会社であった。


「みなさま、あけまして、おめでとうございます!

それでは、これより、株式会社 モリカワが主催の

新春パーティー を とり行ないます!」


ライブ・レストラン・ビートの店長の、

身長179センチの佐野幸夫が、間口、約14メートルの

ステージに立って、そんな、司会の言葉を述べると、

高さが 8メートルの、吹き抜けのホールは、

歓声と、拍手につつまれた。


「進行役の店長の佐野幸夫でございます!

まあ、本日は、女性のみなさまが、お美しいといいますか、

かわいらしいといいますか、格別に、華やかですよね。

ぼくも、つい、見とれてしまって、

進行役を忘れてしまいそうです。

そんな、女性に弱い、佐野ですが、よろしくお願いします!」 


会場は、大きな拍手と、わらいにつつまれた。


「本日は、おいしい料理とスイーツ、お飲み物は たっぷり

ご用意しました。そして、すばらしい ライヴ 演奏も、

たくさん、お楽しみいただきたいと思います。

それでは、森川社長から、新年の ご挨拶を 頂きます!」


「みなさん、あけましておめでとうございます。森川誠です。

いま、佐野さんのお話にもあったように、

本日は女性のみなさんが、たくさん、ご参加くださっていて、

わたしも、新年から、たいへんうれしいしです。元気が出ます!」


わずかな白いものが混じる、髭のよく似合う、

森川誠の そんな 挨拶と、笑顔に、会場は沸く。

1954年生まれ、今年の8月5日で、60歳の、森川誠である。


「まあ、わたしは、女性の笑顔も好きですけど、男性の笑顔も

大好きです。もちろん、子どもたちの笑顔は、最高ですけどね。

わたしもね、

どうしたら、みなさんの、そんな素敵な笑顔に、

毎日出会えるかと、考えながら、いままで、仕事をやってきたと、

いっても、いい過ぎではないのです。

おかげさまで、モリカワも、ここまで大きくなりました。

本当に、みなさん、ひとりひとりの努力が、1つになってこその、

この成果だと、実感しています。

今年も、これからも、おたがいに、がんばりましょう!」


「森川誠社長、ありがとうございました。

では、

森川学副社長、乾杯の音頭をお願いします!」


「それでは、新しい年を お祝いして、モリカワの発展と、

みなさまの健康と幸福を祈って、乾杯をいたします。

新年、おめでとうございます!乾杯!」


森川学が、笑顔で、心持、ゆっくりとした ペースで、そういった。

1970年12月7日生まれ、43歳になったばかりの森川学である。


会場は、1階フロアも、2階フロアも、おいしい食事と、飲み物、

下北沢地元の、いくつものバンドによる、ライヴ演奏で、

みんなの会話も、楽しく弾んで、熱気にあふれている。


「そうなんですか。美樹ちゃんたちも、川口さんたちも、

大学のお勉強や、会社のお仕事をつづけながら、

音楽活動をやっていくんですね。

それが、最良の選択かも知れませんよ。

ぼくも、芸能活動というか、この世界に入ったのが、

ちょうど、20歳のときで、

あっという間に、20年が過ぎていますが、

最近、ようやく、 生活が安定してきたって感じですからね。

ぼくの場合は、音楽で食べていけるまで、

10年、かかったもの。あせらずに、あきらめずに、

自分を信じて、努力してやっていけば、あとは・・・、

才能と 運とかで、なんとか、楽しくやっていけるものですよ」


そんな話をしたのは、沢秀人であった。

沢の右隣には、清原美樹がいて、

左隣には、川口信也が着席していた。


一昨年の2012年には、テレビドラマの音楽を制作して、

それが、レコード大賞の作品賞を受賞するなどで、

芸能界では、いまをときめく、沢秀人だった。


1973年8月生まれの、40歳になる、沢秀人は、

総勢30名以上による、ビッグ・バンド、

ニュー・ドリーム・オーケストラの指揮をとったりと、

ユニークな 音楽活動をしているが、1013年の春までは、

この ライブ・レストラン・ビート の経営者でもあった。


「芸能界っていうか、音楽界っていうか、

なんか騒々(そうぞう)しくって、派手過ぎるっていうか、

ちょっと、ついてゆけないぜってもんを感じるんですよね。

音楽やったり、ライヴやったりするのは、

純粋に、楽しくって、最高なんですけどね!」


川口信也がそういった。


「わたしも、川口さんたちのクラッシュ・ビートの人たちや、

グレイス・ガールズのバンドのメンバーと、

よく 話し合ったんですけど、人気者になるのはいいけれど、

それと引き換えみたいに、芸能界の荒波の中で、

自分たちのペースが、乱されることとかは、最悪だなって

いう結論になったんです。

いままのまま、現状のまま、大学や、会社勤めをしながら、

つまり普通の生活をしながら、

音楽活動もできたらいいなってことに、落ち着いたんです」


清原美樹は、そういって、ほほえむと、沢秀人と、

川口信也を見た。


「モリカワ・ミュージックに入っていれば、居心地良く、

音楽活動はできると思うよ。おれも、森川学さんや森川誠さん

たちを、すげぇ、信頼してるから、事務所を、ここに移籍したり、

このライブハウスを、モリカワに任せたんだから!

はっははっ」


沢秀人は、頼りになる兄貴という風格で、

豪快にわらった。


「沢さん、これからもよろしくお願いします。この前は、

わたしたちの祝賀パーティーで、たくさん、演奏してくださって、

ありがとうございました。とても、すばらしい演奏でした。

ずーっと、始めから、終わりまで、感動でした!」 と美樹。


「はっはっは。きみたちの曲や詞が、よかったんだよ!

よし!きみたちと、おれたち、みんなの 音楽活動の

サクセス(成功)を、祈願して、乾杯だ!」


そういって、また、沢秀人は わらった。


「乾杯!」


美樹と、川口と、沢の、3人が、グラスを合わせて、

乾杯をすると、それを見て、まわりの テーブルの みんなも、

乾杯をして、それが、森川純たちにも、次々と つづいて、

森川 誠 社長たちまでが、愉快そうに、

「乾杯!」と 声を上げた。


≪つづく≫  ーーー 28話 おわり ーーー

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