第22話  メジャー・デヴュー・パーティ ー

2013年10月13日の日曜日、午後2時。

今年は、台風も 多いのに、幸い

上空は どこまでも 青い。


G ‐ ガールズ(グレイス・ガールズ)の

デヴュー・アルバム、 Runaway girl (逃亡する少女)の

完成と、メジャー・デヴューの、

祝賀パーティーが 始まろうとしている。


下北沢駅南口から、徒歩で3分の、

ライブ・レストラン・ビート(通称・LRB)は、

1階フロア、2階フロアの、

280席、ほとんど 満席である。


みんなが 見つめるステージには、

店長の 佐野幸夫が立っている。


佐野幸夫の、おもしろい、MC(進行)は、

いつも、うける。


ステージは、間口が、約14メートル、

奥行き、7メートル、

天井高、8メートル、

舞台床高、0.8メートル。


舞台の左には、グランド・ピアノや、

いろいろな楽器の 音色の出せる、

シンセサイザーが 置いてある。


佐野が、マイクを片手にして、スピーチをはじめた。


「やあ、みなさま!佐野幸夫でございます!」


会場からは、なぜか、それだけで、わらいがもれる。


「あ、もう、わらっていただけて、わたくしも、

夢は、コメディアン志望ですので、

まだ、希望はあると思いますので、

大感激でございます!」


そういって、佐野は、ハンカチで 涙をぬぐう マネをする。


「ええと。本日は、グレイス・ガールズの

祝賀 パーティに、お越しいただいて、

誠に ありがとうございます!」


長身、179センチの 佐野が、そういって、

丁重な 敬礼をすると、

拍手が わきおこる。


「みなさまには、先だって、

ご案内状を 送らせて いただきましたが、

その、ほとんどの、みなさまが、

本日は、ご来店してくださっております!」


「お祝いに 駆けつけてくださった、

お友だちの ミュージシャンのみなさまの、

すばらしいライブも、

たっぷりと ご用意しております!」


「しかし、これは、成りゆきですので、

ドタキャンもあるかもしれませんけど。

わたしがなんとか、がんばって、交渉してみます!」


そういって、頭をかく、佐野に、みんなは、わらった。


「もちろん、本日は、G ‐ ガールズのライブも、

たっぷりです!

最近、イー・ガールズ(E-girls)という

女性グループが、ヒット・チャートに登場してますよね。

G ‐ ガールズも、

デヴュー・アルバムは、本日発売ですので、

オリコン・チャートとかを、盛り上げるのは、

あと1週間先くらいでしょうか?

そのあと、全米ヒット・チャートも

盛り上げてくれたり。

あっはっは。

そんな、強気の、予想を、わたしはしています。

それでは、みなさま、

ぜひ、楽しいひとときを、お過ごしください!

それでは、お待たせしました!

グレイス・ガールズの みなさんです!」


G ‐ ガールズのメンバー5人が、フロアから見て、

ステージの右にある、控室から、

大きな拍手の中、うれしそうに、元気な姿で、

現れる。


清原美樹、大沢詩織、

菊山香織、平沢奈美、

水島麻衣。


5人は、それぞれ、個性的な、普段着で、

ステージ むけの ファッションではないが、かわいらしい。


「きょうは、わたしたち、グレイス・ガールズのために、

ご来店いただきまして、

ほんとうに、ありがとうございます!

もう、わたしたち、その感激で、

控室にいるときから、

涙が 出たりしているんですよ・・・」


リーダーの 清原美樹が、すこし、

緊張しているが、微笑みながら、

キラキラと瞳を輝かせて、

語りはじめる。


「メジャー・デヴュー しませんか?という お話を、

モリカワ・ミュージックの 森川良さんから

いただいたのが、今年の7月の終わりころだったんです。

夢のような、すてきな お話で、信じられませんでした。

それから、まだ3カ月も たっていませんけど、

みなさまの強力なサポートに、支えられながら、

本日、ファースト・アルバムも、発売することもできました!」


ライブ・レストラン・ビートの、高さ、8メートルの、

吹き抜けのホールの、会場は、

歓声や拍手につつまれる。


「アルバムを制作をしていた、この 1ヵ月間は、

まるで 夢を見ているように 幸せな 気分でした。

苦労もありましたが、充実した 日々でした。

アルバムは、全部で、10曲です!

およそ1カ月間で、仕上げることができました。

レコーディングの時間は、正味で、

20時間くらいです!

日ごろから、練習に励んでいましたから!」


そこで、また、感心する、ため息のような歓声と、

拍手がわきおこる。


「みなさまの、ご支援が、あってこその、

G ‐ ガールズなんです!

ほんとうに、ありがとうございます!

あの、ビートルズは・・・、

ファースト・アルバムの、プリーズ・プリーズ・ミー

(Please Please Me)を、

正味、10時間たらずで、

仕上げたといいますから、

ビートルズには、かないませんでした!

ビートルズは、やっぱり、さすがだと 思います。

それに・・・、

ビートルズの、プリーズ・プリーズ・ミーは、

全部で、14曲あります。

やっぱり、ビートルズは天才ですし、偉大です!」


清原美樹は、そういって、ほほえんだ。

会場からは、惜しみのない 拍手がつづく。


観客たちは、1階と2階のフロアのテーブルで、

ゆったりと 飲食を 楽しみながら、

くつろいでいる。


「そうか・・・。ビートルズは、ファースト・アルバムを、

10時間で、仕上げたんだっけ?」


そんな話をするのは、モリカワ・ミュージック、課長、

今回のアルバム制作の、総指揮の、

森川良である。


「ええ、そんな話は、ビートルズの専門誌で、

読んだことがあります。ビートルズも、

G ‐ ガールズも、ライブで、鍛えられた、

ロックバンドには、違いないですが・・・」


と、語るのは、森川良の右どなりの

席の、レコーディング・スタジオ・レオの、

島津悠太である。

悠太のとなりには、

悠太のスタジオの エンジニアの、山口裕也、

そのとなりには、

スタジオ・マネージャーの沢木綾香もいる。


「彼女たちが、20時間で、レコーディングを、

完成させたことには、

正直、超驚き、なんですよ。

わたし、

終始、冷静を装ってはいましたけど」

と、森川良に語りかける、

悠太が、声を出して、明るくわらった。


「実は、悠太さん、おれも、彼女たちには、

ビートルズの再来のような、あの爆発的な、

パワーというか、エネルギーというか・・・、

不思議というしかないような、

新鮮さを、感じているんですよ!

それで、自分のセンスを信じて、

メジャー・デヴューの話を、清原美樹さんに、してみたんです。

ほかの会社に、先を 越されては、

たまりませんからね。モリカワ・ミュージックも、

先手必勝が、社訓ですし」


そういって、森川良も、声を出してわらった。


スポット・ライトも 華やかな、ステージの、

清原美樹が、会場のみんなに、語りかける。


「わたしたちに、どこまで、できるか、わかりませんが、

これからも、メンバー全員で、精いっぱいに、がんばります!

わたしたち、

G ‐ ガールズの音楽を、応援してくださる、すべてのみなさま。

早瀬田大学の、

先生のみなさま、学生のみなさま、

ミュージック・ファン・クラブ(MFC)のみなさま。

株式会社・モリカワのみなさま。

株式会社・フォレスト(Forest)のみなさま。

島津 楽器店のみなさま。

今回、お世話になった、

レコーディング・スタジオ・レオのみなさま。

ほんとうに、ご声援や、ご支援を、ありがとうございます!

きょうは、精いっぱいの、パフォーマンスで、

みなさまに、楽しんでいただける、ライブをします!」


清原美樹が、そういって、挨拶を終えた。


会場は、拍手と、歓声が あふれる。


「彼女たち、第2の、ビートルズになるかもしれませんよね。

半分、冗談で、半分、本気で、

わたしはいっているんですけどね。あっはっは」


島津悠太は、楽しげに、そういって、

わらうと、1杯目の生ビールを飲み干した。


「悠太さん、モリカワの企業目的のひとつも、世の中に、良い変化を

もたらすことですから、彼女たちが・・・、

ビートルズのようなロックバンドに成長してくれるのなら、

それほど、うれしいことは、ちょっと、ないですね!」


そういうと、森川良は、ドライ・ジンがベースのカクテル、

マティーニを飲む。


森川良は1983年生まれ、12月で30歳。

島津悠太も、1983年生まれ、8月で30歳。

ふたりは、ほとんど、同じ歳でもあり、気も合う。


「良さん、ちょっと、ご相談があるんですが・・・」


森川良の左隣にいる、

松下陽斗が、そういった。


「ははは。どんなお話ですか?陽斗さん」


「彼のことなんですが」と、陽斗は、となりの席の、

山内友紀を見て、話をつづける。


「友紀さんは、トランペット奏者として、デヴューすることが、

ひとつの夢なんだそうです」


そういって、陽斗は、ひとつ上の先輩の

山内友紀のことを、森川良に語る。


山内友紀は、1992年の

10月10日生まれ、21歳になったばかり。


松下陽斗は、

1933年2月1生まれで、20歳である。


ふたりは、東京・芸術・大学の音楽学部の3年生で、

陽斗は、ピアノ専攻、友紀は、トランペットの専攻であった。


友紀も、陽斗も、同じような、

いまふうのカットの、髪は、眉毛の

あたりまであって、長めである。

また、ふたりとも同じように、

いつも、どこか、わけもなく、はにかんでいるような、

顔を 紅らめているような、

その 笑顔には、

まだ、純真な少年のような、

若々(わかわか)しい、輝きがある。


1983年生まれで、12月5日で、30歳になる、

森川良は、

そんな、ふたりに、

若さか・・・、いいもんだよな、と、ふと思う。


「友紀さんは、去年の、全日本・音楽・コンクールの

トランペット部門で、みごと、1位に入賞されたんですよね。

友紀さんの 演奏は、

ユーチューブで、見てます。楽しませてもらってますよ。

すばらしい、音色で、感動していますよ。

こちらこそ、よろしくお願いします。

ぜひ、メジャー・デヴューを 企画してゆきましょう!」


森川良は、そういうと、

山内友紀に、ほほえんだ。


「どうも、ありがとうございます」

と、山内友紀は、予想外に、早い、

話の展開に、松下陽斗と、目を合わせて、よろこんだ。


「きょうも、友紀さんのトランペット、楽しみにしてますよ。

演奏も大事ですが、

まあ、きょうは、楽しく飲みましょう!」


と いって、森川良は、わらった。


「陽斗の ピアノと、コラボ(共演)で、

ちょっと、ライブを やらせていただく 予定です!

おれも、陽斗も、

酒は強いですから、今日は飲みますよ。はっはっは」


と 山内友紀も わらった。


ステージでは、店長、佐野幸夫の MC(進行)で、

G ‐ ガールズ(グレイス・ガールズ)の、演奏が始まる。


パーティーのオープニングを、飾る 曲は、

デヴュー・アルバム、

Runaway girl (逃亡する少女)の中の、

ゆったりしたテンポのバラードで、

If I can live with you (あなたと 生きてゆければ) である。


歌の出だしのイントロは、水島麻衣の

うつくしい、ギター・ソロで、

すぐに、

大沢詩織のリズム・ギター、

平沢奈美のベース・ギター、

菊山香織の、16ビートを刻む、

ドラムス、

岡昇の、パーカッションがつづいて、かさなる。


そして、シンセサイザーを演奏する、

清原美樹が、

口もに 設置したマイクにむかって、歌い始める。


女性らしい、透明感があふれる、

バンド全員の、歌声や、コーラスのハーモニー、

そして 演奏に、

会場のみんなは、気持ちのよい、時間を過ごした。


ーーー


If I can live with you (あなたと 生きてゆければ)


             作詞作曲 清原 美樹 (きよはら みき)


いつもの 街の 交差点で あなたと すれ違った


時は 流れて いまは ちがう 道を 歩く 二人


あの頃は こんな 切ない 思いだったのよ!


あなたと 生きてゆければ・・・ If I can live with you... 



いつも 見ている  毎朝 見ている わたしの 鏡


たまに ピカピカに 磨いたの! ブラッシングして


ピンクのリップ 鏡の中に もう ひとりの わたし


あなたと 生きてゆければ・・・ If I can live with you... 



「ねえ 時間を 止める 方法って、 ないのかしら?」


「ほんと ほんと 歳とるのって 早すぎるよね!」


そんな 友だちとの 会話だけど あなたとなら 楽しいの!


あなたと 生きてゆければ・・・ If I can live with you... 



無一物 無尽蔵という 言葉が 大好き!


本来は 何も 持たないで 生まれてくるのだから


無心 でいれば 自由自在の 境地!


でも あなたと 生きてゆければ・・・ But if I can live with you... 


あなたと 生きてゆければ・・・  if I can live with you... 


あなたと 生きてゆければ・・・  if I can live with you... 


≪つづく≫ ーーー 22話 おわり ーーー 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る