第20話 店長・佐野幸夫の誕生会

ライブ・レストラン・ビートの店長の佐野幸夫と、

佐野となかよくつきあい始めて1年くらいの、

真野美果の誕生日のお祝いを、

森隼人の家ですることになった。


誕生会には、森川純や川口信也とか、20人くらいが集まる。


先日の8月24日の土曜日に、下北沢駅南口から徒歩で3分の、

ライブ・レストラン・ビートで、

特別ライブ・サザンオールスターズ・祭りがあった。


ライブが終わって、打ち上げの飲み会をしているときに、

「おれの家でいいからさ、

幸夫ちゃんの 誕生日のお祝いしようよ!」

と、森隼人が、いいだしたのだ。

佐野幸夫は、9月16日が 30歳の誕生日であった。


そのとき、佐野幸夫のとなりにいた、

佐野と仲のよい真野美果の誕生日も、

10月10日だったので、

「それじゃあ、お二人のお祝いを!」

ということで、話は決まったのであった。


9月7日の土曜日の午後1時ころ。


このところ、雨もたまに降る、

不安定な天候ではあるが、

暑いくらいな、晴天である。


佐野幸夫は、真野美果と、

小田急線の、

代々木上原駅南口から、

駅の利用客たちの波の中に、現れる。


代々木上原駅は、東京都渋谷区西原3丁目にあり、

小田急電鉄と、東京地下鉄(東京メトロ)の駅であり、

2013年、

1日の平均乗降人員は約23万人と、

小田急線内では、新宿駅、町田駅に 次いで、3番目に多い。


「この駅は、ついつい 高校のころを思い出しちゃうね。

みかちゃん!」


179センチ、長身の、佐野幸夫が、

となりの 真野美果にほほえんだ。


「そうよね!わたしも、懐かしくなっちゃう!」


美果は、幸夫と 目を合わせて、ほほえんだ。

真野美果の身長は、163センチ、誕生日は、

10月10日で、25歳になる。

清純な 整った顔立ちで、

つややかな髪は、肩にかかるほどである。


佐野幸夫と 真野美果のふたりは、代々木上原駅・南口から、

歩いて、5分くらいの、

都立代々木高校の定時制に、通っていた。


正確には、代々木高校に通っていた期間は、

佐野幸夫は、1998年から2002年の4年間であったが、

真野美果は、2003年から2004年までの、

1年間だった。


代々木高校は、2004年3月には、閉校となった

からであった。


2004年4月からは、代々木高校は、

世田谷区北烏山にある

東京都立・世田谷・泉高等学校として、

統合されて、

自由な、三部制のシステムは、そのまま、引き継がれた。


アクセス(access 交通の便)は、駅からの距離など、

代々木高校の、倍以上はかかったが、

真野美果は、2年生から卒業まで、

世田谷・泉高等学校に通った。


定時制の4年間を、佐野幸夫と 真野美果は、

同じように、勉学と仕事の両立に、悩んだりしながら、

中退も考えたことがあったが、

がんばって、無事に卒業したのだった。


佐野も美果も、芸能事務所に、所属して、

子どものころからの夢の、

タレント活動をつづけながら、

自由な校風の定時制、3部制の高校生活を楽しんだ。


代々木上原駅から、徒歩で5分くらいの、

いまは閉校の代々木高校は、

働きながら、学ぶために設立された、

公立の定時制高校で、一般の人たちに限らず、

交通の便のよいこともあって、

アイドルやタレントにも人気があった。


全国でも珍しい、午前・午後・夜間の

三部制の交替部というのがあって、

都合のよい好きな時間帯を選んで、授業を受けられた。


年齢や経歴などは、自由で、さまざまな生徒が集まり、

芸能人も特別扱いしなかった。

校則はなく、制服もなく、自由な校風であった。


在籍していた女優では、原田美枝子、西川峰子、浅野温子、

藤谷美和子、鈴木蘭々たちがいた。

SPEEDの上原多香子やモーニング娘の飯田圭織も通っていた。

SMAPの中居正広と木村拓哉も在籍していた。


現在、佐野幸夫は、俳優になる夢を 諦めた

わけではないが、

タレントの仕事はやめて、モリカワの社員として、

下北沢の、ライブ・レストラン・ビートの店長をしている。


真野美果は、芸能事務所に所属しながら、

タレントとして、

コツコツと、女優や声優の仕事をしている。


小田急線の 代々木上原駅

南口から、

気をつけて見ると、微妙に、

ゆるやかな勾配の多い道を、5分も歩くと、

森隼人の家がある。



9月7日の土曜日の午後1時。

空は 気持ちよく晴れている。


「美果ちゃん。経営の不振で、

閉店を考えていた店が、その後、

25年間で、売上1000億円って、やっぱり、すごいよね!」


代々木上原駅

南口を出ると、

佐野幸夫は、

真野美果に、そういった。


「25年間で、売上1000億円って、

森ちゃんのお父さんの会社のこと?」


「そう、森ちゃんちの、フォレスト(Forest)のこと」


「へー、そうなんだ!フォレスト(Forest)じゃぁ、

わたしも、CDとか、借りるときあるわ」


美果はそういって、佐野にほほえむ。


佐野は、ちらっと、美果の、裾がひろがる、

ブラックの フレア・スカートに 目が向く。


美果の肢って、きれいだよな、

さすが、女優さんだよ。いつも佐野はそう思う。


「えーと、美果ちゃん。

うちのモリカワが、先月の8月、

総店舗数、200店を達成して、

売り上げが、400億になったんだけど。

えーと、

モリカワの目標は、5年間で、1000店舗でさあ、

それはちょっと 無理だとしても、

5年後には、700店舗くらいは達成できるとして、

売上1400億くらいはいくだろうなって。

そんなわけで、

森ちゃんとこも、すごい 成長力だけど、

おれらの、モリカワもすごいなって、思うんだ」


「ほんとうね。森ちゃんちと、森川さんちって、

やっている 業種が違うから、

いまも仲はいいけど、

同じ業種だったりしたら、どうなっていたかしらって、

思うわよね」


「まったくだよ」といって、佐野幸夫は わらう。


真野美果も わらった。


ふたりは、青信号になるのを見ながら、

国道413号、

井の頭通りの交差点を 渡る。


「このへんは、静かな住宅街だね」と、佐野幸夫はいう。


「下北もいいけど、このへんも、いいよね。

いつか、わたしたちの、

マイホームが、このへんなんていうのも、いいわよね」


と、真野美果は、佐野を見て、ほほえむ。


片側一車線、制限速度30キロの、通学路と書かれた、

黄色い

標識のある道を、ふたりは、南へ、歩く。


道の左側に、7段の石段のある、

渋谷区上原公園があって、緑も豊かだ。

ブルーやピンクのベンチがいくつも置いてある。


そのすぐそば、右側には、中学校の正門があって、

小学校も、道の左方面の、すぐ近くにあった。


このあたり、上原3丁目には、

古賀政男音楽博物館(こがまさお おんがく はくぶつかん)

がある。


古賀 政男は、昭和期の代表的作曲家、ギタリストで、

国民栄誉賞受賞者(こくみん えいよしょう じゅしょうしゃ)

である。


代々木上原は、作曲家古賀政男が1938年(昭和13年)に、

移り住んだ 街であった。


古賀政男は、音楽創造に 邁進する 同志を

集めて、代々木上原に、

音楽村をつくろうという 構想を持っていた。


古賀政男音楽博物館は、そんな古賀政男の 遺志を

引き継いで、誕生した、大衆音楽の博物館である。


佐野幸夫と、真野美果が 通った、

2004年3月に 閉校の、

定時制 ・ 代々木高校は、

このへんから、国道413号、井の頭通り沿いに、

新宿方向の東へ、3分も歩いた場所にある。


いまから、佐野幸夫と、

真野美果の誕生日のお祝いとして、

ホームパーティーをする、

森隼人の家は、

上原中学校の南側、上原3丁目にある。


「森ちゃんの家は、フロア、

2つ分の大きなホールがあって、

パーティや、

親父さんがやっている会社 フォレスト(Forest)の、

幹部会議を開いたり、

仕事関係の撮影会などに使っているんだってさ」


「森ちゃんの親父さんも、すごいよね。

家業のレコード店が、経営不振になっていて、

閉店を考えていたけど、

森ちゃんの親父さんが、23歳のとき、

業態を、レンタル店に変えて、再出発。

それが、大当たり、大盛況。

いまでは、全国に300店舗だっていうからね」


「森隼人さんも、お金持ちだからか、

プレイボーイとか、悪くいう人がいるけど、

わたしたちの誕生パーティーやってくれるなんて、

全然、悪い人じゃないし、

性格のいい人だわよね」


「森昭夫さんは、真っ正直な人らしいからね。

森ちゃんも、

親父さんの性格を継いでるのかもね。

森ちゃんン自身は、

どこか、反抗的な、

不良を気どっているようなところもあるけど」


「そうよね。そういえば、森ちゃんって、

俳優は、ジェームズ・ディーンが、好きだっていっていたわ」


「はっはは。実は、おれも、ジェームズ・ディーンは、

憧れてたことあるよ。

でも、俳優になろうって思ったのは、やっぱり、

演技で笑いのとれる、

コメディのできる俳優の影響かな?

チャールズ・チャップリンや、ジャック・レモンのような」


「幸夫ちゃんなら、いつかきっと、そんな役者になれるよ」


そういって、ほほえむ、真野美果の

細い肩を、

佐野幸夫は、

「そうかな!?」といって、引き寄せた。


「わたし、森ちゃんのお姉さんの留美さんに会うのが、

すごく楽しみなの!

お料理が上手で、きょうのパーティーのお料理も、

留美さんが、作ってくれてるっていうし。

それに、留美さん、

美容師になったばかりなんでしょう。

お会いするのが楽しみだわ。

留美さん、21歳だから、

わたしより、4つくらい年下なんだけど」


「留美さんって、若いのに、しっかりした人らしいよ。

留美さんが、美容師になったからなのか、

フォレスト(Forest)では、美容院の事業を、

全国展開するらしいから」


「そうなんだぁ、それもすごいね!」


午後の1時10分ころ。


佐野幸夫と真野美果は、森隼人の家の玄関前に着く。


家は、西欧風のデザインで、

オレンジ系のシックな色合いの

瓦屋根に、

明るいベージュの、天然石の

風合いの外壁、

落ち着いた雰囲気の玄関であった。


玄関は、車イスの人でも、開閉しやすい、

引戸で、

スロープ(勾配)を設けて、バリアフリー設計になっている。


建築面積は、660平方メートル、200坪で、

敷地面積は、1320平方メートル、400坪であった。


敷地には、森家の住居の北側には、

株式会社 フォレスト(Forest)の本社ビルがあって、

クルマ12台分の駐車場もあった。


「いいなあ、いつか、美果ちゃんと、

こんな家で、のんびり暮らしたいね!」


「そうね」


佐野幸夫は、玄関のテレビ・ドアホンの

チャイムのボタンを(お)押した。


「美果ちゃん、このポスト、

なんか、門番みたいで、

ユーモラス(humorous)だよね」


そういって、佐野幸夫は、

森隼人の家の 玄関前にある、

その全体が ダーク・グリーンの 郵便ポストを見る。


「そうね、ジブリの映画に出てきそうな、ポスト!

こういうのって、ヨーロッパにあるのよね」


真野美果は そういって、ほほえむ。


そのポストは、長方形の上に、半円を加えた、

シンプルなフォルムの箱型をしていて、

2本の金属製の細長いポール(棒)を、

両足のようにして、

緑の芝生の上に立っている。


クリーム色の 引戸の玄関ドアが開く。


「こんにちは。幸夫さん、美果さん。

さあ、どうぞ、お待ちしておりました。

もう、みなさんも、お集まりですよ!」


満面の笑みで、森隼人がいう。


「こんにちは!」といって、

隼人の姉の留美も、

あたたかく 出迎える。


隼人は 11月で19歳、

姉の留美は 7月に21歳になったばかり。

幸夫は 9月に30歳になったばかり。

美果は 10月で25歳になる。


玄関ホールは、8畳ほどあって、広い。

フロアの正面には、スリット 階段が見える。


みんなの靴が、きれいに並んである。


靴箱の上や、床には、

日陰に強い、観葉植物の、

アイビーやアスパラガスやユッカやパキラがある。


上がり口)の、右の壁に、

高さ 2mくらいの大きな鏡があった。


床は、うすくて 明るい ベージュ(茶色)の

羊毛のような色で、

内壁は、ホワイト系だった。


森隼人は、フロア 2つ分の 大きなホールの

リビングに、

佐野幸夫と真野美果を 案内した。


「お誕生日、おめでとう!」という、みんなの大きな声と、

パン!パン!パーン!と、

無数の クラッカーの 爆発音が 鳴りひびく。


リビングは、カーテンで 日光が遮られて、

いくつもの フロア・ライトの照明と、

各テーブルの上の

ガラスの器に入れた キャンドルの明かりだけだ。


麻のオレンジ色の、テーブルクロスを 敷いた、

7卓の 四角い 4人掛けの

テーブルの上には、料理や飲み物も用意されている。


「みんな、どうもありがとう!」 と 佐野幸夫は

ちょっと 感激に声をつまらせて、いう。


「ありがとうございます」 と 真野美果もいう。


どこに、だれがいるのか、明かりが

薄暗いので、よくわからなかったが、

すぐに 目も 慣れた。


「こんなすばらしい誕生日をしてもらえるなんて、

生まれて初めてで、感激しています!」


と佐野幸夫は、まためずらしく、声をつまらせる。



「夢を見ているように、ロマンチック(romantic)で、

涙が出ちゃいそうです」


真野美果は、そういいながら、ハンカチで目をおさえた。


「きょうは、わたし、幸夫さんが大好きだというので、

キッシュをつくったんです!

キノコとホウレンソウとアスパラガスとポテトを入れて、

生クリームやベーコンもたっぷりの!」


ほほえんで、そういうのは、森隼人の姉の留美である。


「ありがとう、留美ちゃん。おれの好きなものまで、

特別に、作ってくれるなんて、

おれの忘れることのできない誕生日になりますよ!」


キッシュは、フランス・ロレーヌ地方に伝わる郷土料理で、

サクサクの、パイの生地に、

生クリームと卵でつくる生地を、流しこみ、

それに、季節の野菜やベーコン、魚介類などの、

好みの具を加え、

オーブンで、じっくり、焼きあげたもので、

生地ごと、三角形に切って、皿に盛る。


ひとしきり、大感激の、幸夫と美果を、

森隼人が、テーブルの席に 案内する。


森隼人は、みんなにむかって、一礼すると、挨拶をはじめた。


「みなさま、お忙しいなかを、

本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまより、佐野幸夫さん、真野美果さんの

誕生パーティーを開きたいと思います。

司会は、僭越ではございますが、いいだしっぺの、

森隼人が、務めさせていただいきます。

誕生日は、

どなたにも、年に、1回は訪れるものでして、

毎年、1つ歳とることは、いやな感じもありますが、

この世に生まれてきたことを、

みんなで、おたがいに、お祝いしましょうという、

誠に、

心あたたまる、すばらしい人生のフェスティバル

(祝祭)だと思います。

本日は、心ゆくまで、楽しんでいただきたいと思いまして、

生ビールやワインなどの、お飲み物や、

お料理も、ご用意させていただきました。

ぜひとも、この貴重な、お時間を

明日への英気といいますか、元気のもとに、

したいただければと思います!」


みんなから、拍手がわきおこる。


パーティーの参加者は、都合がつかなくて、

不参加といっていた人も、参加できて、

20人以上が集まった。

すべて、恋愛進行中という、カップルであった。


森隼人と交際中の、山沢美紗や、

森川純と 菊山香織、

川口信也と 大沢詩織、

岡林明と 山下尚美、

高田翔太と 森田麻由美、

清原美樹と 松下陽斗、

小川真央と 野口翼、

矢野拓海と 水島麻衣、

平沢奈美と 上田優斗、

岡昇と 南野美菜、

谷村将也と 南野美穂、

北沢奏人と 天野陽菜。


「えええ!? よく考えると、カップルの、ご両人ばかり

だよね、みなさん。おれもだけど。あっはっは」


と 大声で、わらったのは、早くも、生ビールで ほろ酔いの、

谷村将也であった。


「まあ、これもまた、祝福すべき出来事さ!人生なんて、

恋愛中か、失恋中か、無風状態かの、

3つの中のどれか1つなのだろうしね」


そういったのは、おいしそうに、生ビールを飲むのは、

北沢奏人だった。


奏人は、株式会社モリカワの本部で、

副統括シェフ(料理長)をしている。


奏人は、今年の12月で25歳になる。

交際中の天野陽菜は今年の2月で

22歳だった。


「おれも、今年の春ころは、まだ、無風状態だったけど」


そういって、奏人は、となりの陽菜を見て、ほほえんだ。

陽菜も、ほほえむ。


「もうひとつ、おもしろいことがあります!

お酒が飲めない人は、未成年だけで、

みんな、お酒が大好きな人たちばかりです!」


そういったのは、岡昇であった。


「そういえば、そうだな!」とかいって、みんな、わらった。


お酒が飲めない、20歳前は、

1994年12月5日生まれの岡昇と、

1994年6月3日生まれの大沢詩織と、

1994年10月2日生まれの平沢奈美の、

3人であった。


「じゃあ、岡ちゃん、詩織ちゃん、奈美ちゃん、

もし、20歳になったら、

お酒は飲みますか?」


と、酔って、いい気分の、森川純が、

そう聞いた。


「はーい、飲みます」


「だって、みなさん、お酒飲んでるときって、

ほんとうに、楽しそうなんだもの!」


「お酒飲むって、オトナの特権って感じだし!」


などと、3人は答える。


みんな、また、わらった。


「お酒は、二日酔いとかあって、リスクもあるけどね」


そういったのは、生ビールで、上機嫌の、

川口信也だった。


「なんでも、そうだけど、つい、過度に、

飲みすぎたりしてしまえば、薬も毒になるってこと

なんだよね。

オトナになっても、そんな単純なことが

コントロール(管理)できるまでには、

何年、場合によっては、何十年もかかるものなんだよ」


というのは、高田翔太だった。


「そうなんだよね、翔ちゃん、

単純なことを、理解できないで、

10年くらいを、過ごしてしまうなんて、

よくあることですよね。

それが凡人なんでしょうかね」


佐野幸夫が、となりの席の翔太に、

そう語りかけた。


「幸さんに、おれが、講釈できる

わけもないですけど、

あの楽聖のバッハが、

2、3%は才能、あとは、97%の厳しい練習で決まる、

といっているんですが、

努力の差で、違ってくるのかなって、

おれも、そんな気がするんですよ。

よく、天才は、努力する才能だとかって、いいますものね」


そんなことを翔太はいった。


「そうですね。10年間、気づかないとかって、

努力が足りないだけかもしれないですよね」と幸夫。


「おれは、努力のほかに、集中力が違うような気がします。

何かを成しとげるときの、集中力の違いが、

天才と凡人では、違うような・・・」


といったのは、矢野拓海であった。


拓海は、早瀬田大学、理工学部、3年生。

ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の幹事長で、

音楽家 モーツァルトを、尊敬している。


「結局は、どれほど、それが好きかということに

なるのかもしれないなあ」


つぶやくように、佐野幸夫がそういうと、

その話を聞いていた、みんなは「そうだね」とか

「うんうん」とかいって、賛同する。


「なんか、男の人って、むずかしいお話が、

お好きよね。

ねえ、幸夫さん、

キッシュのお味は、いかがでしょうか?」


森留美が、佐野幸夫のそばに来て、

そう聞いた。


「あ、留美さん、ほんとうにありがとうございます。

キッシュは、おれ大好きでして、

こんなにおいしい、キッシュは初めてです。

もう最高です。

さっきから、もう感激してばかりです」


「よかったわ!わたしも うれしいです。

料理って、おいしいとか、よろこんでいただければ、

それだけで、つくって、よかったって、いつも思うんです」


幸夫と留美の、笑顔でかわす 会話を聞きながら、

森川純が、

となりの席の森隼人に、話しかけた。


「隼人さん、お姉さんの留美さんは、

美容師の免許を、ストレートで、

取得されたそうですね。

あらためて、おめでとうございます」


「ありがとうございます。純さん」


「フォレスト(Forest)の、美容院の事業の、

全国展開する計画は、

順調に進んでいるんですか?」


「ええ、順調にいってます」


「これからの時代は、事業の業態の多角化は、

必要不可欠かもしれませんからね。

うちの、モリカワでも、業態は、常に、

広く、やっていこうという戦略なんです」


「なんというのでしょうか。この競争社会では、

業績の横這いとか、

売り上げや利益に、変動のない状態が続くことだけでも、

企業の衰退ということになってしまいますからね。

まるで、際限のない、

利益の追求をしていかなくちゃならないのって、

どうかしているとは思うんですけど。

まあ、利益追求のこともあって、

業態の多角化は、必然的になるんでしょうかね。

まあ、留美ちゃんが、

美容院の全国展開をしたいという夢もあるんですが、

そんなわけで、計画を実施しているんです」


「あの、ドラッカーも、利益は企業の目的ではなく、

存続の条件であり、

明日、もっとよい事業をするための条件だと

いっていますよね。

しかし、実際には、条件とされるほうが、

目的とされるよりも、きついわけですよ。

また、ドラッカーは、『たとえ、天使が、社長になっても、

利益には、関心をもたざるをえない」とも

いったりしていますよね」


「なるほど、ドラッカーのいう通りかもしれませんね。

幸い、うちのフォレストと、モリカワさんでは、

企業の目的という点で、共感をもちあえていて、

社長同士の交流も、純さんとおれとの

親睦などもあって、

場合によっては、共同戦線をはろうというところまでの、

意見の交流もしていると思うのですが・・・」


「そのとおりだよね。森ちゃん、これからも、

よろしく頼むよ。

この弱肉強食の社会、格差の広がる社会、

どこか、ゆがんだ、社会を、なんとか修正して、

なんとか、暮らしやすい、理想的な世の中を、

つくっていこうという、目的では、

社長たちを、はじめとして、

おたがいに、一致しているんだから、

こんな心強い、同志の企業の仲間も、

なかなか、ないものですよ」


「純さん、こちらこそ、よろしくお願いします。

そうですよね。同志のようなものですよね。

幕末の薩長同盟みたいなものでしょうかね!」


森隼人がそういうと、森川純と、ふたりで、わらった。


森留美が、キッチンから、留美がつくった

バースデイ・ケーキを運んで来る。


イチゴが、たくさん盛られている、

生クリームのケーキで、

ホワイトチョコレートの板には、

『幸夫さん&美果さん、

お誕生日おめでとう!』と書かれてあった。


「わあ、かわいいケーキ!」


「留美さんが、つくったの?すごい」


そういいながら、女性たち、13人全員が、

ケーキのまわりに、集まった。


森留美、山沢美紗、

菊山香織、大沢詩織、

山下尚美、森田麻由美、

清原美樹、小川真央、

水島麻衣、平沢奈美、

南野美菜、南野美穂、

天野陽菜。


いったん、カーテンを開けて、フロアを明るくすると、

ケーキを切る前に、記念写真を、みんなで撮った。


そのあとは、流していた BGMを止めて、

各自が、持ち寄っていた楽器とかで、

気軽な演奏や、歌で盛りあがった。

そして、パーティーは、8時ころに、終わった。


≪つづく≫  ーーー 20話 おわり ーーー

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