第18話 サザンオールスターズ・祭り

8月23日、金曜日の午後の5時半ころ。


定時で仕事を終えた、森川純と、

森川学のふたりは、下北沢のモリカワの、

本社の近くの、小さなバーに、立ち寄った。


ルイーズ(Louise)というフランス語の名前の店で、

下北沢駅南口から、歩いて3分の、おしゃれなバーである。

カウンターと、四角いテーブルで、

客席数は26席あり、女性がひとりでも安心して、

利用できた。ただし、店内は禁煙であった。


バーテンダーは、ふたりいて、ひとりは、カクテル・コンクールで、

何度も優勝している。ふたりとも、

会話の上手な、イケメンで、女性に人気がある。


カウンターは、厚く、重みがあり、

店内のインテリアも、

流れるBGMも、

しずかに、落ち着いた、大人の雰囲気である。


「おれ、マルガリータをください」と、森川学は、

馴染のバーテンダーにいう。


「おれも、マルガリータをください」と、森川純。


マルガリータは、テキーラがベースのカクテルで、

中南米のラテンなイメージ。

さっぱりした酸味で、飲みやすい。グラスのふちには、

一周するように、塩がついている。


「まっちゃん。グレイス・ガールズ(GRACE GIRLS)の、

メジャー・デビューのことですが、

進捗状況は、順調で、

オリジナル作品も、15曲は、揃いましたよ。

これで、アルバム制作に入れます」


カウンターに座る、森川純が、

となりの森川学に、

ホッチキスで、左上が、閉じてある、

グレイス・ガールズに関する、

A4サイズの数枚の書類を、差し出した。


「どれどれ、彼女たちは、いつ見ても、

美女揃いだよね。

ビジュアル(視覚的)も、抜群だし、

技術的にも、水準は高い・・・。

大沢詩織や、

清原美樹や、

メンバー全員、

ポップスによく合う、いい歌声を持っているよ。

それに、

清原美樹や大沢詩織の声は、

ポップスに向いているというか、1度聴いたら、

忘れられない、いいものがあるよね・・・。

あとは、まあ、

オリジナリティ(独創性)、

アイデンティティー(主体性)、

ポピュラリティー(大衆性)が、

どうか?ってところかな。純ちゃん」


森川学は、1970年12月7日生まれの42歳、

森川純の父の、森川誠の弟であり、

叔父である。

気ままな、独身生活を、楽しむタイプでもあった。

イケメンで、クルマは、フォルクス・ワーゲン、

夜遊びが好きな、おしゃれな中年男性である。

愛称は、

学からとった、まっちゃん、で、みんなは、

気軽にそう呼んでいる。

社内でも、話のわかる上司として、人気がある、

モリカワの副社長である。


「グレイス・ガールズは、まだ、早瀬田の学生さんだし、

着実に、こつこつと、モリカワで、バックアップして、

育成してあげれば、

近いうち、ヒットも、飛ばせるかもしれないよね。

しかし、なにしろ、

最近、女の子ばかりの、ガールズバンドの数も、

多いからね。

オリジナリティ(独創性)を、どのように、

出してゆけるかが、勝負かな?」


「そうですよね。オリジナリティですよね。まっちゃん。

おれたちの、クラッシュ・ビート(Crash Beat)

にもいえることなんですけど・・・」


「そうそう、君たちのクラッシュ・ビートも、そろそろ、

メジャー・デビューをしてみたらいいじゃないの?

モリカワ・ミュージックでは、

真剣に、夢を追いたいという、アーティストを、

支援するシステムが、しっかりとあるんだから。

クラッシュ・ビートも、そろそろ、

ファーストアルバム、作って、

メジャー・デビューしようじゃないの?」


「実は、その予定でいます。おれたちの音楽を、

どのように、クリエイト(創造)するか、

どのような、ポリシー(自己哲学)を持っていくかとか、

よく、メンバーの4人で、酒飲みながら、語りあってますよ。

夢を追いたい、アーティストのための、

支援や、

サービスや保障が受けられる、システム(制度)を、

整備している、

モリカワ・ミュージックを、世間に知ってもらうためにも、

おれたちも、がんばらないとって、メンバー、

よく話しているんです。まっちゃん、あっはっは」


「そうなんだ。モリカワ・ミュージックの、アーティストの

支援制度は、良心的というか、画期的だからなあ。

良ちゃんが、熱心に、中心になって、

アーティスト支援のシステムを、

立ち上げたんだからね。彼も立派なものだ。

とかく、世間じゃ、

夢を追う、若者たちを、支援するように見せておいて、

食い物にしている、詐欺みたいな会社があるからね。

おれも、

クラッシュ・ビートには、期待しているよ。

まあ、そうなんだよな。

ポリシー(自己哲学)を、考えたりと、

自分の生き方とかを問うのも、本来の、ロックの姿

ともいえるんだよね。

そんな意味では、ロックは、ポップスとは、

本来は、相反するような、音楽だったね。

1950年ころのロックは、

働いても、働いても、生活が楽にならない、

そんな、若い労働者たちの、

怒りを、託した、音楽ようだからね。

そして、

ポップスというのは、エンターテイメント(娯楽性)の高い、

音楽で、流行歌のことですものね。

しかし、

音楽とは、楽しむべきものであるから、自然な流れとして、

結局、

大衆受けする、ポップ・ロックというのも、

いいんじゃないのかな。

たぶん、ビートルズも、サザンオールスターズも、

ロックとポップスのバランス(調和)の絶妙

にいい、

ポップ・ロックの代表的なロック・バンドだろうしね。

あっはっは」


「そういえば、復活した、サザンも、

新曲では『ピースとハイライト』では、

ポップミュージックの原点やあり方として、

現実の社会の、憂いや、

平和的な方向に向かってほしい願いを、

テーマ(話題)やメッセージにしたらしいんですよ。

NHKの特集で、桑田さんが語ってましたけど」


「サザンは、デビューして、30年以上だけど、

ポリシー(自己哲学)も、ぶれないバンドだよね。

明日の、サザン祭りは、成功させましょう!純ちゃん」


「はい、。まっちゃん。みんなで、盛り上げて、成功させます」


8月24日の土曜日。

特別ライブ、サザンオールスターズ・祭りが、

下北沢駅、南口から、歩いて3分くらいの、

ライブ・レストラン・ビートで、6時30分の開演で行われた。


1階フロア、2階フロア、あわせて、280席は、満席。

チケット(入場券)は、

すべて、ソールド・アウト(完売)であった。


「サザンオールスターズ祭り、これより、開催いたします!

今夜は、ライブ・レストラン・ビートへ、お越しいただいて、

ありがとうございます。いやーあ、超満席です。

ほんとうに、ありがとうございます!

これも、サザンの人気の証明ですよね。

きょう、ご出演の、豪華な、ミュージシャンの、

みなさんの人気も、もちろん、ありますよね?

わたくし、佐野幸夫を、一目見ようと、

お越しくださっている、お客さまも、

いらっしゃる気がしますが。

あ、そこの、手を振ってくださっている、お客さま!

そうですか、ありがとうございます。

佐野幸夫、生まれてれてきてよかったと、

今夜は、つくづくと、身に染みて、感じております!」


長身で、軽快で、おもしろい、MC(進行)の、

司会の店長、佐野幸夫の、トーク(おしゃべり)も、

全開、絶好調であった。


サザン祭りには、早瀬田大学の音楽サークル、

ミュージック・ファン・クラブ(通称・MFC)の部員、

男子30人、女子38人、あわせて68人の全員が、参加した。


大人数の大学生の参加による、舞台の、ポップダンスや、

コーラス(大合唱)などは、

華やかさや楽しさに、溢れた。


艶やかな、若い女の子ばかりの、

グレイス・ガールズの

『わたしはピアノ』と『夏をあきらめて』の

歌と演奏に、会場は、酔いしれた。


クラッシュ・ビートは、『BOHBO No.5』と

『チャコの海岸物語』、

スリーピース・バンドのオプチミズムは、

『ミズ・ブランニュー・デイ』などを、演奏し、歌った。


モリカワ・ミュージックに所属の、

ポップス・シンガー、白石愛美と、

ピアニストの松下陽斗は、

『そんなヒロシに騙されて』と、

『真夏の果実』を、

ピアノの弾き語りで、歌って、観衆を魅了した。


アンコール曲は、『いとしのエリー』だった。

会場は、総立ちで、みんなで、大合唱となった。


観衆も、気がつかない程度の、演奏などのミスもあった。

しかし、

サザンオールスターズ祭りの、ライブ演奏、全26曲は、

圧倒的な

パフォーマンス(芸術表現)で、

会場は、最後まで、熱い、2時間30分を過ごした。


≪つづく≫ 

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