第15話 カフェ・ド・フローラ

まだまだ、暑い日が続く、

7月27日の土曜日であった。


時刻は正午ころ。


新宿駅・東口近くに、

カフェ・ド・フローラ(Cafe de Flora)という名前の、

総席数、170席の、カフェ・バーがある。


その店に、早瀬田大学の、

ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の学生と、

OB(先輩)の、クラッシュ・ビート(Crash・Beat)の、

森川純や川口信也たちが、集まっている。


きのうの、7月26日、金曜日に、午前11時のスタートで、

MFC、恒例の前期・定例ライブが、

ライブ・レストラン・ビート(通称・LRB)で行われた。


そのライブハウスは、森川純たちの勤める、

株式会社・モリカワが全国展開している、

その中のひとつ、高田馬場店だった。


LRB・高田馬場店は、高田馬場駅から、徒歩で、

3分くらいの場所であった。


高田馬場駅は、東京都新宿区高田馬場1丁目にあり、

JR東日本の山手線・西武鉄道・東京地下鉄(東京メトロ)の駅である。


その駅前は、早瀬田大学に通じる早瀬田通りである。

早瀬田通り沿いは、学生向けの飲食店や、

古本屋などが多く立地する、学生の街であった。


昨日、森川純が、MFCの前期・定例ライブの開催中に、

MFCの部員の全員を、カフェ・ド・フローラに、招待したのであった。


森川純たち、クラッシュ・ビートも、定例ライブで、

オリジナルの新曲『あなたなしではどうしてよいかわからない』

や、ビートルズを数曲、演奏した。


結成したばかりの、ザ・グレイス・ガールズも、

テネシー・ワルツや、オリジナルの『愛を信じて生きてゆく

(I believe love and live)』などを演奏した。


ほかの部員たちの、ロック、ジャズ、ソウル、ファンクなどの、

臨時のバンドの、セッション(session)があったり、

メンバーも決まって、固定している、バンドの演奏などで、

熱気にあふれたまま、前期・定例ライブは盛りあがった。


そのライブの、無事の終了を祝う、

宴ともいえる、

打ち上げ(うちあげ)が、カフェ・ド・フローラで、

始まっているところであった。


カフェ・ド・フローラは、

料理店と喫茶店とバーを複合させたような、総合飲食店であった。

株式会社・モリカワが、

2013年1月に、オープンさせた店だった。

今年中には、新宿西口店もオープンさせる計画をしている。


オープンと同時に、店は、女性に、圧倒的な支持を受けていた。

そして、女性が集まる店として、男性にも人気がある。


店の名前の「フローラ」には、

ローマ神話の中の、花と豊穣と、春の女神、

という意味が含まれている。


そんなイメージにふさわしく、店内は、あかるい華やかさや、

清潔感で、居心地の良い店だった。


リーズナブル(手ごろ)な価格の料理や飲み物も、おいしかった。


さらに、客の評判なのは、てきぱきと、

テーブルのサービス(もてなし)をする、

スタッフ(担当者)の、美しい服装や、

身のこなしなどであった。


スタッフは、ウェイターとウェイトレス、

若い男女による給仕たちであった。


たくさんの料理の皿が、置いてある、

ゆったりとした、ひろさの、

円形のテーブルの間を、

黒と白の、モノトーンの、美しい服装の、

ウェイトレスやウェイターが、すらすらと滞りなく、

流れるような優雅さで、動いてゆく。


ウェイトレスの、ふわっとした、ロングスカートや、

胸元が大きくあいている、白いエプロンが、かわいい。


ウェイターは、白いシャツ、黒のパンツが、

きりっと、ひきしまって、見える。


どちらも、ノー・ネクタイの、

清楚な美しい、コスチューム(服装)であった。


丸いテーブルには、12席と、4席との、2種類の大きさがあった。

どちらのテーブルも、

見ず知らずの客が、隣同士となっても、

気を使うこともなく、くつろげる、ゆったりとした、ひろさである。


そのスタッフたちの給料は、

固定している基本給に、さらにプラスの、

担当するテーブルの、売り上げの10%、

という、働く意欲のわくような、システム(制度)だった。


「このお店は、フランスによくある、カフェのような、

雰囲気ですよね。純さん」


サークルの幹事長、大学3年、21歳の矢野拓海が、

隣の席の、23歳の、森川純にそういって、微笑んだ。


「さすが、拓ちゃん。

この店は、フランスのパリにある、有名なカフェの、

カフェ・ド・フロールを、モデルにしているんですよ。


お店のスタッフも、お客さまも、ある意味、

人生という劇場の、スターであったり、演技者であったりする。

という発想が、そのカフェ・ド・フロール(Cafe de Flore)にはあるんですよ。


フランスのパリの、サンジェルマンデプレ大通りにある、

140年以上も続いている、老舗のカフェなんです。


おれって、資料でしか、そのお店のこと知らないから、

小遣いがたまったら、ぜひ、行くつもりなんですけどね。はははっ。


そのお店の、そんなコンセプト(基本的な考え)には、

おれたちも大賛成なんです。

人生って、何かを演じているともいえるわけで、

幕が下りるまでは、そんな人生の舞台で、名演をしている、

役者なのかもしれませんしね。あっはっはっ。

誰だって、少しでも、ましな、役を演じたいじゃないですか!?

あっはっはっ。


同じ店の名前では、ちょっと、なんなんで、

カフェ・ド・フローラ (Cafe de Flora)に、ちょっと、変えて、

いまのところ、大都市が中心ですけど、

全国に展開中なんです。

フローラも、フロールも、意味は、ほぼ同じですけどね。

あっはっは。


多くの芸術家に愛されたそのカフェの常連には、

画家のピカソとか、哲学者のサルトルとか、

ボーヴォワールとかが、いたそうです。


芸術や文化や政治とか、何でも気軽に語りあえるような・・・、

恋人たちが、愛を語りあうのは、もちろんですけどね、はっはっ。


そんな、コミュニケーション(心のふれ合い)の、

社交場の、カフェを、モリカワでは、

日本中に展開したいんですよ」


森川純は、矢野拓海と、右隣に座っている、

菊山香織に、

言葉を確かめながら、力説すると、わらった。

そして、森川は、目を細めて、生ビールに、おいしそうに、口をつけた。


「へーえ、森川さんの会社って、革命的なことをやっている感じですよね。

売上金の1部を、寄付したり、チャリティー活動も、

いつも、やっているし」と、矢野拓海。


「わたしも、感動しちゃうわ。チャリティーとか、

いまの純さんの、お話に・・・」と菊山香織。


「会社って、もうけるばかりでは、存続はできないですよ。

富があれば、

それは再分配しなければいけませんよ。はっはっは。

それと、

おれらのやっていることは、バンド活動と同じようなものですよ。

みんなの力を、結集すれば、

ビートルズのように、世界を変えられると思うんだ。

ある程度だろうけどね・・・。

何もしないでいるよりは、まだ、ましさ・・・」


「ねえ、香織ちゃん・・・。

このテーブルクロスはね。ちょっと、普通と違うんだよ。

コットン(木綿・もめん)で、

温かみもあるけど、

耐久性も抜群なんだ。

それに、

特殊加工がしてあって、

どんなものを、こぼしても、シミがつかないんだ。


クロスには、絶対に、染みこまない、ってわけなんですよ。

コーヒーでも、ビールでも、何でも・・・」


森川純は、香織の耳もと近くで、親しそうに、そう、ささやいた。


「ほんと!すごすぎ!デザインも、おしゃれで、すてきだな。

薄紫というのかしら。

スミレ色の、色もすてき!光沢も美しいわ」


森川純の、そんな親しげな、様子に、

菊山香織は、

微妙な、胸の高鳴りのを感じながら、

そういって、ほほえんだ。


菊山香織は、昨日の7月26日、

20歳になったばかりの、2年生だ。


「このお店、楽しい雰囲気だから、

わたしも、ウェイトレスでも、したくなっちゃうわ」


「香織ちゃんなら、きっと、すてきな、かわいい、

ウェイトレスだよね。

いつでも、お願いしますよ。

ただ、ぼくとしては・・・、

グレイス・ガールズのドラマーとしての、香織ちゃんといいますか、

香織ちゃんの、これからの、活躍を期待しちゃうな!

きのうの香織ちゃんのドラミング、すごく、よかったよ」


「あら、純さんに、褒めていただけるなんて。

とてもうれしいわ・・・。

純さんのドラムこそ、ホントに、お上手なんですもの!」


「はははっ。これでも、おれは、初めのころは、

クラッシュ・ビートのメンバーに、ドラムがうるさい!とか、いわれて、

邪魔扱い、されてたんだよ」


といって、森川純は、陽気にわらった。


「うそでしょう!純さんのドラム、タイムを正確にキープしてるし、

あんなに神業みたいなのに、信じられないです」


「ぼくも、信じられないなあ。純さんのドラムで、

クラッシュ・ビートは、まとまっている気がしますよ」


と、ちょっと、生ビールで、紅ら顔の、矢野拓海。


「またまた、ふたりとも、ひとを持ち上げるのうまいな。

でも、ありがとう。うれしいっすよ。ほめてくれて」


と、森川純は、上機嫌に、声を出してわらった。


「香織ちゃんは、お兄さんの影響で、ドラムを始めたんだよね」

と、ビールで、ほろ酔いの矢野拓海。


「ええ、そうなんです。兄には、しっかり、手ほどきを受けました。

わたし、兄の叩く、ドラムの音というか、

シンバルの音が、なぜか、大好きだったんですよ。

シャリーンという、なんていうのか、あのスウィング(swing)感が・・・」


「そうなんだ。だから、香織ちゃんは、リズム感がいいんだなあ。

努力もあるだろうけど、もともと、きっと、リズム感がいいんだよ」


「そうなのかしら」


菊山香織と森川純と矢野拓海は、楽しそうにわらった。


「純さんも、香織ちゃんも、立ったり、座ったりの、

身のこなしが、いつも、すらっとして、

姿勢がいいのは、

きっと、ドラムをやっているせいなんでしょうね」


矢野拓海が、そういって、ふたりにほほえんだ。


「拓ちゃん、それはいえるよ。姿勢が良くないと、

ドラミングは、うまくできないからね。

さすが、MFCの幹事長だね。観察力もすごいよ」


矢野拓海は、第50代の幹事長である。

森川純は、第49代の幹事長であった。

MFCは1954年に創立の、

伝統ある早瀬田大学公認の、バンド・サークルであった。


「あと、からだの柔軟性とかね。

おれの日課も、ストレッチだもんね。

香織ちゃんも、ストレッチは、日課でしょう?

肩こりのある、ドラマーってありえないですよね」


「ええ、そのとおりです。わたし、ストレッチや

ヨガとかの、柔軟体操、大好きです」


「よし、おれも、きょうから、ストレッチに励みます!」


と、目を丸くして、矢野拓海がいう。3人はわらった。


「お兄さんが、きっと、すぐれた人なんでしょうね。

香織ちゃんのドラミングは、力まかせでなくて、

ちゃんとした、技術で、叩いていますよ。

アーム(腕・うで)じゃなくて、ハンド(手)で叩くとかの、

手の使い方も、完璧だと思うよ。

あれなら、女の子でも、疲れずに、楽に叩けるよね。

あと、ぼくが、

香織ちゃんの、すごいと思うのが、

バス・ドラムの、右足のダブルを、ちゃんと、決めていることだよね。

きのうの、ライブを見ているときも、感心していたんですよ」


同じ、ドラムスの奏者の、森川純は、

菊山香織と、語り合うことが、特別に、楽しいようであった。


右足のダブルとは、バス・ドラムを、2回連続して踏む、

ダブル奏法のことだった。

この2つ打ちは、踏みこむタイミングや、

ある程度のスピードが、要求される。


右足の動きで決まる、バス・ドラムは、視覚的にも

確認しづらいため、

プロ級の人でも、習得するのが容易ではない。


「純さんに、たくさん、褒めていただいて、とても、うれしいです」


「そうそう、きのうは、香織ちゃんの20歳の、

お誕生日だったんだよね。

あらためて、おめでとうございます」


「ありがとうございます。純さん・・・」


「香織さんも、せっかく、20歳になられたのですから、

きょうは、お酒解禁ということで、生ビールとか、いかがですか?」


「はーい。いただきます。うちの家族みんな飲めますから、

きっと、わたしも強いと思います」


アイスティーのストローに、口をつけていた、香織がそういった。


「あ、はっは。香織ちゃん、それは、たのもしい。

ぼくも、お酒は、大好きなんです。

クラッシュ・ビートのみんなも、酒とかが好きで、

それで、なんとか、なんでも、気軽に語りあえて、

まとまっているようなもんなんですよ」


森川純は、ウェイトレスを呼んで、

生ビールと、料理を、注文した。


ウェイトレスは、客の注文内容を、

ハンディという機器に、打ちこんで、

厨房に、送信する。


そんな、しっかりとした、システムがあるので、

ひとりのスタッフで、

6つくらいのテーブルはサービスできる。


カフェ・ド・フローラの店内は、お昼どきということもあって、

60人以上の、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の

部員たちや、一般の客たちで、

総席数、170席は、ほぼ、満席だった。


「香織ちゃんには、あらためて、

お祝いをしてあげないといけないな!」


「ええ、そんな、純さん。でもいいんですか?

こんな、わたしのために、20歳のお祝いなんて?!」


「男として、お祝いしてあげないと・・・。

そっ、そうだな・・・。明日の日曜日は、

おれも、とくに、予定はないし。

香織さんは、あしたは、いかがですか?

もし、お時間があれば、ぜひ、ぼくにお祝いをさせてください。

20歳って、特別なんですから。

気のあう仲間でも呼んで、パーティでもやりましょうよ!」


「いいんですか。でも、すごっく、うれしいです。

涙が出そうな感じです。

お言葉に甘えさせていただきますけど、

純さん、よろしくお願いします」


「わかりました。じゃあ、あしたの午後あたりに、

おれの馴染のお店にでも行って、パーティでもやりましょう」


そんな、ふたりの、ぴったりと、気分も合っている話を、

矢野拓海も、

純さんと、香織ちゃんなら、お似合いかも・・・と、楽しく、聞いていた。


森川純と、菊山香織、矢野拓海たちは、

12席ある、大きな円形のテーブルの席についていた。


そのテーブルには、株式会社・モリカワに勤めている、

ロックバンドのクラッシュ・ビート(Crash Beat)の、

メンバーが全員と、

グレイス・ガールズのフル・メンバーが、揃っていた。


川口信也、

高田翔太、

岡林明。


あと、岡昇と、

大沢詩織、

清原美樹、

平沢奈美、

水島麻衣。


清原美樹の右隣の椅子が、

ひとつ、空席であった。

美樹と仲のいい、小川真央が、

少し遅れて、やってくるためだった。

美樹の左隣には、仲よくなった、

ふたつ年下の、大沢詩織がいる。


「おまたせ。みなさま、遅くなりました!」と、

小川真央がやってきた。


真央が長めの黒髪を揺らして、美樹のとなりに着席すると、

まるで、きらびやかな、色とりどりの、花が、

咲き誇る、花園のように、

テーブルは、いっそう、華やいだ。


「ジブリの、いま、公開の映画、『風立ちぬ』を見た人!

手を挙げてみてください!」


生ビールに、気分もよく酔っている川口信也が、

ニコニコしながら、テーブルのみんなに聞いた。


「はーい」と、まず、1番に手を挙げたのは、

1年生、19歳の岡昇であった。


続いて、「はーい」と、3年生の清原美樹、

1年生の大沢詩織、1年生の平沢奈美が、手を挙げた。


「なるほど、12人中、5人が見たということになりますか?!

やっぱり、ジブリの映画は、人気があって、大ヒット中ですね。

『風立ちぬ』は、

おれも見て、感動しましたよ。

ラストシーンで、宮崎監督みたいに、泣いちゃいけないと、

我慢しちゃいました。

主人公たちの、人生に迷わずに、生きていく姿には、

いつも、感動したり、励ませれるものがありますよね」


「わたしは、主人公の菜穂子さんが、風に飛ばされそうになった、

二郎さんの帽子を、

すばやく、からだを伸ばして、キャッチした、場面で、

感動して、思わず、涙が出そうになりました」


平沢奈美がそういった。


「奈美ちゃんは、岡くんと、映画に行ったんでしょう。

映画見に行った人って、

よく考えてみたら、みなさん、なかよく、ふたりだけの、

デートだったわけで、うらやましいですよ!

おれも、そろそろ、デートしてくれる相手を見つけないと!」


そういって、みんなを、わらわせたのは、

幹事長で、3年生の矢野拓海であった。


「拓海さん、おれの場合は、奈美ちゃんを、

強引に、

『風立ちぬ』に、誘ったんだから、デートではないと思います」


岡昇は、生真面目に答える。


「あっはっは。そういう強引さも、デートには必要なんだよな、岡ちゃん」


と、わらって、矢野拓海がいえば、みんなも、またわらった。


「おれも、ジブリの大ファンだから、見に行きますよ。

宮崎駿監督や、

プロデューサーの鈴木 敏夫さんって、

ブログとかで、平和憲法の9条を、守ろうとかいっているじゃないですか。

徹底的な、戦争反対論を展開していて、

おれなんか、そっちの、彼らのコメントのほうに、

感動して、涙も出てきそうですよ。

ジブリのアニメにも、彼らの憲法を守ろうという考え方も、

おれなんか、深く共感しちゃうなあ・・・」


森川純が、そういって、生ビールを、おいしそうに、ゴクリと飲んだ。


「戦争って、ムードで、いつのまにか、始まっているていう感じが、

歴史をみているとあって、それって、怖いよな」


ベース・ギターが担当の、やや、ふっくら感のある、

高田翔太が、そういって、生ビールを飲む。


「戦争やって、いいことなんて、何もないよ。

それなのに、世の中から、無くいならないよな。

愚かな、戦争が・・・」


そんなふうに、みんなにむけて語る、森川純には、

心優しいリーダーのような、落ち着き(おちつき)があった。


「わたしも、ジブリのアニメは大好き。

もしかしたら、ジブリは、平和を守る、最後の砦みたいに、

なるのかもしれないわよね。日本や世界の・・・」


小川真央が、そういうと、みんなは、

「うん、うん」と、うなずくのであった。


「わたし、変なこといって、ごめんなさい!

きょうは!楽しく飲んで、騒ぎましょう!」


小川真央が、そういったら、

「真央ちゃん、ぜんぜん、変なことなんて、いってないわ!」

と、清原美樹がいう。


「うんうん、美樹さんのいうとおり、真央ちゃんは正しいこと、

いっていると思う。わたしもジブリ大好き!

平和は守らなければと思うもの」と、美樹のとなりの、大沢詩織もいう


みんなから、明るい、わらい声が、わきおこった。


「憲法9条とかにしても、宮崎監督や鈴木さんのように、

はっきりとした、自分の意見がいえる人って、すごく少ないよね。

おれも自分の意見に自信ないけど。

スタジオジブリのブログを見ていて思ったんだけど」


ちょっと、はにかむような、笑顔で、そういったのは、

クラッシュ・ビートのギターリスト、

23歳の岡林明だった。


「そうですよね。自分の意見をもたないまま、なんとなく、

ムードに流されてしまって、

世の中が、悪い方向へ向かってしまうとしたら、怖いですよね」


岡林明のとなりの水島麻衣が、岡林に、そういって、ほほえんだ。

さっきから、岡林と麻衣は、

ふたりとも、ギターリストなので、ギターの話で盛り上がっていた。


「ところで、純さん。きょうの打ち上げ、純さんのご招待ということで、

サークルのみんなを代表して、

あらためて感謝を申し上げたいのですけど、どうもありがとうございます」


サークルの幹事長らしく、矢野拓海が、

森川純に、ていねいな、一礼をする。


テーブルのみんなも「ありがとうございます」と、感謝の気持ちをこめていう。


「そんな、あらたまらなくたっていいって。

MFCが参加してくれる、

8月24日のサザンオールスターズ・祭りのチケットは、

ソールド・アウト(完売・かんばい)だし、

よく、うちのライブハウスとか、みんなも利用しくれてるから、

その、ささやかな、おれの感謝の気持ちでもあるんですから。

きょうの、ここでの、打ち上げとかは。

みんなで、サザンオールスターズ・祭りも、盛り上げようね!」


「はーい、がんばります!」とかの、女の子たちの、よろこびにあふれている、

かわいらしい声が上がった。


≪つづく≫





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