最終話 綺麗…餅って本当に綺麗(中編)
20××年 12月31日 PM22:51 駿河湾最終防衛線 仮説本部テント
「目標、鏡餅の形状で活動を停止。形状変化以降、動くそぶりを見せません」
ミサイルの直撃を受けて鏡餅へと形をかえた巨大餅柱は、それ以降動く様子が無かった。
駿河湾内に展開した戦車隊は巨大鏡餅を囲むように展開し、いつ鏡餅が動き出しても直ぐに攻撃が出来る状態で待機している。
「あれは一体なんなのだね?」
仮説本部のテント内では緊急の会議が行われており、鏡餅へと変化した巨大餅柱をこれからどうするか話し合っていた。
「主な成分は餅です」
「それは見れば分かる!!」
隊長の問いに補佐官は冷製に答える。が、それは隊長の求めた答えでは無かった。
ここに集まったのは前線指揮官である隊長と、補佐官と、静岡県知事と、いっぴーと、そして能美子の五人だった。
そんな中、能美子が一つの予想を語る。
「あれは、多分…私の姉と、その旦那の尾庄克朗なのだと思います」
「姉?君のお姉さんは尾庄克朗と結婚していたのか」
「はい。ただ、私が小学生の頃に姉は家を出てしまっていて、尾庄さんと結婚していたのを知ったのは最近でした。…………去年、姉の葬儀を行うと尾庄さんから連絡があったので」
「お姉さんは既に亡くなられている?ならばあれがお姉さんだというのはいったい……」
「これを見て下さい」
能美子は懐からペ○ーくんを取り出した。
あの時、攻撃的餅柱から出てきたペッ○ーくんだ。
あの後、秘密裏にペッ○ーくんを回収した能美子は、ソフトバ○クに頼んでデータの解析をお願いしていたのだ。
そして、ペッ○ーくんが録画していたあの研究所で起きた出来事を、ペッ○ーくんの胸元のパネルで再生し始めた。
『これで、また君に会える!これが神様からのクリスマスプレゼントだ!!』
そこに映っていたのは、あの日の尾庄克朗の行動の全て。
「尾庄さんは餅と人を掛け合わせた新しい生命体を作り、それで世界を支配しようとしているのではないかと思われていましたが、それはきっと計画の一部であって目的ではありません。
本当の目的は、死んでしまったおねえちゃんを生き返らせ、一つになりたいと思っていたんです。そして、地球を自分とおねえちゃんで埋め尽くし、この星を二人だけの愛の星にしたかったんです」
「なんというダイナミックラブ……」
遺伝学の権威だった尾庄克朗。
彼は、愛に生きる人間の一人だったのだ。
「だが、二人の愛のためにこの星の全てを犠牲にするというのは黙って見ていることは出来ない。この星は二人の物では無く、みんなの物なのだ」
「そうです。僕も愛に生きる戦士だから気持ちは分かりますが、だからと言って他人の愛を奪ってしまってはいけない」
知事といっぴーは能美子の説明を聞き、尾庄克朗という男の愛の深さに共感をした。
だが、愛とは自分たちだけがよければいいという物ではない。愛があれば他は何もいらないというのはお話の中だけなのだ。
「理由は分かった。だが、あれはどうするのだ?そもそも、あのままで問題は無いのか?」
いい話だなと感動している三人に向かって、隊長が現実を突きつける。
隊長からすれば理由などどうでもいいのだ。この国を守るために行動する。そこに相手の理由など関係無い。これもまた愛だ。
「なんとも言えません。尾庄さんの研究レポートには新しい生命体が誕生してからの事は書いて無くて……。彼にとっても、今の状態は予想外なのかも知れません」
「ならばどうするのだ。あのままあれをあそこに起きっぱなしにはできん。いつまた動き出すか分からんのなら尚更だ」
隊長の言うことは尤もである。
このまま巨大鏡餅が動かないというのなら静岡に富士山に次ぐ(山梨県民には悪いが、あれは静岡県の観光名所だ)新しい観光名所が産まれるだけで済むのだが、活動を再開すればすぐそこが駿河湾なので次は止めるのが間に合わないかもしれない。
ちなみに、あの鏡餅形態になってから表皮の硬さは硬芯徹甲弾でも傷が付かないほど硬くなっている。
「私が……あの中のおねえちゃんを説得します」
「君が?どうやって?」
「いっぴーくんに手伝って貰えば、もしかしたら」
「え、僕?」
能美子がいっぴーの名前を呼んだことで、全員の顔がいっぴーに向く。
「ええ、いっぴーくんにならきっと…ううん、いっぴーくんなら必ず出来ると思う。だから…」
「いいよ。僕に出来ることならなんだってするさ。それが能美子ちゃんのためになるのなら」
「ふふ、ありがとういっぴーくん。いっぴーくんのそういう所、好きよ」
「え、ええ?好き?好きだって!!?そ、そんな!ぼぼぼ、僕も好き!!!」
「いちゃつくのは仕事が終わってからにしてくれんか?」
いい雰囲気になった二人だったが、隊長によるインターセプトでこの場の幕は閉じた。
そして、能美子といっぴーによる、餅柱を巡る最後の作戦が始まる。
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