最終話 綺麗…餅って本当に綺麗(前編)
20××年 12月31日 PM20:48 駿河湾最終防衛線
「本当にこの場所でいいんだろうな?」
「はい、僕は地質調査のアルバイトもしていたので大丈夫です」
ここは駿河湾に構築された対餅柱用の防衛線の前線指揮車両。
いっぴーは攻撃的餅柱を撃破した実力を買われ、臨時に内閣調査室の職員になり、その技術と伝手を使用して餅柱が駿河湾に辿り着くルートを調査していた。
フリーターから念願の公務員になれた事で親や親戚に報告したかったのだが、政府から『秘密にしてネ☆』と言われたので、今年も親戚中からフリーターである事をつつかれるだろう。
未だに就職して無いからとお年玉をくれる曾お婆さんにはとても申し訳ないが、これも地球を救うためだといっぴーは割り切っていた。
「解析の結果では目標は富士樹海から最短の距離で駿河湾へ向かうよう動いています。この辺りの地下水路を全て調べたというのなら、やはりこのルートが最も可能性が高いでしょう」
ポンと現れた若造の言う事を全く信じていない隊長だが、補佐官のその補足で無理矢理に自分を納得させる。
元々、餅が意思を持って動いているというだけでも信じれるわけが無いのに、その餅と戦ったのがこの男と言われても何のファンタジーかと思えてしまう。
仮想敵国の新兵器が攻撃を仕掛けてきたというほうがまだ信じられる。
そもそも、餅に対してこれだけの戦力を用意するのはおかしいのではないか。
たかが餅だろ?
海苔で巻いて食ってしまえばいいではないか。
そう思いながらも、自分は組織の歯車のひとつなので上が決定したことには従わなくてはならない。隊長である自分が勝手な事をするのは他に示しがつかない。と、きちんと防衛線の構築は行った。
このままこれが無駄になってくれればいい。
このバカっぽい奴の狂言で終わってくれればいい。
半ば願うように思いながら、予想されている餅柱の進路の方角を見る。
駿河湾からは富士山が見えるはずだが、既に日が落ちているためその姿は見えない。
この国の象徴であり、太古の信仰が生きる山。富士山。
それは見るものを圧倒する存在感だ。
大きいというのはそれだけで力がある。
小さきものを圧倒する、大きな力が。
ズモモモモーーーーーン!!!!!!
「現れました!目標です!!」
補佐官の言葉を受け、駿河湾から目標の予測地点を見る。
大きい。
とてつもなく大きい。
なんだこの大きさは。報告されていた物の10倍はある。
こんな物が存在するのか。
これは一体、なんなのだ……
月を背にそびえ立つは、全長100mを越えるであろう白き餅の柱。
今ここに、人類の存続を賭けた作戦が始まる。
「撃てーーーー!!!!」
ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン
湾内に並んだ戦車から、一斉に砲弾が飛ぶ。
敵の戦力が未知数なため、まずは戦車隊からの砲撃で様子を見る。
これでダメージを受けるようならこのまま砲撃を続け、ここの戦力だけで撃破する予定だ。
しかし
ズモーーン!!! モーーン!!!
目標健在。
戦車から放たれた砲弾は巨大餅柱の表面に当たると、そのまま中に取り込まれた。
「弾頭変更!硬芯徹甲弾を使い狙いを集中させろ!!」
「はっ!!」
粘着質の餅に対して通常徹甲弾では効果が無いと分かると、隊長はすぐさま貫通力の高い弾頭を使うよう指示をする。
「全車装填終わりました!」
「よろしい!撃て!!!」
ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン ドォン
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
風を貫き、 音速を超えて巨大餅柱へと飛ぶ硬芯徹甲弾。
狙いは巨大餅柱の中心の一点に絞り、その防御力を計る。
ブッチィ!!!!
「割れた!!有効を確認!!!次弾を装填しろ!!!」
集中して当たった硬芯徹甲弾は巨大餅柱の真ん中に穴を開け、巨大餅柱はそこから真横に裂け、ゴムが千切れるような音を駿河湾にこだまさせた。
いける、大きくてもたかが餅だ。こうして徐々に破壊していけばいい。
隊長はそう確信し、同じ攻撃を今度はやや下当たり目掛けて撃つよう指示を出す。
だが、それで終わる巨大餅柱ではなかった。
ズモンモンモンモモン!!!!
「ば、馬鹿な!!?くっついただと!!?」
巨大餅柱は一度千切れた体が地面に落ちる前に引き寄せ、くっつけて結合したのだ。
流石は餅。柔らかさを保っている時はくっつきやすい。
だが、一度はその体を千切ることが出来たのだ。全く聞いていないという訳では無い。
「目標!結合の際にはじけ飛んだ分の体積は再生出来ない模様です!!」
「よし、効果はあるぞ!同じ箇所を狙い続けろ!!続けて周辺基地へ弾道弾の要請!!あいつは火力で押し切れる!!」
効果はあっても戦車砲では知命打を与えることが出来ないと判断した隊長は、周辺の自衛隊基地で待機している弾道ミサイルの要請を送る。
国内にミサイルを撃つことは出来ればしたくなかったのだが、あの再生を見るからにここにある戦力だけでは駿河湾に辿り着く前に倒すのは不可能と判断したのだ。
要請は直ぐさま伝達され、前線からの観測を元に弾道ミサイルが発射される。
シュゥゥゥゥゥゥゥシィィィィィィィィィィィィィィ
夜空を切り裂く流れ星のように飛ぶ弾道ミサイル。
結合後、全く動くそぶりを見せない巨大餅柱は、飛んでくるミサイルをそのまま受け入れ…
ドゴォォォォーーーーン!!!!
直撃し、爆発した。
「良し、命中!確認を急げ!!」
ミサイルの着弾地点からもうもう煙があがり、巨大餅柱は大きく揺れる。
ボト ボトボトボトボトボト
そして、巨大餅柱の周辺には、爆発で飛び散った餅が降り注ぐ。
「煙が晴れます。………目標、健在!あ、いや、しかし、これは!!?」
「どうした!目標は健在なのか!?」
「も、目標、形状を変化させています!」
「なに!?どういう事だ?」
「わ、分かりません!!」
補佐官は手元のコンソールから得られる情報を元に隊長へと報告を続けるのだが、その数値が示す内容を自分でも信じることが出来なかった。
ミサイル着弾の爆発の煙が晴れたそこには
「鏡餅です!!」
巨大餅柱が鏡餅へと形を変えていた。
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