第3話 あたし、あの餅きらいなのよね

20××年 12月24日 PM0:38 静岡県庁災害対策本部



「なんだと!あれは餅だと言うのか!?」


今朝に起きた駅前の謎の白い物体噴出事件から約2時間。静岡県はその迅速な災害対策能力を遺憾なく発揮し、早速、災害対策本部を設置していた。

そしてすぐさま現場に残されたぱりぱりした表皮を解析し、その分析結果を知事に報告したのだ。


「はい。回収したあの白い物体は木や土や下水の成分が混じっていましたが、その大部分は駿東郡小山町で作られたもち米の峰の雪もちと判明しました」

「じゃあなんだ!誰かが下水で餅つきパーティーでもしていたというのか!!」


餅による災害というわけの分からなさに憤慨する知事。

それもそうだろう。

餅と言えば毎年お年寄りや子供を中心に新年そうそう死亡事故を起こす最もたる要因だが(ここ第一話の伏線)、あのような巨大な塊となって街を襲うなど見た事も聞いた事も無い。

しかし、だからと言ってここで思考停止をしてしまえば災害対策日本一を誇る静岡を納める者としての名が廃る。

静岡は東海大地震が起きるだろうと言われている駿河トラフと、未だ活火山である富士山に挟まれた土地なのだ。

言わば、『前門のトラフ、後門の大神おおかみ』。

どちらかが発生すればもう片方も連鎖的に発生して、静岡県は大打撃を受けると予想されている。

彼はそんな静岡を守るために知事になった。だからこそ、この災害も的確に対処して静岡の民に静岡は万全だという事を証明しなくてはならない。


「それで、その餅はどうなったんだ!」


静岡のため、自分が育った県のため、熱くなる知事。

しかし、報告者はそのちんちんな(非常に熱くなっているという意味)知事を冷やすような言葉を返す。


「申し訳ありません。調査中です」


調査中。そう、分からないのだ。

あの時、表皮が乾くことでぱりぱりになるのを恐れたのか、餅は下水へと帰り、そこから行方をくらませた。

勿論下水の中へと降りて調査を行ったが、あの餅が噴出した範囲は広く、痕跡が残っている部分が多すぎるため、どこから来たのか、どこへ行ったのか断定できないのだ。


「調査中だと!いい、それなら私も現地へ入る!!もう危険は無いのだろう!!」


その報告を聞いた知事はちんちん(非常に熱くなっているという意味)になっている頭をさらにちんちん(非常に熱くなっているという意味)にして立ち上がり(卑猥な意味ではない)、災害対策本部を出ようとする。

周りの職員は慌ててそれを止めようとするが、ちんちん(非常に熱くなっているという意味)な知事は近寄りがたく、腫れ物を扱うかのように静止の声をかけるだけだ。


「待ってください!一つ、候補があります!!」


と、そんな中、一人の女性が声を挙げる。

緒持能美子だ。

彼女は県庁の事務で働くパートであり、緊急時という事で急遽出勤になり、この対策本部でお茶出し係りをしていたのだ。

つまり、いっぴーとのデートはおじゃんだ。かわいそうないっぴー。


「君はただの事務ではないのか?何か分かることがあるのか?」

「はい。先ほど言っていた駿東郡小山町で作られた峰の雪もちですが、あれだけ大きな餅でしたらそのもち米も大量に使われているはずです」

「なるほど!しかし、それだけでは圏内全ての米屋を調べなくてはならないぞ」

「ええ、でも私、仕事中の書類で見たんです。小山町に大量にふるさと納税をして、大量のもち米を入手した人物を。彼は遺伝学で行方不明とされていた尾庄克朗さんです」

「なんと!あの尾庄克朗さんが!?」

「(そして、尾庄克朗さんはおねえちゃんの結婚相手だった…)」


能美子はただ仕事のためにいっぴーとのデートをキャンセルしたわけではなかった。

あの餅から感じた、まるで死んだはずの自分の姉を前にしたような、それでいて何か別の物のような謎の感覚。

そして、今月の頭にふるさと納税の書類で見た、姉の旦那だった尾庄克朗の名前。

行方をくらました彼がどうして今更ふるさと納税なんかをして居場所が分かるような事をしたのか謎だったが、このためだとしたら。


これは偶然ではない。何かしらの繋がりがある。

能美子はそう推測し、無理を言ってこの対策本部のお茶出し係りを変わってもらったのだ。

そして、あの餅に使われているのが駿東郡小山町で作られた峰の雪もちという情報で推測は確信に変わった。

あれは自分の姉と、尾庄克朗に関係する物だと。


「ふるさと納税の書類に書かれた住所は富士の樹海の側でした。おそらく、尾庄克朗はそこに居ます」


能美子は決意する。

もしも、尾庄克朗がこの災害を起こした理由が自分の推測した通りの理由だとしたら。

その時は、自分が責任を取るしか無い。

それが、残された私に出来る精一杯の償いだと。

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