俺TUEEE!?

どくどく

俺TUEEE!?

「異世界転生して美少女達とハーレムパーティを作りながら俺TUEEEしたい!」

 そして『勇者』は世界に降臨した。


 絹を裂くような悲鳴が上がり、それをかき消すように破壊音が響く。

 街の門が破壊槌により砕かれ、そこから二百を超えるオークの群れが街になだれ込んできた。兵士達は必至に応戦するが、他の場所でも同じようなことが起きているのか、応対する兵士の数は少ない。数に押されるように兵士達は倒れ、そして蹂躙が始まる。

 家は破壊され、隠れている人はオークに連行される。男はその場で殺され、女は引っ立てられる。そのあと何をされるかは、その下卑な表情を見ればいやでも理解できる。


「いや……いやああああああ! 誰か、誰か助けて!」

「叫んでも誰も助けに来ねえよ! ゲヒャヒャ!」


 半日で街は陥落し、街を統治していた支配者とそこを護る兵士達は皆殺された。生きている者は全て奴隷となり、新たな支配者の欲望を満たすために酷使されるだろう。秩序は消え去り、あるのは暴力による支配。

 人々の顔から光が消え、絶望の夜が訪れた。


「じゃあ、お楽しみの時間と行こうか!」

「どの女からヤってやろうか!」


 牢屋の扉が開き、オークたちがやってくる。腰布すらつけていない格好に悲鳴を上げ、これから自分達がどうなるかを理解する女性達。

 そこに――


「そこまでじゃ」

「なんだぁ?」


 静止の声がかかる。予想外の声に振り向くオークたち。

 そこには初老と言ってもいい男が立っていた。顔には皺が刻まれ、白い髭で口元を覆い、その言葉はそこから確かに発されていた。使い込まれた紫のローブに身を包み、手にした杖で体を支えていた。

 

「ジジイ、殺されたいのか? 俺達はこれからお楽しみなんだ。枯れたテメェの出る幕じゃねえんだよ」

「構わねぇ、やっちまえ!」


 老人に殴り掛かるオークたち。

 枯れ木のような老人と、筋力なら人間よりも強いオーク数十名。

 だれもが数秒後に老人が撲殺される光景を想像した。それを見ないように目をつぶり、顔をそむける女性達。

 だが女性達は、そしてオークたちは気付くべきだったのだ。

 警護がいたはずなのに、この老人がどうして牢屋までやってこれたかを。


「がふぅ!」

「何……!?」


 悲鳴は老人のものではなかった。

 女性達が顔をあげると、老人の足元に伏すオーク達。

 時間にすれば三十秒。その間にオーク全てを倒したのだ。


「すまんのぅ。助けに来るのが遅れてしもうた」

「あの……ありがとうございます」

「なに、人として当然のことをしたまでじゃ」


 牢屋の女性達に優しく語り掛ける女性達。その枷を外し、解放していく。


「警護の者はあらかた倒した。逃げるなら今じゃ」

「貴方はどうするのですか?」

「ワシはオークの親玉に会ってくる。兵士達の仇を討たねばならんからな」

「それでしたら――」


 老人の言葉に立ち上がる四人の女性。


「私も同行させてもらえないでしょうか! 神聖騎士パラディンとしてこのような暴挙は許しておけません!」


 金髪碧眼のきりっとした顔立ちだ。オークに最後まで抵抗したことを示す傷痕が痛々しいが、それをおしてでも戦う気概がそこに見えた。元より誰かを護るために戦う気質なのだろう。


「アタシもいくよ! 魔封じの枷を外してくれたんで戦える! 火炎妖精フランベルジュの異名をあいつらに教えてやる!」 


 元気よく赤い髪をした女性が手をあげる。まっすぐに伸びた耳が妖精族であることを示していた。紅玉ルビーのような瞳に闘志を燃やし、強く手を握りしめる。強怒りを示すように炎のようなオーラが湧き出ていた。


「ボクもやるよっ! あんなやつら、二刀幻想舞踏ダンスマカブルで蹴散らしてやる!」


 まだ年端もいかない少女が声をあげる。少年のようにも見えるが、僅かに膨らんだ胸元が女性であることを主張していた。奪われた荷物の中から自分用の短剣を見つけ、元気よく掲げる。


「ミャオーン!」


 開放に喜ぶような鳴声をあげたのは頭からネコミミを生やした女性だ。半人半獣ビーストハーフと呼ばれる種族だ。尻尾を振って助けてくれた老人に近づき、頬を擦りつけるような動作で親愛を示していた。


「うむ、頼もしい援軍じゃ。だが無理は禁物じゃ。オークの親玉は骨砕拳法スマシャと呼ばれる格闘術の伝承者。一軍に匹敵するほどの強さと聞いておる」

「まさかあの魔界拳法の……!」

「ヤツの相手はワシがする。お嬢さんたちには危険じゃからな」

「無理です! いくらご老体が強くても骨砕拳法スマシャ使い相手では! あれは魔族と取引をしたと言われるほどの技。人の身では勝てる者ではない!」

「心配無用。ワシにはこの杖がある」


 老人は自分の持つ杖を見せる。なんの変哲もない木の杖だが、見る人が見ればそこには不思議な力が宿っている様に見える。


「ワシは元々杖術を嗜む者じゃが、この杖を手にしてから力があふれてきたのじゃ」

「まさかそれは女神の加護……!? 『勇者』の力か!」

「ちょっと、『勇者』って世界変革の力の事でしょう! ここではない世界の魂を核にして形成された……それがこの杖に宿ってるの……?」

「すごいや! だったらおじいちゃんは勇者の力を持ってるんだね!」

「みゃみゃー!」

「やもしれぬ。何故『勇者』の力が杖に宿っているかわからぬが。ともあれこれはこの世界を護る神の助け。その恩恵にあずかるとしよう」


 こうして老人と四人の女性達は出会い、そして悪を討つための闘いに赴く。

 数多の闘いを経て五人は魔族の王を討ち、人間の世界に平和をもたらすのだ。

 ――もしパーティの一人に神の声を聴くことが出来るスキルを持つ者がいれば、女神によりこの世界に召喚されたの叫びが聞こえただろう。


「俺、TUEEE!?」

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