Side:Infinity 2 俺たち、似た者同士じゃん
戦況は
降魔師は詠唱を中断させられ、荒く肩で息をしている。サングリアルの少年ルイの火球は堂内で放つには規模が大きすぎた。ダラルード、クラッサス、そして大鎌を振るう義賊の青年ルカは、アテネイの助力もあってなんとか善戦しているが──、無限に湧き出る英雄級の力を持つ戦士たちとの戦いに、疲労の色を隠せないでいる。
戦いの中で身を守るためか、自然と聖堂の中央付近に6人は集まっていた。
「クラさん! ダル! 何か作戦はないのか?」
「おっさん、どうするよ?」
英雄王は、ルカの問いをクラッサスに振る。
「とにかく、この数を何とかせねば──」
と、魔王ハジャイルは楽しそうな声で、王たちを煽った。
「そろそろ、無駄だというのが分かってきた頃かね? よくぞ、各世界の勇者や魔王たちに対してそこまで善戦しているものだと、むしろ感心しているよ。キミたちを殺すのは惜しい気もするが──、だが、いや、そうでもないな? どうせ、“世界書”から呼び出せる、掃いて捨てるほどいる勇者の一部に過ぎぬ」
そしてまた、ハジャイルは数体の戦士を召喚する。
クラッサスが
「くっ。こんなんじゃいつまで経っても終わんないよ」
倒したそばから補充されていく戦士たちを見て、ルカ・イージスがため息を吐いた。
「ダル殿、イージス殿。我輩に考えがある──」
提案された紳士の計画はシンプルだった。
英雄王と義賊が他を抑えている間に、クラッサスがそのスピードに任せて魔王本体を急襲する。
今までにも全員が幾度となく試み、そのたびに無限に湧き出る戦士たちに阻まれ失敗していた作戦だ。それでも、直接魔王を倒すより他に道はない。
「あぁ、やってやる。何度でもな」
対するダラルードの答えもまたシンプルだった。
「ありがたい!」
クラッサスが
ダラルードが剛剣を薙ぎ、数体の仮面戦士を吹き飛ばす。空いたスペースにルカ・イージスが滑り込み、そのスピードを乗せた大鎌の一閃。
──刹那、地表を滑る影のように、クラッサスが駆け出した。
剛剣と大鎌がこじ開けた細い道に、紳士はその長身をねじこみ走る。
「おれも行く! ダル、後ろのみんなを頼む!」
大鎌を片手に、ルカが飛んだ。
正面から魔王の注意を引きつけつつ、周囲の敵を屠っていく。
クラッサスが超スピードで魔王の背後に回り込み、強靭なバネで跳び上がった。
曲刀が首筋に達しようとした寸前──、ハジャイルがぐるりと振り返る。
その手には
「クカカ。余が弱いとでも思っていたのかね? 我が剣〈
ダラルードとも互角か、それ以上の力で、曲刀が弾かれる。
がら空きになった胸部を袈裟斬りにされ、クラッサスは崩れ落ちた。
「クラさん!」
まるで燕のようにルカが飛び、首を叩き落さんと振り下ろされた魔王の剣から紳士を救い出す。
断頭の剣からは逃れられたが、その先にいたのは仮面の戦士たち。斧やこん棒を振り上げる戦士たちの中に突っこむ寸前──、ルカはクラッサスを手放し、両腕で自分の身をかき抱く。
「むぅ! い、イージス殿!」
勢いに任せ、戦士たちの群れを突っ切ったルカ・イージスは、ドームの壁に激突して静止。その全身には無数の打撲痕や切り傷を負っていた。
「ぐっ……正直キツいな……」
瓦礫に体を横たえ、口から垂れた血を拭いながら、義賊の青年が声を漏らす。
その時──、
堂内に、清らかな歌声が響いた。
「な、なんだこの歌声は……? ま、待て、お前ら! 戻るな! 残れ!」
魔王が慌てた声を出す。
仮面の戦士の何割かが、からんと仮面だけを残し、異空間に消えていった。
「これは……ユナの……!」
ずり落ちてくるバンダナもそのままに、ルカが顔を上げる。
瞬間、魔王を砂の弾幕が襲う。
魔王が弾幕に怯んでいるさなか、義賊団の青年は突如現れた銀髪の美女に抱え上げられた。
「くっ! 余の仮面に直接影響を及ぼしているのか! 歌い手は、そこか──!?」
魔王は歌声がしたと思しき場所に、剣を投げる。
一撃で柱が崩れ、壁に大穴が開くが──、そこには誰もいない。
と、
「よぉ。手こずってるか、ダラルード?」
かがり火に照らされ、銀の四肢がなまめかしく輝く。豊かな深みのある金髪をなびかせ、音もなく英雄のそばに降り立っていたのは、サングリアルの賢王──。
「ようやく来たか、ヴラ坊。こっちは先に始めてるぜ!」
ダラルードは彫像のごとく美しい騎士に、一瞥をくれる。
「悪いな。遅くなった」
「いいぜ。──俺は民を100年待たせてしまったことがあるからな!」
「奇遇だな。俺もだ」
「そうなのか? ヴラ坊」
「あぁ。これでも190歳だからな」
と……、ふたりの王は顔を見合わせ笑う。
「なんだ。俺たち、似た者同士じゃん」
「そのようだ」
「おのれ……! よくも我が仮面を……!」
仮面の力に絶対の自信があったのであろう魔王は、その力をわずかなりとも
だが、ハジャイルの言葉など意にも介さず、ヴラマンクはひとつ指を立てる。
「よぉ、あんたが魔王か。どこから声がするかわからないだろう? 俺の力で、声の出所を隠してあるからな」
「貴様……!」
「おい。それより、いいのか? 隠れなくても」
魔王がいぶかしげにヴラマンクを見る。
──その、立てた指の先から、無数の光の線が、聖堂内のあちこちに張り巡らされていた。
「それは、糸──!?」
ハジャイルが驚愕の声を上げた、瞬間──、
ヴラマンクは無数に分かれた糸の先へ、風を送り込む。
途端、堂内に激震が走った。
柱が崩れ、天井が降り注ぐ。何千とあった
壊れゆく聖堂の中央で、ヴラマンクは笑った。
「さぁ、始めようか。第2幕をな」
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