第592話一条の院をば今内裏とぞいふ(3)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


この節回しを帝が御笛でお吹きになられる場合に、高遠様がお側についていて

「もう少し高い音でお吹きください、本人の耳には届きませんから」と申し上げると、いつもの帝は

「さあ、どうしたものだろうか、かなり気を付けて吹いたとしても、聞いているかもしれない」と、音を小さくして吹いておられるのに、今の帝は、あちら側からお越しになり、

「あのすけただは、いなかった。彼がいない間に思いきり吹こう」と仰せになられ、その御言葉通りに、思いきりお吹きになる音色が、とても素晴らしいのです。


清少納言先生:はい、お疲れ様でした。

舞夢    :すけただという人は、かなり騒がしい人だったのでしょうね。

清少納言先生:かなりな無骨者で乱暴者で嫌われておりました。

舞夢    :帝も敬遠するほどの臣下とは、なかなかの人物と思われます。

清少納言先生:まあ、それよりも、彰子様が中宮にお立ちになり、定子様の所へは足が遠くなるはずなのに、こうしてお出ましになられ、面白いことをなされたのが、うれしかったのです。


※長保二年(1000年)道長の娘彰子が中宮として立てられ、定子は皇后となる。

 我が国の旧来の伝統を破った二后並立の時代である。

 その様な中、一条の帝が、古い后である定子に変わらぬ愛情をみせてくれたことが、定子付きの女房である清少納言には、ことのほかうれしかったのだと思う。



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