第524話心にくきもの(8)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


夏であっても、冬であっても、人が着衣を几帳の片方の腕木に掛けて寝ているのを奥の方から突然見てしまった時は、すごく興味をひかれます。

その着衣に染み込ませた薫物の香りは、本当に奥ゆかしいのです。

特に、五月雨の降り続く時期に、中宮様がおられる上の御局の御簾に、斉信様が背を持たれて座っておられたのですが、その後の残り香が、とても素晴らしかったのです。

何を調合した香りなのか、わからないほどでした。

そもそも、雨降りの湿気で、香りがより引き立つことは、よくあるようなことだけれど、どうしてもあの時のうれしさは、言わないではいられません。

翌日まで、その残り香が御簾に残っていたのですが、それを若い女房たちが、この上ないことと感じているのも、いたしかたないことでした。



※心にくきもの(9)に続く。


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