第506話南ならずは東の(1)

清少納言先生:今日は、とある夏の夜のお話です。

舞夢    :了解しました。訳をしてみます。


南向き、あるいはそうでなければ、東向きの廂の間で、物の影が映るほど磨き込んだ板に、真新しい青畳が置いてあります。

三尺の几帳で、帷子のなかなか涼しそうに見えるものを、向う側に押しやると、磨かれた板の間を几帳が滑っていき、予想していた場所より遠くに立っている、その所には、白い生絹の単衣を着て紅の袴をはき、寝具には濃い紅の着物で、まだそれほどには糊気が落ちていないものを、少しだけ上にかけて、女主人が横になっています。

釣り灯籠に火を灯してある場所から、柱の間を二間ほど隔てると、簾を高く上げて女房が二人ぐらい見えます、また、女童が下長押に寄りかかっていますし、おろしてある簾に寄り添って横になっている女房も見えます。

火取り香炉に火をうずめて、ほんのわずかに香をたいている様子は、本当にのどかで、奥ゆかしく感じます。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :なかなか、風雅な場面設定ですね。

清少納言先生:暑い夏の一日をようやく過ごし、やっと一息つける夜です。

舞夢    :火取り香炉は、薫物をくゆらせるための、小型の炉ですね。

清少納言先生:火を深く灰にうめてあるので、炊いた薫香も、ゆっくりと薫りますし、柔らかく香ります。


南ならずは東の(2)に続く。

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