第487話宮にはじめて参りたる頃(10)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


過去において、行幸を見る時などは、自分が乗り込んだ車のほうに、伊周様がほんの少しでも目を向けるようならば、さっと下簾を引き下ろして、そのうえ簾越しの姿だって見えるようではよろしくないと、扇で自分の顔を隠す程だったのです。

そのような私がどういうわけなのか、身の程もわきまえず、こんな高みのところにお仕えにあがったのだろうか、汗も吹き出してくるし、何をどうしていいのかわからない状態なのですから、それで何をお答えできるのでしょうか。

最後の頼みとささげ持っていた扇までも取り上げられてしまって、そうなると髪を振りかけて顔を隠すしか方法がないのです。

その髪の様子にしても、とても恥ずかしいような様子と思うのです。

とにかく、このようなジタバタした私の様子が、しっかり見られてしまうと思って、本当に早く、私から離れて欲しいと思うのですが、伊周様は、私の扇を手に持って遊びながら

「この絵は誰に描かせたのかな」

などとおっしゃられ、なかなかすぐには返してくださりません。

そうなると私は、顔に袖を押し当てて、突っ伏して座っているしかありません。

おそらく、裳や唐衣に白粉がついてしまって、顔そのものも、まだらな肌になっているのだと思います。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :これはこれは、大変な時間ですね。

清少納言先生:ほんと、大パニックです。


宮にはじめて参りたる頃(11)に続く。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る