第439話宰相の中将斉信(8)

源の中将宣方様は、自分自身では斉信様には引けを取らないと思っているので、自分の教養を自慢することを楽しみに、あちらこちらに出かけます。

その宣方様が、私(清少納言)のところにも来て、斉信様のことを話題とします。

私が「『いまだ三十の期におよばず』という詩については、斉信様の吟じ方は他の人の真似が出来ないほどのものです」などと口に出すと、宣方様は気に入らない様子です。

宣方様は

「いやいや、私とて、彼には負けません、彼よりは立派に吟じて見ましょう」

と言い張り、実際に朗吟なされます。

私が、

「それでは、斉信様の足元にも届いておりません」

と言うと

宣方様は

「なんと厳しいおっしゃり方ですね、こうなったら何とかして、彼のように吟じましょう」

と言い出したので、

私は、宣方様のご機嫌をおさめようと思って

「それでも『三十の期』という部分については、本当に好感がもてました」

と、言うのですが、どうにも気に入らない様子です。


※いまだ三十の期におよばず:「本朝文粋」巻一所収の源英明作の「二毛を見る」から。二毛は、黒髪と白髪。「吾年三十五、未だ形体の衰を知らず。今朝、明鏡を懸け、二毛の姿を照らし見る。云々」


宰相の中将斉信(9)に続く。

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