第433話宰相の中将斉信(2)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


御簾の中にいる女房たちや殿方において、私と斉信様との問答の真意がよくわからないらしいというのは、当たり前のことなのです。

そもそも、この問答の発端となったのは、四月の初め頃のことになります。

細殿の四番目の戸口に、殿上人が何人か立っておられましたが、少しずつ人が減り、音もなく帰られてしまって、頭の中将と源の中将と六位の君が一人残りました。

よもやま話をしたり、お経を読んだり、歌を詠んだりしてたのですが、誰とはなしに「夜もしっかり明けました、そろそろ帰りましょう」ということになり、「露は別れの涙なるべし」という詩句を、頭の中将が吟じられると、源の中将も声を合わせて、素晴らしく上手に吟ぜられます。

その時に私(清少納言)が、

「七夕には少し早すぎるのでは」

と声をかけたところ、頭の中将は本当に悔しがって、

「今はただ、暁の別れということだけを思いついて、そのまま口に出しただけなのです」

「こんな切り返しをされるとは、予想をしていませんでした」

「そもそも、清少納言様の前で、中途半端に詩歌を吟じてしまって、悔しくて仕方がありません」などと言って、しばらく笑っているのです。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :さて、「露は別れの涙なるべし」とは?

清少納言先生:和漢朗詠集の菅原道真様の七夕詩からです。「露はまさに別れの涙なるべし、珠空しく落ち、雲は是残粧、髻は未だ成らず」

舞夢    :さすが、道真様の歌を思い出したのですね。

清少納言先生:はい、その通りです。


宰相の中将斉信(3)に続く。

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