第360話五月ばかり、月もなういと暗きに(1)
清少納言先生:今日はとある五月の夜のお話です。
舞夢 ;了解しました。訳をしてみます。
五月の頃でしたか、月が出なくて真っ暗な夜に、殿上人でしょうか、
「女房はいらっしゃいますか」
と声々に言ってくるので
中宮様が
「出て見てください、珍しくそんなことを言ってくるのは、誰なのでしょう」
と、おっしゃられるので
私(清少納言)も
「これはどちら様ですか、本当に騒がしくてうるさい声は」
と声の主に返したのです。
すると、何も言い返してくる声はなく、そのまま御簾を持ち上げられて、カサカサと音を立てて、なんと呉竹が差し入れられたのです。
私が
「あれあれ、この君でしたのですか」
と言ったのを聞いて、殿上人たちが
「さてさて、この問答を殿上の間の話題としよう」と言い、式部卿の宮の源の中将や六位の蔵人もそこにおられたのですが、いなくなってしまいました。
清少納言先生:はい、そこまで。
舞夢 :呉竹から、「この君」になった謂れとは?
清少納言先生:はい、「普書」の王羲之伝に「嘗て空宅の中に寄居し、すなわち竹を植えしむ。ある人、その謂れを問う。羲之但嘯詠して竹を指して曰く 何ぞ一日此の君無かる可けむや」からです。
舞夢 :呉竹から、その話を思い出して、それが殿上人に伝わったのですね。
清少納言先生:そうですね、名前を聞いて呉竹が差し込まれてくれば。
双方に漢詩などの教養と理解がないと成り立たない話、
この当意即妙さが、清少納言の真骨頂になる。
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