第279話淑景舎、東宮に(7)

淑景舎の御方にも、お食事を差し上げます。

関白道隆殿が

「ほんとうに、うらやましいことです。お二方のお食事は、全て滞りなく差し上げたようです。早くお召し上がりになられて、私ども老人に、余り物でもいただけないでしょうか」

などと、冗談を言い続けていると、伊周大納言様と隆家三位中将が松君を連れていらっしゃいました。

関白殿が早速松君を抱き寄せ、膝にお乗せになっておられる様子が、本当に可愛らしく見えます。

狭い縁ではありますが、それが埋まってしまうほど、束帯姿の下襲の裾が広がったままになっています。

さて、大納言様は重々しいながらも、すっきりとした雰囲気もあります。

また、中将様は、本当に頭の回転が良さそうな雰囲気です。

ご一家が、それぞれご立派な様子を拝見しているのですが、それでも関白殿と御子息の様子は、これ以上のものはないと、思われるほどです。

つくづく、北の方の御宿命の素晴らしさは、素晴らしいものと思うのです。

関白殿から

「御円座を」と御着座を勧められたのですが、二人とも

「陣の座に出るので」

ということで、大急ぎで立ち去っていきました。


※陣の座:公事を打ち合わせるために、上達部などが集まる近衛の詰め所。


淑景舎、東宮に(8)に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る