第280話淑景舎、東宮に(8)

少し時間がたった後、式部丞某が帝のお使いとして、中宮様の御前に参上されました。

配膳室の北側に寄った場所に、褥を差し出して着席をお願いします。

帝へのお返事は、今日は早速お渡しになります。

すると、まだその褥を元の位置に戻す前に、今度は春宮から淑景舎へのお使いとして、周頼の少将が参上されました。

淑景舎の座っておられる方の渡殿は、縁が狭いので、こちらの建物の縁に褥を差し出します。

その御手紙を受取り、関白殿、北の方、中宮様が、一文字も見逃さずご覧になります。

関白殿は

「お返事を早く」と申し上げるのですが、そのお言葉があっても、すぐにお返事をお書きにならないので

関白殿は

「この私がいるので、お書きにならないのですか。私がいないと、こちらのほうから絶え間なくお便りされているようですね」と申し上げるのです。

淑景舎は、そのお顔を少し赤らめて微笑まれます。

この御姿が、本当に可愛らしいのです。


淑景舎、東宮に(9)に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る