第175話頭の中将のすずろなるそら言を聞きて(4)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


先ほどと変わらず、女房たちが何やら話をしているのを聞いていると、主殿司斉信がすぐに引き返してきました。

主殿司は「頭の中将様が、すぐにお返事をいただけないのであれば、渡した手紙を返してほしいとのことです、だから早く、早く返していただきたいのです」と言うのです。

私としても、これは変だと思いました。

もしかして伊勢物語かなと思ってみると、青い薄様紙に美しく字が書いてあります。

ただ、胸をときめかせて書くような感じではありません。


「蘭省花時錦帳下」


と書いてあって、「この先はどうなるのですか?どうなるのですか?」とも書いてあります。

中宮様が、ここにおられるのなら、必ずお見せしたいところですが、私も「これに続く句を知っています」と自慢顔で下手な漢字を書き連ねるのも、「まあ、恥ずかしいような気持」がします。

そうはいっても、ためらっていると急き立ててくるのでしかたなく、

ただ、「蘭省」の後に炭櫃の中にあった消し炭で


「草の庵を誰かたずねん」


と書いて渡しましたけれど、先方からのお返事は、重ねてはない様子。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :伊勢物語という発想は?

清少納言先生:使いの者が急き立ててくるので、「いせ物語」かなあと、それにしては色気も何もなくてね。

舞夢    :「いせ」は「いそいで」のシャレですか。それにしては文面が全くお洒落ではない漢文と。

清少納言先生:「蘭省花時錦帳下」は、あの当時知られていた白氏文集の中にあり、「草の庵を誰かたずねん」と返しました。


頭の中納言も清少納言先生の漢学の知識には、一目置いていたようだ。

まあ、気になって仕方がないから、素知らぬフリをしていたのだろうか。


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