第13話上にさぶらふ猫は(2)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :それでは続けます。


私(清少納言)は

「ほんとうに可哀そうです、今までは威張ったような様子で、堂々と歩いていたのに」

「三月三日には、頭の弁が柳を頭に飾らせ、桃の花をかんざしにささせ、桜を腰にさしたり、本当にお洒落して、練り歩いた時もありましたのにねえ・・・まさか、こんなことになるとは思いもしなかっただろうに」と同情する。

他の女房たちと

「定子様のお食事の時だって、必ずこちらを向いて大人しくかしこまっていたのに、いなくなると寂しい」などと噂をして、三、四日たったお昼頃のことです。


犬の激しく鳴く声が聞こえてきたので、一体どうしてこれほど鳴き続けるのかと思っていました。そうしたら、そこらにいた他の犬たちも、全部様子を見ようと駆けていくのです。


そうこうしているうちに、御厠人の女が走ってきました。

「ねえ、大変です、犬を蔵人二人が打っていらっしゃる、あんな打ち方ですと死んでしまいます、流罪の犬が戻って来たので、懲らしめていらっしゃいます」と言う。

本当に可哀そうなこと、あの鳴き声は、やはり翁丸でした。

「忠隆、実房たちが打っている」と言うので、止めにその女を遣わしました。

そのうちに、ようやく鳴き声が止み、使いにやった女から

「死んでしまったので、御門の外に放り捨てました」と報告がありました。


本当に、むごいことをと、皆で話しておりましたその夕方、散々に膨れ上がり、ボロボロになった犬が震えて御門の周りをうろついておりました。


私が、「翁丸かしら、最近、こんな犬がうろついておりましたかしら」と言ったところ、他の誰かが「翁丸」と声をかけました。

しかし、見向きもしません。

「やはり翁丸よね」と言う女房もあれば、「いや、違いますよ」と言う者もあり、なかなか話がまとまらない。

定子様が「右近なら見分けがつくかしら、右近を呼びなさい」という事で、お召しになりました。


定子様が「これは翁丸ですか」と、その犬をお見せになると、

右近は「いや、似てはおりますが、あまりにもみすぼらしすぎます。それに翁丸と名を呼べば、喜んで飛んで参りましょう、しかし呼んでもそばに来ません、どうやら違う犬なのでは。翁丸はもう、打ち殺したと、他の人が申しておりましたよ、大の男が二人がかりで打ったのですから、とても生きてはいないでしょう」などと申し上げるので、

定子様は、眉をひそめ、「なんとひどいことを」と、お思いのご様子です。


清少納言先生:・・・ねえ、ひどいでしょ、可哀そうなんてもんじゃない。

舞夢    :あまりにもねえ、こんなことが宮中でねえ・・・

清少納言先生:まだ、続きがあります。

舞夢    :なかなか、闇が深そうですね。


清少納言先生は、それには答えなかった。

かなり、物思いに沈んでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る