第6話中宮定子の出産と行啓(2)

清少納言先生:はい、昨日の続きです。

舞夢    :そのまま、現代語訳を続けます。


中宮様の御前に参上して、ことの次第を申し上げたところ

宮様は、「ここでだって、人に見られないなどということはありませんよ」

「どうして、そんな油断をされたのですか?」とお笑いになる。


 私(清少納言)は

「さすが、中宮様、それはその通りなんですが・・・」

「わたくし達が飾り立てていない姿は皆様見慣れておいでなので」

「それなのにきちんと身繕いして牛車から出てきたら、えって驚く方もいらっしゃい

ましょう」

「それにしても、これほどの家に車も入れないような門があるなんて・・・」

「生昌が顔を見せたら笑ってやりましょう」

などとお話ししていると、ちょうどよく、生昌がやってきました。


生昌は、「これを中宮様に差し上げてくださいませ」と、硯箱のふたに載せた果物を簾の下から差し入れてきました。

私は、「生昌様は、どうしてあんな小さな門なんか造って住んでらっしゃるの?」と

言ったところ、

すると生昌は笑いながら

「家の程度、身分の程度に合わせて造って住んでいいます」と答えてきます。


それでも私が納得できないので

「でも門だけ高く造った方もいたのでは」とわたくしが言うと、

生昌は、「これはさすがですね。その話は于定国の故事ですね、でも、それはかなり漢学を勉強しないとわからない話、たまたま私は漢学の道に入っておりましたので何とかです」

さらりと言い返してくる。

 

どうにも気に入らないので、

「漢学の道とおっしゃいますが、あなたの、その道も大した道ではないですね」

「筵で道を作ってありましたが、皆、筵の下のぬかるみに落ちて大騒ぎしでした」

と言い返したところ、


生昌は

「雨が降りましたしね、なるほど、そういうこともあったでしょう」

「いやいや、またいじめられてはかなわない、ここらで退散いたします」

と立ち去りました。


そんなやり取りを聞いていた中宮様が

「一体どうなさったの?生昌がひどく怖がっていたようだけど」

とお尋ねあそばせる。


私は

「いいえ何も、ただ、車が入れなかったことをお話していたのです」

と申し上げ、局に下がりました。



清少納言先生:まあ、だいたい、そんなことを言い交わしたんですよ。

舞夢    :割と生々しい会話ですが、ちょっと、成昌さんが、可哀そう。

清少納言先生:そんなこと・・・あるかなあ・・・

舞夢    :道長様政権下で無理してこんな難しい役を引き受けてもらったのに。

清少納言先生:遊んだだけです。あくまでも政治以外の話でね。

舞夢    :それなら、納得します。

清少納言先生:そんなことでも言わないと、悔しくてね。


清少納言先生の顔は、少し沈んでいた。


※于定国の故事

「漢書」に見える故事。前漢の干定国の父干公が、家を修築した際に、門を大きく造り、自分の子孫に必ず最高権力者になる者が出るだろうと言ったところ、確かに子供の干定国が宰相となり、子孫も世に栄えたという。

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